姓は「矢代」で固定
第十話 池田屋事件
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***
まさかの池田屋配属っていうね…
弥月は自室の戸を閉めてから、腕を組んで呻った。
これは、池田屋のはず
新選組が【池田屋事件】で手柄を立てたのは、流石に何となく知っている。そこで坂本龍馬だか、桂小五郎だか、高杉晋作…だかが、運よく逃げれたんじゃなかっただろうか。池田屋が三条にある旅籠で、<今>は何の関係もない居酒屋になっている…のは、中学校の先生が嘆きながら教えてくれた。
だけど、【池田屋事件】が何年何月に起きたかを忘れてしまった……というか、覚えたことなどないのだけれど……もしかしたら、今日は違うかもしれない。
そこまで言い訳を考えて、顔をさらに歪めながら、ハアアァァァと盛大な溜息を吐く。
んーまあ、四国屋なんて聞いた事ないから、きっと池田屋なんだよね
残念な事に、わりと自信がある。
この時代に来て十ヶ月目にして、初めて知識を使えるタイミングが来たらしい。
けれど、私がここで『知ってる、池田屋!』って叫んで、本当に池田屋だった場合……半分に分けるはずの隊が、全部池田屋に来た場合、いったい何が起こるか分からない。逃げられるはずだった坂本龍馬が死んで、歴史がえらいこっちゃになる可能性が高すぎる。
「…しゃーない。腹くくって、死なないようにだけ気を付けよう」
歴史は私を巻き込みながら動いていく。どう生きたって巻き込まれることからは逃げられない。
先程、どちらが怪しいかを訊かれたときに、なぜ「池田屋」と明言したかと言うなら、それは近藤さんに一監察方として訊かれたからだ。仮に、私が【池田屋事件】を知らなくても、私は「池田屋」と答えただろうから。
そして、闇討ちならば乱戦になって、斬られることも覚悟しておかなければならない。ましてやこれが本当に【池田屋事件】ならば尚更だ。
死者が出る
それは味方かもしれないし、敵かもしれない
どちらもかもしれない
弥月は一度目を閉じ、少ししてからスゥッと開く。
監察として、新選組隊士として仕事をすると彼らに誓ったときに、腹は決めた。
もしも捕まえられないのならば
斬る
監察用の衣装を脱いで、鎖帷子を掴んだが、手にかかる重さにやはり悩む。烝さんから、なるべく着るように言われているが、実際に着ているのは任務外の平時や鍛錬中に、負荷をかけるためだけだ。着るとどうしても動きが鈍くなるから好きじゃない。
…
…うん。もし後が追跡班だったら、これ着て走るとか無理だし、今日もパス……って、そうだ。私監察だから後処理も仕事だ
升屋に厳戒態勢が敷かれて以降、殆ど屯所には帰って来れていなかった。だから、討ち入りが終わったら、すぐに布団で眠りたいと思っていたが、やはりそうはいかないのがこの仕事である。屯所に帰って来るのは、確実に朝方になるだろう。
眉間に寄る皺を伸ばし、ペチンと両頬を叩く。
「弥月君、いらっしゃいますか」
「うわっと、はい。服着ます、ちょい待って下さい」
山南さんの声がしたので、ワタワタと袴を持ち上げて、足元が見えない程度に着付けながら、「開けて大丈夫です」と応える。厠の時に袴をはずして歩くのと、着替えの最中に見られるのと、どう違うのか自分でも分からないが、後者はなんとなく恥ずかしい。
「すみません、着替え中に」
「いえ、私もトロトロしてるのがいかんかったです」
「…それは、付けなくて宜しかったのでしょうか」
弥月が傍らに置いていた鎖帷子に、気付いた山南は問う。
「あはは…それ付けると、走った時にすぐ息上がっちゃうので好きじゃなくて」
「…そうですか。ですが、いざという時に身を守るための物ですから、着た方が良いとは思うのですが」
「はい…次は付けられるよう頑張ります」
山南さんの険しい顔に思わず苦笑いする。
「…しかし、あなたが居るということは、新選組はこの局面で大負けはしないということですね」
「…山南さん、あんまり私を信用すると痛い目に合いますよ」
「信用させようとしているのは、どこのどなたですか」
「…私ですね」
「そうです。貴女が途中で投げ出す人ではないと信用しているのですから。私はまだ参加できる状態ではないので、代わりに宜しくお願いしますよ」
「了解です。私は山南の左腕ですから」
「…そういう時は“右腕”で良いのではないかと」
「ははっ!“右腕”と思ってもらえてるなら光栄です」
「代わり」と言われてドキリとしたが、存外、送り出すことに余裕そうな山南さんに笑ってみせる。
先程の意味深な言葉で、てっきり彼は『どちらが本命か』訊きに来たのかと思ったが、どうやら私の覚悟を確認しに来ただけらしい。
ただ、私が居るか居ないかで新選組の大局を確認してるのは、嘘ではないのだろうけれど。
「屯所は問題ないと思うんですけど、千鶴ちゃんが走り回ってたら、たぶん患者の治療のためですから放っといてあげてください」
「…雪村君が、ですか」
「あの子、信頼して大丈夫ですよ。私と違って力はないけど、心が強くて一本気。目的がハッキリしてるので、綱道さんを見つけるまで、逃がしても逃げてくれなさそうです」
「おやおや…君には頭が痛いのでは?」
「はい、本当に…」
江戸まで帰ってくれるなら、本当にどさくさ紛れに逃がすつもりだったのに、彼女は私が見ぬ間にすっかり腰を据えていた。
「わかりました。彼女も使える駒として、しっかりと使わせてもらいましょう」
「…山南さんがそれ言うと、容赦なくカスカスになるまで搾り取られそうです」
にこりと口元だけで笑った山南さんに「失敬ですね」と言われて、謝る気にはならないくらいには、彼に良いように使われている自覚はあった。
***
夜の帳が下りきった後。
屯所内の広間では、一際明るく煌々と灯りが灯されている。会津藩との落ち合う時刻は戌の時。もし山崎たちから連絡があれば、新選組単独でも出られるように、その一刻前には全隊士に集まるよう指示が出ていた。
そして監察方三名も平隊士に交じって、出立の合図があるその時を待っていた。
ちょー暑い。人集めるから余計に暑い
とはいえ、集めないわけにもいかないので、べつに文句を言う気はない。私は後ろの方で、大人しく黙って座っていた。
「会津藩と所司代はまだ動かないのか」
「まだ何の報せもないようだよ」
「チッ…確たる証拠がなけりゃ腰をあげねぇってのか」
上座の幹部連中の話を聞いて思う事には、約束まで一刻もあるのだから、それは当然だろうということ。実はせっかちだろう、土方さん。
しかし確かに、早馬を飛ばしてから半日以上経っているわけで、そもそも約束の時間までが長すぎるとは思う。長州勢が少数精鋭だけで善後策を練り終えていたら、もはや手遅れだ。
「…近藤さん出発しよう」
「だが、まだ本命が四国屋か池田屋か分からんぞ」
「奴らは池田屋を頻繁に利用していたようです。まさか古高が捕縛された夜にいつもと同じ場所を使うとは考えにくいですから、ここは四国屋が本命と見るのが妥当でしょう」
「しかし、池田屋の可能性も捨てきれまい。その桂という男がいたのならば…」
「よし、隊を二手に分けよう。四国屋へは俺が行く」
「ならばトシ、二十四名連れていけ」
「近藤さんが十名で行くのか!? そりゃ無茶だ」
「ははっ、その代わり総司、永倉、平助を連れて行く。そっちが本命だったときは頼むぞ」
…山南さん、近藤さん、私を殺す気ですか
彼らは池田屋が本命と知らない。だから四国屋が本命と睨んで、そういう決定をしただけなのに、思わず恨み言が口を突いて出そうになる。
勿論、一度据えた腹だ。もうかき回すつもりはない。
それに、私がヅラさんの名前を出しても結果がこれだ。私が何もしなくても、彼らは本命が四国屋と睨んで出かけただろう
だから、私が口を出してはいけない
土方が残りの隊士の分配をした後、池田屋組は先に外へ出るよう指示がある。
「ご武運を」
「島田さんも……と、川島も」
「ついでみたいに言いなや」
隣に座っていた彼らに、笑ってヒラヒラと手を振る。彼らは池田屋組ではないのだし、何かあっても彼らの実力があればきっと問題ないだろう。
そうして門前に集まった池田屋組を見て、弥月は改めてゴクリと唾を飲みこむ。
局長率いる池田屋組の面子は間違いなく、助勤ばかりの手練れで構成されてはいるが……何人いるか分からない敵陣に踏み込むのに、味方が十一人という人数差に、心許なさが尋常じゃない。
因みに、京に潜んでいる勤王派自体は、二百いると監察は踏んでいる。
なにこれ、流石にヤバい、死にそうじゃない? もはや死亡フラグじゃない…?
「なあに、青い顔しとるんだかや! 折角の大捕り物だで、大手柄が目の前と思うて楽しまにゃあ!」
「…安藤さんって、本当底抜けに明るいというか、前向きですよね…」
「なんじゃ、永倉さも沖田君も、藤堂君や武田さ、谷君も、何より儂(わし)がいりゃあすだで、恐がいこともあらすか!まだまだ矢代さも若きゃあなあ!」
八ッハッハと笑われて、背を叩かれる。
「なんだよ、弥月、ビビってんのか」
「ははぁ~、弥月、ここんとこ天井で張り付いてばっかいて、腕鈍(なま)ってんだろ。提灯持ちなんて大丈夫かぁ?」
「うるさい、平助。提灯くらい持てる。新八さんも、ビビッてないから」
こちらが本命だと、私から気取られてはいけない。特に、池田屋組には勘の良い沖田さんがいる。
山南さんが見送りに来たらしく、近藤局長と話していた。
「もし狙いが外れた場合はどうする」
「土方君には祇園界隈を探ってもらいましょう。近藤さん達も三条から縄手を南下するように、虱(しらみ)潰しに当たってください。そのために山崎君らと別に弥月君ら監察方をそれぞれ付けています」
「うむ、分かった。では、出陣する!」
「「「おお!!」」」
ウキウキと拳を振り上げる彼らとともに、口だけは「おー」と言っておいた。
…マジで死なないよう気を付けよう
***
まさかの池田屋配属っていうね…
弥月は自室の戸を閉めてから、腕を組んで呻った。
これは、池田屋のはず
新選組が【池田屋事件】で手柄を立てたのは、流石に何となく知っている。そこで坂本龍馬だか、桂小五郎だか、高杉晋作…だかが、運よく逃げれたんじゃなかっただろうか。池田屋が三条にある旅籠で、<今>は何の関係もない居酒屋になっている…のは、中学校の先生が嘆きながら教えてくれた。
だけど、【池田屋事件】が何年何月に起きたかを忘れてしまった……というか、覚えたことなどないのだけれど……もしかしたら、今日は違うかもしれない。
そこまで言い訳を考えて、顔をさらに歪めながら、ハアアァァァと盛大な溜息を吐く。
んーまあ、四国屋なんて聞いた事ないから、きっと池田屋なんだよね
残念な事に、わりと自信がある。
この時代に来て十ヶ月目にして、初めて知識を使えるタイミングが来たらしい。
けれど、私がここで『知ってる、池田屋!』って叫んで、本当に池田屋だった場合……半分に分けるはずの隊が、全部池田屋に来た場合、いったい何が起こるか分からない。逃げられるはずだった坂本龍馬が死んで、歴史がえらいこっちゃになる可能性が高すぎる。
「…しゃーない。腹くくって、死なないようにだけ気を付けよう」
歴史は私を巻き込みながら動いていく。どう生きたって巻き込まれることからは逃げられない。
先程、どちらが怪しいかを訊かれたときに、なぜ「池田屋」と明言したかと言うなら、それは近藤さんに一監察方として訊かれたからだ。仮に、私が【池田屋事件】を知らなくても、私は「池田屋」と答えただろうから。
そして、闇討ちならば乱戦になって、斬られることも覚悟しておかなければならない。ましてやこれが本当に【池田屋事件】ならば尚更だ。
死者が出る
それは味方かもしれないし、敵かもしれない
どちらもかもしれない
弥月は一度目を閉じ、少ししてからスゥッと開く。
監察として、新選組隊士として仕事をすると彼らに誓ったときに、腹は決めた。
もしも捕まえられないのならば
斬る
監察用の衣装を脱いで、鎖帷子を掴んだが、手にかかる重さにやはり悩む。烝さんから、なるべく着るように言われているが、実際に着ているのは任務外の平時や鍛錬中に、負荷をかけるためだけだ。着るとどうしても動きが鈍くなるから好きじゃない。
…
…うん。もし後が追跡班だったら、これ着て走るとか無理だし、今日もパス……って、そうだ。私監察だから後処理も仕事だ
升屋に厳戒態勢が敷かれて以降、殆ど屯所には帰って来れていなかった。だから、討ち入りが終わったら、すぐに布団で眠りたいと思っていたが、やはりそうはいかないのがこの仕事である。屯所に帰って来るのは、確実に朝方になるだろう。
眉間に寄る皺を伸ばし、ペチンと両頬を叩く。
「弥月君、いらっしゃいますか」
「うわっと、はい。服着ます、ちょい待って下さい」
山南さんの声がしたので、ワタワタと袴を持ち上げて、足元が見えない程度に着付けながら、「開けて大丈夫です」と応える。厠の時に袴をはずして歩くのと、着替えの最中に見られるのと、どう違うのか自分でも分からないが、後者はなんとなく恥ずかしい。
「すみません、着替え中に」
「いえ、私もトロトロしてるのがいかんかったです」
「…それは、付けなくて宜しかったのでしょうか」
弥月が傍らに置いていた鎖帷子に、気付いた山南は問う。
「あはは…それ付けると、走った時にすぐ息上がっちゃうので好きじゃなくて」
「…そうですか。ですが、いざという時に身を守るための物ですから、着た方が良いとは思うのですが」
「はい…次は付けられるよう頑張ります」
山南さんの険しい顔に思わず苦笑いする。
「…しかし、あなたが居るということは、新選組はこの局面で大負けはしないということですね」
「…山南さん、あんまり私を信用すると痛い目に合いますよ」
「信用させようとしているのは、どこのどなたですか」
「…私ですね」
「そうです。貴女が途中で投げ出す人ではないと信用しているのですから。私はまだ参加できる状態ではないので、代わりに宜しくお願いしますよ」
「了解です。私は山南の左腕ですから」
「…そういう時は“右腕”で良いのではないかと」
「ははっ!“右腕”と思ってもらえてるなら光栄です」
「代わり」と言われてドキリとしたが、存外、送り出すことに余裕そうな山南さんに笑ってみせる。
先程の意味深な言葉で、てっきり彼は『どちらが本命か』訊きに来たのかと思ったが、どうやら私の覚悟を確認しに来ただけらしい。
ただ、私が居るか居ないかで新選組の大局を確認してるのは、嘘ではないのだろうけれど。
「屯所は問題ないと思うんですけど、千鶴ちゃんが走り回ってたら、たぶん患者の治療のためですから放っといてあげてください」
「…雪村君が、ですか」
「あの子、信頼して大丈夫ですよ。私と違って力はないけど、心が強くて一本気。目的がハッキリしてるので、綱道さんを見つけるまで、逃がしても逃げてくれなさそうです」
「おやおや…君には頭が痛いのでは?」
「はい、本当に…」
江戸まで帰ってくれるなら、本当にどさくさ紛れに逃がすつもりだったのに、彼女は私が見ぬ間にすっかり腰を据えていた。
「わかりました。彼女も使える駒として、しっかりと使わせてもらいましょう」
「…山南さんがそれ言うと、容赦なくカスカスになるまで搾り取られそうです」
にこりと口元だけで笑った山南さんに「失敬ですね」と言われて、謝る気にはならないくらいには、彼に良いように使われている自覚はあった。
***
夜の帳が下りきった後。
屯所内の広間では、一際明るく煌々と灯りが灯されている。会津藩との落ち合う時刻は戌の時。もし山崎たちから連絡があれば、新選組単独でも出られるように、その一刻前には全隊士に集まるよう指示が出ていた。
そして監察方三名も平隊士に交じって、出立の合図があるその時を待っていた。
ちょー暑い。人集めるから余計に暑い
とはいえ、集めないわけにもいかないので、べつに文句を言う気はない。私は後ろの方で、大人しく黙って座っていた。
「会津藩と所司代はまだ動かないのか」
「まだ何の報せもないようだよ」
「チッ…確たる証拠がなけりゃ腰をあげねぇってのか」
上座の幹部連中の話を聞いて思う事には、約束まで一刻もあるのだから、それは当然だろうということ。実はせっかちだろう、土方さん。
しかし確かに、早馬を飛ばしてから半日以上経っているわけで、そもそも約束の時間までが長すぎるとは思う。長州勢が少数精鋭だけで善後策を練り終えていたら、もはや手遅れだ。
「…近藤さん出発しよう」
「だが、まだ本命が四国屋か池田屋か分からんぞ」
「奴らは池田屋を頻繁に利用していたようです。まさか古高が捕縛された夜にいつもと同じ場所を使うとは考えにくいですから、ここは四国屋が本命と見るのが妥当でしょう」
「しかし、池田屋の可能性も捨てきれまい。その桂という男がいたのならば…」
「よし、隊を二手に分けよう。四国屋へは俺が行く」
「ならばトシ、二十四名連れていけ」
「近藤さんが十名で行くのか!? そりゃ無茶だ」
「ははっ、その代わり総司、永倉、平助を連れて行く。そっちが本命だったときは頼むぞ」
…山南さん、近藤さん、私を殺す気ですか
彼らは池田屋が本命と知らない。だから四国屋が本命と睨んで、そういう決定をしただけなのに、思わず恨み言が口を突いて出そうになる。
勿論、一度据えた腹だ。もうかき回すつもりはない。
それに、私がヅラさんの名前を出しても結果がこれだ。私が何もしなくても、彼らは本命が四国屋と睨んで出かけただろう
だから、私が口を出してはいけない
土方が残りの隊士の分配をした後、池田屋組は先に外へ出るよう指示がある。
「ご武運を」
「島田さんも……と、川島も」
「ついでみたいに言いなや」
隣に座っていた彼らに、笑ってヒラヒラと手を振る。彼らは池田屋組ではないのだし、何かあっても彼らの実力があればきっと問題ないだろう。
そうして門前に集まった池田屋組を見て、弥月は改めてゴクリと唾を飲みこむ。
局長率いる池田屋組の面子は間違いなく、助勤ばかりの手練れで構成されてはいるが……何人いるか分からない敵陣に踏み込むのに、味方が十一人という人数差に、心許なさが尋常じゃない。
因みに、京に潜んでいる勤王派自体は、二百いると監察は踏んでいる。
なにこれ、流石にヤバい、死にそうじゃない? もはや死亡フラグじゃない…?
「なあに、青い顔しとるんだかや! 折角の大捕り物だで、大手柄が目の前と思うて楽しまにゃあ!」
「…安藤さんって、本当底抜けに明るいというか、前向きですよね…」
「なんじゃ、永倉さも沖田君も、藤堂君や武田さ、谷君も、何より儂(わし)がいりゃあすだで、恐がいこともあらすか!まだまだ矢代さも若きゃあなあ!」
八ッハッハと笑われて、背を叩かれる。
「なんだよ、弥月、ビビってんのか」
「ははぁ~、弥月、ここんとこ天井で張り付いてばっかいて、腕鈍(なま)ってんだろ。提灯持ちなんて大丈夫かぁ?」
「うるさい、平助。提灯くらい持てる。新八さんも、ビビッてないから」
こちらが本命だと、私から気取られてはいけない。特に、池田屋組には勘の良い沖田さんがいる。
山南さんが見送りに来たらしく、近藤局長と話していた。
「もし狙いが外れた場合はどうする」
「土方君には祇園界隈を探ってもらいましょう。近藤さん達も三条から縄手を南下するように、虱(しらみ)潰しに当たってください。そのために山崎君らと別に弥月君ら監察方をそれぞれ付けています」
「うむ、分かった。では、出陣する!」
「「「おお!!」」」
ウキウキと拳を振り上げる彼らとともに、口だけは「おー」と言っておいた。
…マジで死なないよう気を付けよう
***