姓は「矢代」で固定
第十二章 歪な情誼
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弥月はすぐに治療室を後にした。
あそこに居てはいけない
きっと誰も私を責めない
彼の死を悲しめば、誰かに慰められる
慰められてはいけない
慰められるべきじゃない
最初は普通に歩いた。けれど、いつの間にか訳も分からず、屯所を出てただ走っていた。
走って、走って、宛の無い行き先を求めた。
鼻の奥と目頭が熱くなって、じわりと眼球を潤すものを感じる。
泣くな、泣くな、泣くな
【池田屋】で、誰かが死ぬことなんて分かりきったことだった。
分かっていて参戦したし、人が、仲間が死ぬのを見るのは初めてじゃない。ただ、安藤さんが他の人より少しばかり、自分に好くしてくれた人だっただけだ。
これは芹沢さんの時と同じ、決まった死
それを私は望んだ
閉じてしまいたい瞳に力を入れて、奥歯を強く噛んだ。唇を結んで、泣き叫びそうになる自分を制した。
彼の死から目を逸らすことは許されないのだと、私は分かっていた。
池田屋と分かっていて、何も言わなかった
そこで誰かが、仲間が死ぬと分かっていた
それは見殺しにしたのと、どう違うのだろう
私が殺したのと、どう違うのだろう
私がここに留まる限り、この悲劇は永遠に続いていくのだと、心に刻むことが私の義務だ。
新選組が、仲間が辿り着く先を知っていながら、何も変えるつもりはないことの罪深さを……彼らの横で笑っていられた罪深さを、今一度、思い知るべきなんだと。
刻め、と
保身のために仲間を見殺しにした、自分の醜さを
私がこの結果を望んだのだから
望んだのだから
「…いや、だ」
嫌だ
そんなこと 望んでない
私は仲間を何人殺したか
私はこれから何人殺すのか
誰を殺すか 誰を見殺しにするか
いやだ
選びたくない
…
でも、最後はみんな死んでしまうのだから、同じでしょう?
誰が死んだって、同じでしょう?
烝さんや斎藤さんが、山南さんや近藤さんが、いつか目の前で死んだって
…
明日 転がる首 は だれのもの?
…
もう見たくない
もう進みたくない
気持ちと足が合わなくて、前のめりに転んだ。その拍子に、膝の布が擦り切れて、血が滲む。
その痛みを一瞥して、こんなくだらない事を気にした自分が恥ずかしかった。
もう 誰の死も望みたくない
いつか私はこの選択肢を選ぶだろうと思っていた。
ずっとこれを選びたいと、楽になりたいと、心のどこかで思っていた。
シャッ
「帰してよ、神様」
でも もう いないものには縋らない
刀を逆さに持ち、自分の首にあてがう。
怖い、と思ったけれど、こんな時ばかり、努めれば心を殺せる自分で良かったと思う。一度深く呼吸して、震える手にグッと力を入れた。
うっすらと瞼を開いて、堀川の向こうの焼けた街の景色を見る。わずかに微笑んで、ゆっくりと目を閉じた。
次に目を開けたら、元の世界が見えたらいいな
ぷつんと皮膚が斬れる感覚。首にそれが走った。
それから、身体の内から温かに吹き出すものを感じて、終わりを覚った。