姓は「矢代」で固定
第十話 池田屋事件
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***
暮六つ。
監察方全員が一旦屯所に揃うと、四国屋・池田屋の様子と、それ以外の目ぼしい会合場所などの状況確認のために、監察方一同は局長達に広間に呼ばれていた。
「…つまり、まだどちらかはハッキリしないんだな」
浮かない顔入ってきた監察方を見て、そう確認した土方の問いに最初に頷いたのは、先ほどまで外に出ていた山崎と林だった。
「はい。池田屋、四国屋とちらの周囲でもそれを臭わせる浪士の動きがみられますが、会合を持つ時間が日暮れ以降なのか、中に入っていく人物は殆どありませんでした」
「祇園もなぁ…こそこそ動く怪しい奴はたくさんおりますけど、奴(やっこ)さん達もあっちだこっちだって言って、俺達を攪乱(かくらん)してるんか、本当に分かって無い奴が多いんか…正直、情報飛び過ぎて訳分からん状態でしたわ。敢えて言うなら、四国屋の方が目立っとったかなぁと思います」
お手上げという風に、林は肩をすくめて見せる。
「うーむ」と腕を組んだ近藤を横目に、山南は残りの武装を整えた三人へ顔を向ける。
「ならば、それ以外の場所はいかがでしょう」
「他で有力なんは近江屋、和泉屋、井筒屋あたりどす。そやけど、急な話おすから…あてらの予想やと、長州勢が普段から懇意にしとって、長州藩邸からさほど遠くなく、かつ、夜でも人が出入りしやすい店、周辺の様子ってなると、四国屋・池田屋ちゃうかなと」
川島は立てた三本の指を、ペキッと折って首をふる。
山南からの視線で次に意見を求められた弥月は、一つ頷いてから話し出す。
「長州藩邸も、当然ですけど昼からの出入りがやたらと激しかったです。気になるのはヅラらしき」
「桂だ」
「…桂らしき人物が池田屋に寄りつつ、対馬藩邸に入ったことですかね」
途中、山崎に訂正を入れられつつも、弥月は淡々と報告をする。
「長州藩士が池田屋に?」
「はい。昼過ぎくらいですけど、ホントにすごく気楽に寄って、挨拶して出て行ったって感じでした。対馬藩邸については、桂は元々そこへの出入りは多かったので、古高のことと関係ないかと思いますが」
「桂は普段から池田屋に出入りするのか?」
土方の質問に、弥月が「それは…」と島田を見る。
「それは私が。そもそもの話ですが、我々が耳にしている情報の殆どが、基本的に過激派主体のものとなっています。それは彼らが声高に話すから目立つという理由があるのですが、今までも桂という謎の人物の名前は、時折上がっておりました。それは以前の報告の通りです」
島田が土方に目配せすると、土方は頷いて先を促す。
「ここからはまだ報告にあげていませんが、過激派の話から察するに、桂は論客の中でも穏健派のようで、彼らから一線を隔しています。本人が会合には滅多に顔を出さないのは、これが理由かもしれません。
ただ、藩邸に入れない浪士の隠れ蓑の斡旋は、彼が主導しているようで、恐らく池田屋などでも顔馴染なのではないかと思われます」
「…そこまで掴んでて、その桂とやらを捕える機会がねえのか」
苦々しい顔をした土方に、島田は頭を下げる。
「申し訳ありません。それ自体が最近掴んだ情報というのもありますが、桂は藩邸外での活動や人との接触が少なく、姿形を把握したのもつい最近のことで…」
「捕まえる決定的な証拠がねぇって訳か…」
土方はチッと舌打ちする。
そこに何かがあるとは分かっていても、自分たちには藩邸を検めるだけの力がないこと、確証のない情報は上申しても意味がないことに苛立ちが募る。
「…桂、ですか。弥月君は長州藩邸を張っていたのですよね。今日はなぜその男を追って?」
山南はさも不思議という顔で、弥月に問う。
「イケメンだからです」
「矢代君」
「…というのは、半分冗談で。ほら、半年くらい前に、一番最初の監察の仕事で潜伏してたときなんですけど、ヅラ…桂先生が来るだの来ないだのって、浪士が話してたのを覚えてたんです。だから彼が動くときは、付いて行くことにしてます」
「さっきの冗談が“半分だけ”というのは」
「あまりにもイケメンだから、初めて長州藩邸の出入りを見た時から、気になって尾行してました。その成果で、最近やっと名前が分かりました」
「…なるほど。その見目麗しい特徴は」
「おっとり系イケメン。前髪邪魔でたぶん右半分見えてないと思います。身長は高いですけど、パッと見弱そうな人です。髷じゃなくて、この辺で一つに結ってます」
ぺっと拳を自分の後頭部にあてがった弥月を見ながら、林がクツクツと肩を震わせて笑い、土方以外の皆が苦笑いする。
近藤も類に漏れず、抑えきれない笑いを乗せたまま、弥月に訊いた。
「因みに、君はどちらの店が本命だと思うのかな」
「うーん。私、桂先生推しなので池田屋ですね」
至極真面目そうに答えた弥月へ、嫌そうな顔をした土方が「分かった」と。
「てめぇは池田屋へ行け。桂がいたら捕まえて来い」
「了解っす」
「このまま決定打がなければ、隊を二手に分ける。島田と川島は四国屋へ付け。林は四国屋、山崎は池田屋の伝達係として、先に張っておけ」
「「「承知」」」
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暮六つ。
監察方全員が一旦屯所に揃うと、四国屋・池田屋の様子と、それ以外の目ぼしい会合場所などの状況確認のために、監察方一同は局長達に広間に呼ばれていた。
「…つまり、まだどちらかはハッキリしないんだな」
浮かない顔入ってきた監察方を見て、そう確認した土方の問いに最初に頷いたのは、先ほどまで外に出ていた山崎と林だった。
「はい。池田屋、四国屋とちらの周囲でもそれを臭わせる浪士の動きがみられますが、会合を持つ時間が日暮れ以降なのか、中に入っていく人物は殆どありませんでした」
「祇園もなぁ…こそこそ動く怪しい奴はたくさんおりますけど、奴(やっこ)さん達もあっちだこっちだって言って、俺達を攪乱(かくらん)してるんか、本当に分かって無い奴が多いんか…正直、情報飛び過ぎて訳分からん状態でしたわ。敢えて言うなら、四国屋の方が目立っとったかなぁと思います」
お手上げという風に、林は肩をすくめて見せる。
「うーむ」と腕を組んだ近藤を横目に、山南は残りの武装を整えた三人へ顔を向ける。
「ならば、それ以外の場所はいかがでしょう」
「他で有力なんは近江屋、和泉屋、井筒屋あたりどす。そやけど、急な話おすから…あてらの予想やと、長州勢が普段から懇意にしとって、長州藩邸からさほど遠くなく、かつ、夜でも人が出入りしやすい店、周辺の様子ってなると、四国屋・池田屋ちゃうかなと」
川島は立てた三本の指を、ペキッと折って首をふる。
山南からの視線で次に意見を求められた弥月は、一つ頷いてから話し出す。
「長州藩邸も、当然ですけど昼からの出入りがやたらと激しかったです。気になるのはヅラらしき」
「桂だ」
「…桂らしき人物が池田屋に寄りつつ、対馬藩邸に入ったことですかね」
途中、山崎に訂正を入れられつつも、弥月は淡々と報告をする。
「長州藩士が池田屋に?」
「はい。昼過ぎくらいですけど、ホントにすごく気楽に寄って、挨拶して出て行ったって感じでした。対馬藩邸については、桂は元々そこへの出入りは多かったので、古高のことと関係ないかと思いますが」
「桂は普段から池田屋に出入りするのか?」
土方の質問に、弥月が「それは…」と島田を見る。
「それは私が。そもそもの話ですが、我々が耳にしている情報の殆どが、基本的に過激派主体のものとなっています。それは彼らが声高に話すから目立つという理由があるのですが、今までも桂という謎の人物の名前は、時折上がっておりました。それは以前の報告の通りです」
島田が土方に目配せすると、土方は頷いて先を促す。
「ここからはまだ報告にあげていませんが、過激派の話から察するに、桂は論客の中でも穏健派のようで、彼らから一線を隔しています。本人が会合には滅多に顔を出さないのは、これが理由かもしれません。
ただ、藩邸に入れない浪士の隠れ蓑の斡旋は、彼が主導しているようで、恐らく池田屋などでも顔馴染なのではないかと思われます」
「…そこまで掴んでて、その桂とやらを捕える機会がねえのか」
苦々しい顔をした土方に、島田は頭を下げる。
「申し訳ありません。それ自体が最近掴んだ情報というのもありますが、桂は藩邸外での活動や人との接触が少なく、姿形を把握したのもつい最近のことで…」
「捕まえる決定的な証拠がねぇって訳か…」
土方はチッと舌打ちする。
そこに何かがあるとは分かっていても、自分たちには藩邸を検めるだけの力がないこと、確証のない情報は上申しても意味がないことに苛立ちが募る。
「…桂、ですか。弥月君は長州藩邸を張っていたのですよね。今日はなぜその男を追って?」
山南はさも不思議という顔で、弥月に問う。
「イケメンだからです」
「矢代君」
「…というのは、半分冗談で。ほら、半年くらい前に、一番最初の監察の仕事で潜伏してたときなんですけど、ヅラ…桂先生が来るだの来ないだのって、浪士が話してたのを覚えてたんです。だから彼が動くときは、付いて行くことにしてます」
「さっきの冗談が“半分だけ”というのは」
「あまりにもイケメンだから、初めて長州藩邸の出入りを見た時から、気になって尾行してました。その成果で、最近やっと名前が分かりました」
「…なるほど。その見目麗しい特徴は」
「おっとり系イケメン。前髪邪魔でたぶん右半分見えてないと思います。身長は高いですけど、パッと見弱そうな人です。髷じゃなくて、この辺で一つに結ってます」
ぺっと拳を自分の後頭部にあてがった弥月を見ながら、林がクツクツと肩を震わせて笑い、土方以外の皆が苦笑いする。
近藤も類に漏れず、抑えきれない笑いを乗せたまま、弥月に訊いた。
「因みに、君はどちらの店が本命だと思うのかな」
「うーん。私、桂先生推しなので池田屋ですね」
至極真面目そうに答えた弥月へ、嫌そうな顔をした土方が「分かった」と。
「てめぇは池田屋へ行け。桂がいたら捕まえて来い」
「了解っす」
「このまま決定打がなければ、隊を二手に分ける。島田と川島は四国屋へ付け。林は四国屋、山崎は池田屋の伝達係として、先に張っておけ」
「「「承知」」」
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