姓は「矢代」で固定
第二話 はじめてのお仕事
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***
「それ、太刀となんか違いますよね」
山崎さんが腰に差した刀を指差す。
お陰様で太刀というものに見慣れてきたので、それの形状に違和感があった。
「そうだ。忍刀は反りがないし、長脇差し程度の長さしかない。だが、隠密に動く場合の機能性には優れている」
「…背中に背負う?」
「俺はあまり好まないが、背負えないこともない。…知ってるのか?」
わお、まじか。カッケェ
勿論、時代劇とかではなく、某忍者マンガのイメージだが、「知識としては」と頷く。
『大太刀』と云うでっかい刀は背負うらしいが、私的には『背負う刀』といえば、そっちのオレンジ頭。
山崎がスラリとそれを抜くと、姿を現す刀身。
「広い…?」
「刃が太刀と比べると、幅広に作られている。刀としての切断力は劣るが、俺達の仕事は斬り合うことが目的ではないからな」
「…なるほど、いざってときの護身用ですか」
「それもあるが……矢代君、君はあそこの塀の上に登れるか?」
「…塀?」
山崎が指差した屯所の土塀。場所を選べばそんなに高くはなく、腕を伸ばして跳べば、十分に瓦に手が届く。
「…ちょっとやってみます」
近づいてみるものの、塀に足をかけられるような穴は無く、とりあえずピョンと跳ねて、塀の上の瓦を掴む。
「ふっ!」
懸垂。一瞬、塀の向こうが見えた。
「うーん…」
掴み方が悪い気がする。握力が続かない。
しかし一度下りて掴み直しを試みるも、掴めそうなところは他になかった。
ダッガガッ
壁を脚で蹴り上げて見るも、特にできることはなかった。ぶらーんと、無気力にぶら下がる。
できると思ったんだけどなー……
「…それで上がるか?」
「うーん…」
高さはそんなに無いのだが、真っ直ぐに立つ壁を登るのは、案外難しいらしい。
木登りとかなら得意なんだけど…
「…あ! 分かった!」
一度気合を入れて、懸垂しながら右脚を振り上げると、踵が瓦にかかった。よし、体は柔らかい方なん……やっべ股関節ハズれそう。
「せぃあ!!」
力の限り勢いをつけて上がり、ガッと右手で塀の奥側を掴む。前のめりに上体が上がった時に、顎を瓦で打った。
顔を顰めつつも、右膝から這い上がるようにして、ズリズリと体全体を引き上げる。
「…よしっ! できました!!」
「…そうだな」
ドスッ
山崎は手に持った忍刀を、塀にほど近い地面に突き刺した。それで刀が独り立ちしたのに、弥月は目を見張る。
まさか、鞘がついたまま刺さるとは思わなかった。
鞘尻が割りと尖っていたのは、てっきり只のデザインかと思いきや……だが鞘も凶器なら、鞘の意味。
「少し離れてくれ」
塀の上の弥月を見上げて、山崎が手を横に振るので、膝で移動する。
彼は掴んだ下げ緒を口にくわえた。三尺は優にある異様に長い下げ緒の存在は、弥月も気になっていた。
弥月が首を傾げたところで、山崎は壁に手を付く。それから刀の鍔に片足を掛け、一瞬、そこだけを足場に刀に乗った。両手の平を塀の上に付き、腕でふわりと身体を浮かせて、難なく両膝を瓦に乗せる。
その間、彼が物音を立てることはなかった。
山崎は口から下げ緒を放す。
「このように」
「―――っすっごい…! 凄いスゴイすごい!!! 超スマート、めっちゃ格好良い! やっばいすっご―――い!!」
力の限り大きく手を叩く。
烝さんって、マジ忍者だったんだ…!
ごめんなさい、針医者とか言うから、ちょっと鍼灸整骨院とか思ってたよ。次男坊が武士に憧れて、どこで道をまちがったかコスプレに走ったのかと思ってた!!
この人影薄いから忍者なんじゃなくて、バリバリ運動できる人じゃん! すっごいビックリ!!
「すごくないですか!? フワッて上がりましたよ、フワッて!!」
「…ゴホン……それからこうする。」
一つ咳払いをした彼は、その長い下げ緒をクッと引く。すると、地面から抜けた刀は、難なく彼の手元へと返っていった。
「―――ッすっごおおぉぉぉい、画期的!!!天才! 超賢くないですか、それ!!」
両拳を揺らして、大興奮。弥月は目を見開き、キラキラとした笑顔を見せた。
山崎は頷きながら「このように使うこともできる」と言い、地面に飛び降りる。それに弥月も続いた。
「他にもこの鞘尻は取り外しができて、薬を入れたりもできる」
「ほ――…よくできてるなぁ…!」
感心しきった様子で、山崎の手元を除く弥月。
山崎の声は、その口元とともに緩んでいた。
「普通の太刀にも鍔はあるが、幅が狭くてやり辛い」
「…ふぅん…いいなー…」
「やってみるか?」
「え、良いんですか?」
「構わない。君なら楽にできるだろうし、できるようになれば大いに役に立つ」
山崎は忍刀を手渡す。
いかに素早く体重を地面から刀、刀から屋根へと移動させるか。数回練習しただけだったが、山崎の見立て通り、早々に弥月は自分のものにすることができた。
彼に「流石だな」と褒められて、弥月は得意げに笑った。
「これ、私の刀でもできますよね」
「あぁ、できないこともない。ただ、例え下げ緒の代わりに、環に細工するとかにしても、君の太刀は反りも深いし、鍔の装飾性も高いから、あまり土台に使うには勧めないな」
「…うーん……まあ、あんま壊したくないし、非常時だけにします」
これに関しては、今後弥月が監察方になる可能性も考えて、忍刀の予備を仕入れておくという話でまとまった。
「次は手裏剣術の練習だ。これは腕を磨けば、簡易に持ち歩ける飛び道具として、いざというときに役に立つ」
カチャリと硬い金属音を立てた、様々な形の手裏剣。
見た目はまあ二次元とそう代わり無いが、やはり実際持つと案外重さがある。
弥月はその暗器たちを睨み付けた。
…そう、これは投げるもの
これを真っ直ぐ飛ばすには、それなりの腕力か必要だろう。開いた穴に指を通して、クルクルと回しながら、その形状を確かめる。
「――こんだよなぁ…」
「…おこん?」
私かボソリと呟いた言葉を、問い返される。
「いえ、なんでも無いでぇす」
「…そうか? なら、説明する」
握り方から始まり、基本の投げ方を教わる。
飛び道具として、一発で相手を仕留めなければいけないものらしく、見切られればそれまでだが、当たれば大きいらしい。
「それじゃあ、あの木を人に見立てて……ここが頭だと思って投げてくれ」
それに返事をして、山崎が離れるのを待ってから、手裏剣を振りかぶる。
せーのっ!
ピュッ…パサッ
ピュッ…カッ
ピュッ…バサッ
第一投、右へ大きく外れ
第二投、幹の左をかすり
第三投、再び右方へ飛んでいった
「…外れたな」
「…そうですね」
「もう少し近づいてみるか」
「そうしましょう」
カッ…ガッ
第四投、右辺をかすり
第五投、ど真ん中に当たる
「よしっ!」
グッと拳を握る。
山崎は横で一つ頷いた。
ヒュッ…
「…」
「…」
第六投、右側明後日の方向へ
「……なんか、すいません…」
「…いや……これも練習次第だからな…」
…苦手なんです、物投げるの…
もう数投放ってみたが、どうにも五本に一二本程度、偶然でしかまともに当たらず。弥月はへらへら笑いながらも、心の中では恥ずかしさにひぃひぃ言った。
烝さんの残念なものを見る顔が辛かった。
「…わかった、これは長期的な訓練を積もう……今回はこっちの方が向いてるな」
弥月はその言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
そして次に出されたのは、これまた見知った苦無と鎌。
…鎌?
「鎌ですか?」
「これを巻いて使う」
ジャラリと重たい金属音を鳴らしたのは、長く連なる鎖。
…ちょっと待って、今どこから出したの?
あくまで山崎は黒装束でなく、屯所内仕様の羽織っぽい着物である。上手く言葉で説明できないが、緑のそれに黒の袴だ。
変な形だと前々から思っていたが、中に暗器を隠すためのものだとは、今日の今日まで思っていなかった。
…だって手裏剣やら苦無は良いにしても、鎖や鎌がズルズルと服の下から出されるって、どういうこと? その中、四次元なの? それも忍者スキルなの?
弥月はものすごく変な顔をしていたのだが、山崎は鎖鎌の使い方を説明していて、それに気づいてはいなかった。
「苦無は小太刀のようなものと思ってくれて構わない。侵入の時に、壁に刺して足場にする以外は、接近戦に使う事が多い。ここに縄を付けて振り回すこともできる」
今度は太い縄が袖の下からスルスルと出てくるのに、弥月は若干ヒいていた。
「それ、太刀となんか違いますよね」
山崎さんが腰に差した刀を指差す。
お陰様で太刀というものに見慣れてきたので、それの形状に違和感があった。
「そうだ。忍刀は反りがないし、長脇差し程度の長さしかない。だが、隠密に動く場合の機能性には優れている」
「…背中に背負う?」
「俺はあまり好まないが、背負えないこともない。…知ってるのか?」
わお、まじか。カッケェ
勿論、時代劇とかではなく、某忍者マンガのイメージだが、「知識としては」と頷く。
『大太刀』と云うでっかい刀は背負うらしいが、私的には『背負う刀』といえば、そっちのオレンジ頭。
山崎がスラリとそれを抜くと、姿を現す刀身。
「広い…?」
「刃が太刀と比べると、幅広に作られている。刀としての切断力は劣るが、俺達の仕事は斬り合うことが目的ではないからな」
「…なるほど、いざってときの護身用ですか」
「それもあるが……矢代君、君はあそこの塀の上に登れるか?」
「…塀?」
山崎が指差した屯所の土塀。場所を選べばそんなに高くはなく、腕を伸ばして跳べば、十分に瓦に手が届く。
「…ちょっとやってみます」
近づいてみるものの、塀に足をかけられるような穴は無く、とりあえずピョンと跳ねて、塀の上の瓦を掴む。
「ふっ!」
懸垂。一瞬、塀の向こうが見えた。
「うーん…」
掴み方が悪い気がする。握力が続かない。
しかし一度下りて掴み直しを試みるも、掴めそうなところは他になかった。
ダッガガッ
壁を脚で蹴り上げて見るも、特にできることはなかった。ぶらーんと、無気力にぶら下がる。
できると思ったんだけどなー……
「…それで上がるか?」
「うーん…」
高さはそんなに無いのだが、真っ直ぐに立つ壁を登るのは、案外難しいらしい。
木登りとかなら得意なんだけど…
「…あ! 分かった!」
一度気合を入れて、懸垂しながら右脚を振り上げると、踵が瓦にかかった。よし、体は柔らかい方なん……やっべ股関節ハズれそう。
「せぃあ!!」
力の限り勢いをつけて上がり、ガッと右手で塀の奥側を掴む。前のめりに上体が上がった時に、顎を瓦で打った。
顔を顰めつつも、右膝から這い上がるようにして、ズリズリと体全体を引き上げる。
「…よしっ! できました!!」
「…そうだな」
ドスッ
山崎は手に持った忍刀を、塀にほど近い地面に突き刺した。それで刀が独り立ちしたのに、弥月は目を見張る。
まさか、鞘がついたまま刺さるとは思わなかった。
鞘尻が割りと尖っていたのは、てっきり只のデザインかと思いきや……だが鞘も凶器なら、鞘の意味。
「少し離れてくれ」
塀の上の弥月を見上げて、山崎が手を横に振るので、膝で移動する。
彼は掴んだ下げ緒を口にくわえた。三尺は優にある異様に長い下げ緒の存在は、弥月も気になっていた。
弥月が首を傾げたところで、山崎は壁に手を付く。それから刀の鍔に片足を掛け、一瞬、そこだけを足場に刀に乗った。両手の平を塀の上に付き、腕でふわりと身体を浮かせて、難なく両膝を瓦に乗せる。
その間、彼が物音を立てることはなかった。
山崎は口から下げ緒を放す。
「このように」
「―――っすっごい…! 凄いスゴイすごい!!! 超スマート、めっちゃ格好良い! やっばいすっご―――い!!」
力の限り大きく手を叩く。
烝さんって、マジ忍者だったんだ…!
ごめんなさい、針医者とか言うから、ちょっと鍼灸整骨院とか思ってたよ。次男坊が武士に憧れて、どこで道をまちがったかコスプレに走ったのかと思ってた!!
この人影薄いから忍者なんじゃなくて、バリバリ運動できる人じゃん! すっごいビックリ!!
「すごくないですか!? フワッて上がりましたよ、フワッて!!」
「…ゴホン……それからこうする。」
一つ咳払いをした彼は、その長い下げ緒をクッと引く。すると、地面から抜けた刀は、難なく彼の手元へと返っていった。
「―――ッすっごおおぉぉぉい、画期的!!!天才! 超賢くないですか、それ!!」
両拳を揺らして、大興奮。弥月は目を見開き、キラキラとした笑顔を見せた。
山崎は頷きながら「このように使うこともできる」と言い、地面に飛び降りる。それに弥月も続いた。
「他にもこの鞘尻は取り外しができて、薬を入れたりもできる」
「ほ――…よくできてるなぁ…!」
感心しきった様子で、山崎の手元を除く弥月。
山崎の声は、その口元とともに緩んでいた。
「普通の太刀にも鍔はあるが、幅が狭くてやり辛い」
「…ふぅん…いいなー…」
「やってみるか?」
「え、良いんですか?」
「構わない。君なら楽にできるだろうし、できるようになれば大いに役に立つ」
山崎は忍刀を手渡す。
いかに素早く体重を地面から刀、刀から屋根へと移動させるか。数回練習しただけだったが、山崎の見立て通り、早々に弥月は自分のものにすることができた。
彼に「流石だな」と褒められて、弥月は得意げに笑った。
「これ、私の刀でもできますよね」
「あぁ、できないこともない。ただ、例え下げ緒の代わりに、環に細工するとかにしても、君の太刀は反りも深いし、鍔の装飾性も高いから、あまり土台に使うには勧めないな」
「…うーん……まあ、あんま壊したくないし、非常時だけにします」
これに関しては、今後弥月が監察方になる可能性も考えて、忍刀の予備を仕入れておくという話でまとまった。
「次は手裏剣術の練習だ。これは腕を磨けば、簡易に持ち歩ける飛び道具として、いざというときに役に立つ」
カチャリと硬い金属音を立てた、様々な形の手裏剣。
見た目はまあ二次元とそう代わり無いが、やはり実際持つと案外重さがある。
弥月はその暗器たちを睨み付けた。
…そう、これは投げるもの
これを真っ直ぐ飛ばすには、それなりの腕力か必要だろう。開いた穴に指を通して、クルクルと回しながら、その形状を確かめる。
「――こんだよなぁ…」
「…おこん?」
私かボソリと呟いた言葉を、問い返される。
「いえ、なんでも無いでぇす」
「…そうか? なら、説明する」
握り方から始まり、基本の投げ方を教わる。
飛び道具として、一発で相手を仕留めなければいけないものらしく、見切られればそれまでだが、当たれば大きいらしい。
「それじゃあ、あの木を人に見立てて……ここが頭だと思って投げてくれ」
それに返事をして、山崎が離れるのを待ってから、手裏剣を振りかぶる。
せーのっ!
ピュッ…パサッ
ピュッ…カッ
ピュッ…バサッ
第一投、右へ大きく外れ
第二投、幹の左をかすり
第三投、再び右方へ飛んでいった
「…外れたな」
「…そうですね」
「もう少し近づいてみるか」
「そうしましょう」
カッ…ガッ
第四投、右辺をかすり
第五投、ど真ん中に当たる
「よしっ!」
グッと拳を握る。
山崎は横で一つ頷いた。
ヒュッ…
「…」
「…」
第六投、右側明後日の方向へ
「……なんか、すいません…」
「…いや……これも練習次第だからな…」
…苦手なんです、物投げるの…
もう数投放ってみたが、どうにも五本に一二本程度、偶然でしかまともに当たらず。弥月はへらへら笑いながらも、心の中では恥ずかしさにひぃひぃ言った。
烝さんの残念なものを見る顔が辛かった。
「…わかった、これは長期的な訓練を積もう……今回はこっちの方が向いてるな」
弥月はその言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
そして次に出されたのは、これまた見知った苦無と鎌。
…鎌?
「鎌ですか?」
「これを巻いて使う」
ジャラリと重たい金属音を鳴らしたのは、長く連なる鎖。
…ちょっと待って、今どこから出したの?
あくまで山崎は黒装束でなく、屯所内仕様の羽織っぽい着物である。上手く言葉で説明できないが、緑のそれに黒の袴だ。
変な形だと前々から思っていたが、中に暗器を隠すためのものだとは、今日の今日まで思っていなかった。
…だって手裏剣やら苦無は良いにしても、鎖や鎌がズルズルと服の下から出されるって、どういうこと? その中、四次元なの? それも忍者スキルなの?
弥月はものすごく変な顔をしていたのだが、山崎は鎖鎌の使い方を説明していて、それに気づいてはいなかった。
「苦無は小太刀のようなものと思ってくれて構わない。侵入の時に、壁に刺して足場にする以外は、接近戦に使う事が多い。ここに縄を付けて振り回すこともできる」
今度は太い縄が袖の下からスルスルと出てくるのに、弥月は若干ヒいていた。