第十二章 歪な情誼

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元治元年八月二十一日


 “どんどん焼け”と呼ばれる火災から早一ヶ月が経とうとしていた。御所の南側を延々と広がった真っ黒に焦げた家屋は、少しずつ解体され。焼け出されて河原や田圃で野宿していた人々も、気持ちに整理をつけ、これからの生き方を考えはじめた頃。


 夕方、弥月が茶をしばきに山南の所へ訪れると、山南は神妙な面持ちで彼女と向かい合った。



弥月君、少しお願いがあるのですが」

「ほい」

「大変恐縮なのですが、ほんの少し、針先ほどだけで良いので、血を分けて頂けませんか?」

「いいですよ~、たぶん湯呑み一杯程度なら全然平気です」


 そんな奇妙なお願いをしてきたのは山南さんの方だと言うのに、私の答えに何故か山南さんの方が動揺していた。


「…何故とか、どうしてとは訊かないのですか?」

「んー…研究に使うんだろうな~ってことはお察ししますし。ホントに湯呑み一杯出るくらいの大きい傷は辛いですけど、針で刺すくらいなら全然」


 逆に何が問題なのか分からないくらいなのだが。そんなに困惑するほど、そのお願いは皆に嫌がられたのだろうか。
 捉え様によっては不気味なお願いではあるけれど、“万能薬”の夢とやらにそのくらい協力してあげても良いじゃないか。


「でも、ちょっとだとすぐ固まっちゃいますからね。研究室の方までご一緒しましょうか?」

「…お気遣い感謝します」




 という訳で、初めて研究室に近づいたのだけれど。

 山南さんが持って出てきたのは、試験管に入った赤い液体。



  硝子なんて高いだろうに、結構この研究につぎ込んでるなぁ…



 てっきり彼の趣味かと思いきや、組で運営している企画なのかもしれない。
 なにそれ、新選組ってそんなにオールラウンドな感じだっけ? 身の程知らずの事業拡大は破産しかねませんよ?



「これ、何の液体ですか?」

「これが、私が研究している薬そのものですよ。全くの未完成品ですが」

「へえ、これが…」

「この中に血を数滴落としてもらうだけで構いません」


 そう言われて、腰の刀を抜き、切っ先に手首を押し当てる。斬るのではなく、刺すようにして穴を開けた。


「絞るんで受け止めてください」

「了解しました」



  初めての共同作業、なんつって



 ポタポタポタ…と、赤い液体の中に混じる、私の赤。


「もしかして、こっちの材料も血ですか?」

「…ご明察ですね」

「採血する人によって、赤色が薄くなったり、透明な層ができたりしません?」

「…! 何故それを!?」


 心底驚いた風の山南さんに、血液型の話をする。「A・B・O」を「い・ろ・は」で表現した、生徒に優しい指導力を是非褒めてくれ。


「――というわけで、採血される人が何型か分からないと、赤が溶け出たり出なかったりしてしまうわけです」

「…その血液の型を判別する方法はあるのですか?」

「たぶんまだ無いと思います。まだその分類すら無いかもしれません」

「…では、これは偶然の一致ということですね」


 山南さんの手元にある試験管を見ると、上に透明の膜が張っていた。つまりこれが私の血漿ということにしておきましょう。遠心分離してないけど。


「おぉ、成功ですか」

「第一段階は…ですね。これから、前に教えて頂いた、鼠での試験を行います」

「…あれ、マジで実行してたんですね」

「えぇ、おかげさまで研究室内は鼠だらけですよ。見ていかれますか?」

「遠慮しときます…」


 そんな「鼠だらけ」をどうやって飼育してるか知りたくない。だって雑食だもの。


「…また怪我したのですか?」

「あぁ……ちょっと切ってしまって」


 山南が指差したのは、弥月の左上腕の包帯。 


「いや、ほんと生傷絶えなくて困りますよね」

「貴女を使ってる私が言うのもなんですが、気を付けてくださいね。
 そういえば、土方君から配置換えの話は聞きましたか?」

「え? いえ、全然」


 今日は昼から非番だ。今朝、土方さんに捜査報告に行った時も、特に何も言われなかったのだが。


「あれっすね、いつもの雑な扱い、久々のやっつけ仕事」

「…明日、明後日の話だったと思いますから、聞いておいでなさい」

「はーい」



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