姓は「矢代」で固定
第十一話 禁門の変
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***
「左之さん、あれです!」
「おう!」
「――って、左之さん!?」
桑名藩と思しき兵士達が、長州勢へ砲撃を放(はな)った瞬間のこと。
砲台の横を通り抜けて走っていく原田に、弥月だけでなく、彼の組下の者までがギョッと目を向く。彼は止める間もなく桑名藩の大盾よりも前に出て、先頭で刀を振り上げて迫り来る長州藩士の胸を、槍で一突きにした。
「ヴッ…!」
倒れゆく同胞の後ろで原田の雄姿を見た男が、彼の羽織を見て「新選組…!」と忌々し気に吐き捨てる。それに反応して、周りの長州兵がわずかにたじろいた。
幕臣の中でも他藩よりも、戦意や実践経験の高い新選組。その浅葱の男達は、敵にとっては憎悪の対象でありながらも、避けて通りたい戦士であった。
「お前ら、御所へ討ち入るつもりなら、まず俺を倒して行くんだな!」
「おのれ…!」
「死にたい奴からかかってこいよ!!」
遊ぶように槍を巧みに操り、余裕の笑みを湛えて朗々と言い立てた彼に、自陣の指揮は上がる。
さらには先程の砲撃で、長州藩小隊の後方には死傷者が出ており、圧倒的兵力差の前に長州兵の指揮者は歯噛みした。
「―――っもはやここまでか…、退(ひ)け退け!!」
まだ次の機会があると信じ、撤退を決意した彼らを追撃するように、桑名藩の指揮官は采配を振る。
「逃がすな、追えぇ!」
バアアァァン
ぞわり
その音が鼓膜を揺らした瞬間、弥月の全身が粟立った。
音と同時に、一人の桑名藩士が倒れ、一度は走り出した彼らの足が止まる。
長州藩士が走り去った跡に、一人残った男。巻き髪を高く結った男は、鋭い視線と銃口をこちらへ向けていた。
「なんだァ、銃声一発で腰がぬけたか?」
原田達の肩越しに見た人影、人喰ったような声……弥月
は戦慄せずにはいられなかった。
あいつ…!
「光栄に思うんだなぁ、てめぇらとはこの俺様が遊んでやるぜ!」
男は多数の敵を前に露いささかも臆することなく、むしろ自信に満ち溢れていた。その軽口とは対照的に、刺すような視線と貫禄、そして小銃を持った異様な出で立ちに、桑名藩士たちは圧倒される。
しかし、歩が進まなくなった兵士を押し分けて、原田は再び先頭へ出でて、得物の切っ先を真っ直ぐに男へ向けた。
「遊んでくれるのは結構だが、お前だけ飛び道具を使うのは…卑怯だな」
銃を恐れず、先頭に出でた原田の気概に、男は少し興味を持ったように目を細めて眺める。
そして、しばしの睨みあいの末、先に動いたのは敵の男だった。
パァンパアァンパアァァン
「うおおぉぉぉ!!」
三度の銃撃に退かずに、前へ進みながらそれを避けた原田は、男の顔面めがけて槍を振り切る。
しかし、男は首を倒して鼻先で刃を避け、槍の届かぬ範囲までトントンッと後ろへ跳ねた。
「フンッ…てめぇは骨がありそうだな…にしても突っ込んでくるか? 普通」
「小手先で誤魔化すなんざ、戦士としても男としても二流だろ」
どちらも「面白い」とでも言うように声を弾ませていて。男は称賛とも揶揄とも言えぬ口笛を吹く。
ほんとに…銃めがけて走らないでほしい…
私としては、銃の男と全く同意見なのだけれど。この様子なら、もしかしたら左之さんが彼を捕えてくれるかもしれないという期待があるし、彼らの間に入れるほどの実力は持ち合わせていない。
どうする…? 銃を向けられないよう下手に動かない方がいいのか…
弥月が迷っている間に、原田は男が次に発砲する前に駆けだした。そして更に二発の銃弾を避けて、今度は胴めがけて突きを幾度も繰り出す。
男は少しずつ後退してその刃を避けつつ、「やるじゃねえか!」と上機嫌な様子で言った。
「俺は不知火匡だ。おまえの名乗り聞いてるよ!」
「新選組、組長 原田左之助!」
全ての手が掠(かす)りもしないことに焦り、大胆にも横殴りに大振りした原田だったが、それも敢え無く、高く飛んで避けられた。そして、不知火は空中で身体を捻り、振り向き様に視線を原田より奥へ向ける。
パアァァン
「――っ」
不知火が立ち止まる瞬間を狙っていた桑名藩の砲撃隊を、彼は銃弾で撃ち殺す。
その時、藩士の近くにいた私は、不知火と目が合った。
「…ん? なんだ、おまえ……そうか、ななしは桑名…いや、新選組のとこのだったか」
―――私は馬鹿か…っ!
狙いは私じゃなかったにしても、一瞬、その銃口を向けられていたことに、今更ながら気付いて恐怖する。気を抜いていた体を叱責して苦無を構える。
弥月は不知火のニヤリと笑う赤紫色の鋭い視線を受けて、ギッと睨み返す。
チラリとこちらを振り返った左之さんに、不知火から目を離さず「敵です」とだけ伝えた。
「まあ、今日は邪魔な奴が多いからな、また今度デートしようぜ! それにそろそろ頃合いだ」
そう言うと、原田へ銃口を向けたまま、不知火はそこで死んでいる男に刺さっていた刀を抜き取り、真横の木板の壁に差した。
「人間にしちゃあ面白かったぜ、新選組の原田左之助! 俺様の顔をしっかり覚えておくんだな」
そして一つ跳んでその柄に体重を乗せると、それをバネにして宙へと身を躍らせる。そうして身を翻し、御所の外壁の向こうへ消える瞬間に、彼はもう一度原田を見てニヤリと笑った。
「次は殺す」
***
「左之さん、あれです!」
「おう!」
「――って、左之さん!?」
桑名藩と思しき兵士達が、長州勢へ砲撃を放(はな)った瞬間のこと。
砲台の横を通り抜けて走っていく原田に、弥月だけでなく、彼の組下の者までがギョッと目を向く。彼は止める間もなく桑名藩の大盾よりも前に出て、先頭で刀を振り上げて迫り来る長州藩士の胸を、槍で一突きにした。
「ヴッ…!」
倒れゆく同胞の後ろで原田の雄姿を見た男が、彼の羽織を見て「新選組…!」と忌々し気に吐き捨てる。それに反応して、周りの長州兵がわずかにたじろいた。
幕臣の中でも他藩よりも、戦意や実践経験の高い新選組。その浅葱の男達は、敵にとっては憎悪の対象でありながらも、避けて通りたい戦士であった。
「お前ら、御所へ討ち入るつもりなら、まず俺を倒して行くんだな!」
「おのれ…!」
「死にたい奴からかかってこいよ!!」
遊ぶように槍を巧みに操り、余裕の笑みを湛えて朗々と言い立てた彼に、自陣の指揮は上がる。
さらには先程の砲撃で、長州藩小隊の後方には死傷者が出ており、圧倒的兵力差の前に長州兵の指揮者は歯噛みした。
「―――っもはやここまでか…、退(ひ)け退け!!」
まだ次の機会があると信じ、撤退を決意した彼らを追撃するように、桑名藩の指揮官は采配を振る。
「逃がすな、追えぇ!」
バアアァァン
ぞわり
その音が鼓膜を揺らした瞬間、弥月の全身が粟立った。
音と同時に、一人の桑名藩士が倒れ、一度は走り出した彼らの足が止まる。
長州藩士が走り去った跡に、一人残った男。巻き髪を高く結った男は、鋭い視線と銃口をこちらへ向けていた。
「なんだァ、銃声一発で腰がぬけたか?」
原田達の肩越しに見た人影、人喰ったような声……弥月
は戦慄せずにはいられなかった。
あいつ…!
「光栄に思うんだなぁ、てめぇらとはこの俺様が遊んでやるぜ!」
男は多数の敵を前に露いささかも臆することなく、むしろ自信に満ち溢れていた。その軽口とは対照的に、刺すような視線と貫禄、そして小銃を持った異様な出で立ちに、桑名藩士たちは圧倒される。
しかし、歩が進まなくなった兵士を押し分けて、原田は再び先頭へ出でて、得物の切っ先を真っ直ぐに男へ向けた。
「遊んでくれるのは結構だが、お前だけ飛び道具を使うのは…卑怯だな」
銃を恐れず、先頭に出でた原田の気概に、男は少し興味を持ったように目を細めて眺める。
そして、しばしの睨みあいの末、先に動いたのは敵の男だった。
パァンパアァンパアァァン
「うおおぉぉぉ!!」
三度の銃撃に退かずに、前へ進みながらそれを避けた原田は、男の顔面めがけて槍を振り切る。
しかし、男は首を倒して鼻先で刃を避け、槍の届かぬ範囲までトントンッと後ろへ跳ねた。
「フンッ…てめぇは骨がありそうだな…にしても突っ込んでくるか? 普通」
「小手先で誤魔化すなんざ、戦士としても男としても二流だろ」
どちらも「面白い」とでも言うように声を弾ませていて。男は称賛とも揶揄とも言えぬ口笛を吹く。
ほんとに…銃めがけて走らないでほしい…
私としては、銃の男と全く同意見なのだけれど。この様子なら、もしかしたら左之さんが彼を捕えてくれるかもしれないという期待があるし、彼らの間に入れるほどの実力は持ち合わせていない。
どうする…? 銃を向けられないよう下手に動かない方がいいのか…
弥月が迷っている間に、原田は男が次に発砲する前に駆けだした。そして更に二発の銃弾を避けて、今度は胴めがけて突きを幾度も繰り出す。
男は少しずつ後退してその刃を避けつつ、「やるじゃねえか!」と上機嫌な様子で言った。
「俺は不知火匡だ。おまえの名乗り聞いてるよ!」
「新選組、組長 原田左之助!」
全ての手が掠(かす)りもしないことに焦り、大胆にも横殴りに大振りした原田だったが、それも敢え無く、高く飛んで避けられた。そして、不知火は空中で身体を捻り、振り向き様に視線を原田より奥へ向ける。
パアァァン
「――っ」
不知火が立ち止まる瞬間を狙っていた桑名藩の砲撃隊を、彼は銃弾で撃ち殺す。
その時、藩士の近くにいた私は、不知火と目が合った。
「…ん? なんだ、おまえ……そうか、ななしは桑名…いや、新選組のとこのだったか」
―――私は馬鹿か…っ!
狙いは私じゃなかったにしても、一瞬、その銃口を向けられていたことに、今更ながら気付いて恐怖する。気を抜いていた体を叱責して苦無を構える。
弥月は不知火のニヤリと笑う赤紫色の鋭い視線を受けて、ギッと睨み返す。
チラリとこちらを振り返った左之さんに、不知火から目を離さず「敵です」とだけ伝えた。
「まあ、今日は邪魔な奴が多いからな、また今度デートしようぜ! それにそろそろ頃合いだ」
そう言うと、原田へ銃口を向けたまま、不知火はそこで死んでいる男に刺さっていた刀を抜き取り、真横の木板の壁に差した。
「人間にしちゃあ面白かったぜ、新選組の原田左之助! 俺様の顔をしっかり覚えておくんだな」
そして一つ跳んでその柄に体重を乗せると、それをバネにして宙へと身を躍らせる。そうして身を翻し、御所の外壁の向こうへ消える瞬間に、彼はもう一度原田を見てニヤリと笑った。
「次は殺す」
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