姓は「矢代」で固定
第十一話 禁門の変
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***
目が覚めると、私は海老のように丸まっていて。いつのまにか頭の下に布を敷かれても気付かないほどには、すっかりと寝てしまっていたらしい。
「やば…今、何時…」
すでに空は明かり一つ見えない夜を越え、西に薄明を迎えるころだった。
身体にひっついていた小石を払い落としながら起き上がると。昨日の記憶からさほど変わらない皆の様子に、夜中は何もなかったことを知る。
それを教えるかのように、井ノ上は弥月へ声をかけた。
「丁度いい頃合いに起きたね、矢代君。もうすぐ夜明けだよ」
「すみません、こんなに寝こけるなんて思わなくて…」
火の番をしながら、交代で起きていたのだろう彼らに、心苦しくなり謝ると。新八さんがニヤリと笑って言った。
「本当にな。こんな所で寝苦しいだろうに全然起きねぇから、死んだんじゃないかって思ったぜ」
「途中、声掛けられたの知ってるか?」
「…いや、全然…」
そして、さきほどまで目を閉じていた原田さんが、口の端を上げてこちらを見るものだから、彼らがかなり気を遣ってくれたのだろうことに気付く。
千鶴ちゃんですらも座ったまま寝ているというのに、私が爆睡ってどうよ。
そう思っていると、私らの声に気が付いたらしい彼女が「あっ…す、すみません、私…!」と起きたから、どうやら彼女も火の番のために起きているつもりだったらしいことを察する。
ドォン、ドォ…ン
その時、遠くの方から砲弾の音が聞こえ、皆がハッとしてそちらを振り仰ぐと、市中の方から黒煙が上がっている。
烝さん…!
「…行くぞ」
立ち上がった斎藤の声に千鶴が返事をし、全員で局長達のいる陣幕の方へと走った。しかし、そこに辿りつくまでもなく、近藤たちは既に陣幕の外に居て、隊士の姿を認めた土方が声を張る。
「火元へ向かう!」
以降、号令もなく隊士たちがそれぞれの組長の元へ集まりながら、我先にと市中へと駆けだす。
そんな新選組に、煙を見て騒然としていた会津藩士が「待たんか、新選組!」と怒声を発した。
「我々は待機を命じられているのだぞ!」
…それもそうだけど…
弥月と同じく、藩士の声に新選組一同が足を止めたが、振り返った先の最後尾にいる土方の苛立った顔に、皆が味方ながら恐れ戦いた。
そして土方も背後を振り返って、藩士に負けぬ怒声を発する。
「長州の野郎共が攻め込んで来たら、援軍に行くための待機だろうが!」
「しつ、しかし出動命令はまだ…!」
「自分の仕事にひとかけらでも誇りがあるなら、てめえらも待機だの云々言わずに動きやがれ!!」
そして彼は「行くぞ!」と発して。隊士たちは口元に笑みを湛えながら、再び歩を進めた。
カッコいいなぁ、ほんとに
決断力と先導力において、彼の右に出るものはいないと思う。
「矢代、どこだ!」
「はい」
「先に行って、山崎を手伝って来い!」
「承知しました」
そう言って、前へ前へと進み、少しずつ隊士を追い抜いていったのだが。斎藤さんの組を追い抜かそうとした時に、首を傾げる。
? 何か、違和感…
先頭を走る斎藤さんの後ろ姿に、なにか足りないものを感じた。
「…あ」
これだ。この布…私が枕にしていた布は、彼の襟巻きに違いない。
半ば無意識に、咄嗟につかんできた布を見て、放ってこなかったことにホッとする。
彼と並走して、「斎藤さん」と声をかけた。
「すみません。襟巻、敷いてくださったんですよね」
「…大事ない」
こっそりと涎(よだれ)がついてないことを確認してから差し出すと、彼は走りながらクルクルと元の通りに首に巻き付けるのだが……この蒸し暑い夏に、無いままの方が良いのではないだろうかとちょっと思う。
けれど、ヒラヒラとたなびくそれを見て、私の方も凄くしっくりきてしまったのだから、もう何も言うまい。
「お先です」
「用心しろ」
「斎藤さんもお気を付けて」
外していた口布と頭巾とを装着しながら、移動に特化したその黒衣の軽装で、弥月は先を駆けて行った。
***
目が覚めると、私は海老のように丸まっていて。いつのまにか頭の下に布を敷かれても気付かないほどには、すっかりと寝てしまっていたらしい。
「やば…今、何時…」
すでに空は明かり一つ見えない夜を越え、西に薄明を迎えるころだった。
身体にひっついていた小石を払い落としながら起き上がると。昨日の記憶からさほど変わらない皆の様子に、夜中は何もなかったことを知る。
それを教えるかのように、井ノ上は弥月へ声をかけた。
「丁度いい頃合いに起きたね、矢代君。もうすぐ夜明けだよ」
「すみません、こんなに寝こけるなんて思わなくて…」
火の番をしながら、交代で起きていたのだろう彼らに、心苦しくなり謝ると。新八さんがニヤリと笑って言った。
「本当にな。こんな所で寝苦しいだろうに全然起きねぇから、死んだんじゃないかって思ったぜ」
「途中、声掛けられたの知ってるか?」
「…いや、全然…」
そして、さきほどまで目を閉じていた原田さんが、口の端を上げてこちらを見るものだから、彼らがかなり気を遣ってくれたのだろうことに気付く。
千鶴ちゃんですらも座ったまま寝ているというのに、私が爆睡ってどうよ。
そう思っていると、私らの声に気が付いたらしい彼女が「あっ…す、すみません、私…!」と起きたから、どうやら彼女も火の番のために起きているつもりだったらしいことを察する。
ドォン、ドォ…ン
その時、遠くの方から砲弾の音が聞こえ、皆がハッとしてそちらを振り仰ぐと、市中の方から黒煙が上がっている。
烝さん…!
「…行くぞ」
立ち上がった斎藤の声に千鶴が返事をし、全員で局長達のいる陣幕の方へと走った。しかし、そこに辿りつくまでもなく、近藤たちは既に陣幕の外に居て、隊士の姿を認めた土方が声を張る。
「火元へ向かう!」
以降、号令もなく隊士たちがそれぞれの組長の元へ集まりながら、我先にと市中へと駆けだす。
そんな新選組に、煙を見て騒然としていた会津藩士が「待たんか、新選組!」と怒声を発した。
「我々は待機を命じられているのだぞ!」
…それもそうだけど…
弥月と同じく、藩士の声に新選組一同が足を止めたが、振り返った先の最後尾にいる土方の苛立った顔に、皆が味方ながら恐れ戦いた。
そして土方も背後を振り返って、藩士に負けぬ怒声を発する。
「長州の野郎共が攻め込んで来たら、援軍に行くための待機だろうが!」
「しつ、しかし出動命令はまだ…!」
「自分の仕事にひとかけらでも誇りがあるなら、てめえらも待機だの云々言わずに動きやがれ!!」
そして彼は「行くぞ!」と発して。隊士たちは口元に笑みを湛えながら、再び歩を進めた。
カッコいいなぁ、ほんとに
決断力と先導力において、彼の右に出るものはいないと思う。
「矢代、どこだ!」
「はい」
「先に行って、山崎を手伝って来い!」
「承知しました」
そう言って、前へ前へと進み、少しずつ隊士を追い抜いていったのだが。斎藤さんの組を追い抜かそうとした時に、首を傾げる。
? 何か、違和感…
先頭を走る斎藤さんの後ろ姿に、なにか足りないものを感じた。
「…あ」
これだ。この布…私が枕にしていた布は、彼の襟巻きに違いない。
半ば無意識に、咄嗟につかんできた布を見て、放ってこなかったことにホッとする。
彼と並走して、「斎藤さん」と声をかけた。
「すみません。襟巻、敷いてくださったんですよね」
「…大事ない」
こっそりと涎(よだれ)がついてないことを確認してから差し出すと、彼は走りながらクルクルと元の通りに首に巻き付けるのだが……この蒸し暑い夏に、無いままの方が良いのではないだろうかとちょっと思う。
けれど、ヒラヒラとたなびくそれを見て、私の方も凄くしっくりきてしまったのだから、もう何も言うまい。
「お先です」
「用心しろ」
「斎藤さんもお気を付けて」
外していた口布と頭巾とを装着しながら、移動に特化したその黒衣の軽装で、弥月は先を駆けて行った。
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