姓は「矢代」で固定
第十話 池田屋事件
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***
右手
右手が温かい
誰かと手をつないでいるようだ
誰
誰
それを強く握ってみる。
「…矢代、起きたか」
「……」
!!
ガバッと勢いよく起き上がり、ここが屯所ではないことを知る。隣に座っている斎藤さんの羽織の裾を掴んだ。
「どうなったんです!?」
「今、会津藩と所司代が逃げた浪士たちの捜索に当たっている。俺達は日が昇るころに帰営する。あんたはそれまで身体を休めておけ」
言われて、辺りをぐるりと見渡す。
部屋の端々に置かれた提灯で、ぼんやりと明るい室内……ここが池田屋一階の広間であることを知る。そして自分の周りには負傷した仲間。
「―――っ」
「…弥月さん、痛むところはありませんか?」
「千鶴ちゃん…」
「特に目立った怪我はみられませんでしたので、このまま目覚めなければどうしようかと…」
「私は、大丈夫。それより皆は…」
部屋のあちらこちらで座っている彼らも、手傷を負ってはいるのだろう。近藤さんや新八さん、浅野さんらが無事なようでホッとする。
しかし、横になっているのは 沖田さん、平助、新田さん、と…
「…あの、羽織の…」
そして、端に一人、浅葱の羽織を頭から掛けられた人……羽織の裾から脚だけが見えている、誰か。
共に池田屋に来たのは
「…奥沢だ」
「――っ」
斎藤の静かな声が通る。
「向こう傷の立派な死に様だ」
奥沢さん
「…弥月さん、疲れているところ申し訳ないんですけれど、傷の処置について窺いたくて…」
おずおずと千鶴が切りだした事に、弥月は悲痛な面持ちで彼女を見やる。
「…止血できたら、水洗いと消毒、それが最優先」
「それが…」
説明するのも憚られるほど、危殆に瀕するということか。
弥月は腰を上げて、千鶴に案内される。彼女は、腹這いになった男の横で膝をついた。
「――っ」
「安藤さん、少し傷を見ますね」
苦痛に顔を歪め、額に脂汗を浮かせる安藤。弥月がどう声をかけるか迷っている間に、千鶴が安藤に掛かっている血の付いた羽織を取る。
思わず手で口を塞ぐ。
安藤の身体に幾重にも巻いた布が、赤黒く染まっていた。
「外への出血はなんとか止まりましたが……数か所、貫通もしてて…」
そこで千鶴ちゃんの言葉が途切れる。それが私の意見を求めているのだとは覚ったが、私は返せる言葉もなく、ただ彼から目を逸らした。
「…新田さんも、右肩あたりで一カ所貫通してて、そちらの出血はそれほど多くなかったんですが…息が……」
「オレは大丈夫っす…ゴホッ、…より安藤さん、を」
「喋らないでください…!」
千鶴は新田に駆け寄り、彼の背をさする。
彼の横に寝ている平助は頭に布を巻かれていた。沖田の意識も戻っていないという。
「医者は…」
「ここは戦場だ。屯所に戻るまでは呼べぬ」
「屯所へは…」
「運んでいる最中に闇討ちに合う恐れがある。朝になれば帰還する予定だが、今は動かせん」
「でも…っ」
「無理を言うな」
斎藤さんにジロリと睨まれて、彼だってここに皆を置いていることは本意ではないのだと知る。
そして、いつから起きていたのだろう、近藤さんが目を開き、「すまないが」と厳しい声で言った。
「弥月君、今、ここでできる事をしてくれ」
この立ちすくむほどの惨状で
「…何か必要があれば、俺が行く故、あんたはここで患者の状態を診てやってくれ」
私が
「…弥月さん、私に何かできる事はありませんか?」
サアッと血の気がひくような感覚を覚える。
彼らは
私に
私は
彼らに期待させて
何をしろと
深い傷を
多くの血を
死にそうで
死んでしまって
今 ここで 私が
違う
こうなることを知っていて、私は
私は
私は
私は
私は
私は
私は
私は
私が
「 」
私が望んだ
私はそれでも
***
右手
右手が温かい
誰かと手をつないでいるようだ
誰
誰
それを強く握ってみる。
「…矢代、起きたか」
「……」
!!
ガバッと勢いよく起き上がり、ここが屯所ではないことを知る。隣に座っている斎藤さんの羽織の裾を掴んだ。
「どうなったんです!?」
「今、会津藩と所司代が逃げた浪士たちの捜索に当たっている。俺達は日が昇るころに帰営する。あんたはそれまで身体を休めておけ」
言われて、辺りをぐるりと見渡す。
部屋の端々に置かれた提灯で、ぼんやりと明るい室内……ここが池田屋一階の広間であることを知る。そして自分の周りには負傷した仲間。
「―――っ」
「…弥月さん、痛むところはありませんか?」
「千鶴ちゃん…」
「特に目立った怪我はみられませんでしたので、このまま目覚めなければどうしようかと…」
「私は、大丈夫。それより皆は…」
部屋のあちらこちらで座っている彼らも、手傷を負ってはいるのだろう。近藤さんや新八さん、浅野さんらが無事なようでホッとする。
しかし、横になっているのは 沖田さん、平助、新田さん、と…
「…あの、羽織の…」
そして、端に一人、浅葱の羽織を頭から掛けられた人……羽織の裾から脚だけが見えている、誰か。
共に池田屋に来たのは
「…奥沢だ」
「――っ」
斎藤の静かな声が通る。
「向こう傷の立派な死に様だ」
奥沢さん
「…弥月さん、疲れているところ申し訳ないんですけれど、傷の処置について窺いたくて…」
おずおずと千鶴が切りだした事に、弥月は悲痛な面持ちで彼女を見やる。
「…止血できたら、水洗いと消毒、それが最優先」
「それが…」
説明するのも憚られるほど、危殆に瀕するということか。
弥月は腰を上げて、千鶴に案内される。彼女は、腹這いになった男の横で膝をついた。
「――っ」
「安藤さん、少し傷を見ますね」
苦痛に顔を歪め、額に脂汗を浮かせる安藤。弥月がどう声をかけるか迷っている間に、千鶴が安藤に掛かっている血の付いた羽織を取る。
思わず手で口を塞ぐ。
安藤の身体に幾重にも巻いた布が、赤黒く染まっていた。
「外への出血はなんとか止まりましたが……数か所、貫通もしてて…」
そこで千鶴ちゃんの言葉が途切れる。それが私の意見を求めているのだとは覚ったが、私は返せる言葉もなく、ただ彼から目を逸らした。
「…新田さんも、右肩あたりで一カ所貫通してて、そちらの出血はそれほど多くなかったんですが…息が……」
「オレは大丈夫っす…ゴホッ、…より安藤さん、を」
「喋らないでください…!」
千鶴は新田に駆け寄り、彼の背をさする。
彼の横に寝ている平助は頭に布を巻かれていた。沖田の意識も戻っていないという。
「医者は…」
「ここは戦場だ。屯所に戻るまでは呼べぬ」
「屯所へは…」
「運んでいる最中に闇討ちに合う恐れがある。朝になれば帰還する予定だが、今は動かせん」
「でも…っ」
「無理を言うな」
斎藤さんにジロリと睨まれて、彼だってここに皆を置いていることは本意ではないのだと知る。
そして、いつから起きていたのだろう、近藤さんが目を開き、「すまないが」と厳しい声で言った。
「弥月君、今、ここでできる事をしてくれ」
この立ちすくむほどの惨状で
「…何か必要があれば、俺が行く故、あんたはここで患者の状態を診てやってくれ」
私が
「…弥月さん、私に何かできる事はありませんか?」
サアッと血の気がひくような感覚を覚える。
彼らは
私に
私は
彼らに期待させて
何をしろと
深い傷を
多くの血を
死にそうで
死んでしまって
今 ここで 私が
違う
こうなることを知っていて、私は
私は
私は
私は
私は
私は
私は
私は
私が
「 」
私が望んだ
私はそれでも
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