姓は「矢代」で固定
第二話 はじめてのお仕事
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弥月side
誰かの優しさを受け取るたびに、自分がここに雁字搦(がんじがら)めになっていることを、少なからず自覚していた。
他人に信頼されて、今の私の立場があると知っていた。
ただ、私は『生きて帰る』こと、そして『未来を変えない』と決めている。だから、仲間として私を信頼する彼らを裏切ることも、最悪の場合は厭(いと)わないつもりだった。
だけど…
私は、左之さんにそれを糾弾(きゅうだん)されて、耐えうる人間ではなかった。
生きていくためには、誰かと助け合うしかないし、その時には相手にも必要とされていたい。
彼らに比べて、中途半端な覚悟しかなかった
それでも、今ここで私に何ができるのか
「…与えられた選択肢として、監察のことを知った上で、自分がどこに居れば良いのか、考えさせて欲しいんです……お願いします」
中途半端と分かっていて臨むなんて、危険なことと身を持って知った。
だけど、怒られても構わない。彼にしか頼めない。
「…自分の身は自分で守れなければ……その上で、仲間を守るための覚悟がなければ、監察は務まらない」
山崎の言葉は、弥月の中に重く響いた。
何も守れなかった事実がある。
『斬れんのならば、ここには要らん』と言われても、ここに残る道を選んだのに、未だ、状況の変化に対応できていなかった自分に気付いて後悔した。
最高は義を尽くすこと。
信頼を寄せてくれた仲間を守ることは正義。そして、隊士として死番を任されたのに、刀を抜かなかった自分は、責任という義務を放棄していた。そして気づいた。
抜かなかったのは、信念があったからなんかじゃない
必要な時に、臆病風に吹かれた。委縮して優先順位が分からなくなった。
だけど、次は守る。自分も、仲間も
「俺は君の剣技に対する努力に関しては、信頼している」
その言葉に少し驚き、嬉しくなるも、弥月は「それだけで終わってはいけない」と自分を叱咤する。
山崎さんには多大とも言える恩義がある。彼の気遣いに助けられてここまで来た。それに、彼の仕事に対する姿勢を信頼してるのは自分も同じである。
ならば彼に失望されないように、精一杯の努力が必要だ。
「君がどんな時も俺の指示を違(たが)えることなく、仲間のために全力を尽くすと誓えるならば、君を連れて行こう。…約束、できるか」
今回だけは何があっても、彼の信頼を裏切りたくはない。
生きている、ここで。私も、彼も
ならば、人として彼に誠実でありたい
弥月が意を決して返事をすると、山崎はそれを了承し、弥月は深い謝意を示した。
思い返せば、今まで刀を交えた敵は、物取りとか喧嘩のついでとか、勢いで刃向かってきた奴らばかりだった。最初から命を棄てる覚悟の敵はいなかった。
そんな人達を殺さずに捕まえるのが、どれほど難しいことか。
死んだ楠の血でできた染(し)み。さっきまでの仲間だった彼が、こんなに呆気なく殺されるのかと、何とも言えない気持ちになった。
だからこそ、自分が生き残ることに、貪欲にならなければいけないのだと感じた。
私は…
横に置いていた刀に手を掛ける。
きっとこの太刀のせいで、こんなところに墜ちてきた。
もし、全てが何かに導かれたものならば、これを使うこともあるだろう。
「導かれた」とか、そんな思わしいものではない気もするけれど…
「山崎さん…」
「…どうした?」
「もし…私がこの任務を断れば、誰かが代わりに入ると思いますか?」
「…あぁ。俺の見立てでは、二人ほど候補は居るな」
「そう、ですか…」
ならば、私ができる最大限のことを……彼らに失望されないように
弥月は刀から山崎へと視線を移す。
「…これで稽古つけて貰えますか?」
「斬りたくない」じゃ、ただの気持ちでしかない。
“殺さない方法”を知る。
それがここで刀を持つ者として、未来から来た者としての責任。そして自分も一人の人間として、生きたいとの願う者としての責任。
驚いた表情の彼、すぐに真剣な顔つきになって「分かった」と一言だけ言って頷いた。
大事なものを全部守りたいと……必要なことと、私がしたいこと、全部叶えたいと思うのは、強欲なことかもしれない。
だけど、努力することも許されないならば、私はここで生きる意味すら見失うだろう。
失くしたものなんか無い
大切なものが増えているだけで、それを辛いとは思いたくなかった