姓は「矢代」で固定
第十話 池田屋事件
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元治元年六月五日
古高を捕えてから数刻、蔵からは絶え間なく、鞭打つ音と怒声が発せらせていたが、夕刻前にはその音も、おぞましい悲鳴も消えていた。
―――祇園祭の前の風の強い日を狙って御所に火を放ち、その混乱に乗じて中川宮朝彦親王を幽閉、一橋慶喜・松平容保らを暗殺し、孝明天皇に長州へ御動座頂く―――
永倉は怒りにわなわなと震え、膝に拳を叩きつける。
「街に火を放つなんざ、長州の奴ら頭の螺子緩んでんじゃねえか!?」
皆、ありえないと、これ以上ない程に顔を歪めていた。
今日はすでに祇園祭の宵山で、山鉾巡行は明日にまで迫っている。早急に対策を講じなければならない。
「古高が捕縛されたことで奴らは焦っている。今夜にも会合を開いて善後策を講じるはずだ」
土方の指摘に、近藤は監察方二人を見やる。
「長州が会合を持つ場所は」
「これまでの動きから見て、四国屋、或は池田屋のいずれかと思われます」
島田の返答に、山崎も頷いた。
あちらこちらで捜査をしていた監察方が……報告する情報の精査を怠らない彼らが、その二つのどちらかだと迷わず断言する。指揮者にとって、これほど心強いことは無かった。
「よし…会津藩と所司代に報せをだせ。トシ、隊士たちを集めろ」
土方に指示されるまでもなく、副長助勤たちは各々の隊士がいるであろう場所へ向かい、島田は「早馬は私が」と出て行った。残った山崎は、監察方の身の振り方について土方へ伺いを立てる。
「副長。林は島原に、矢代と川島がそれぞれ別の場所で張っていますが、いかがしましょう」
「そうだな……万一、四国屋、池田屋じゃねえ場合も考えて、散らしておくか…」
「いえ、弥月君らは撤収してきて下さい」
土方が采配を振る前に、山南は異見を挟む。
「こちらが人手不足なのは目に見えてますからね。ここまで場所を特定できているならば、情報収集に当てるより、討ち入りの手数とした方が良い働きをするでしょう。
それに、今すぐ早馬を出しても、会津藩らのお偉方が会議でもしてから、加勢の準備を整える時間を考えれば、出立は日没後になります。それまでは監察方に、会合場所の特定に奔走してもらうこととしましょう」
その山南の“提案”ではない姿勢に、土方は彼に深い旨趣あることを察する。こういう時の山南の意見に従っておくと、本当に“何か”あるところが彼のすごい所だと土方は思っていた。
「…分かった。島田、川島、矢代は討ち入りの準備を。山崎と林は引き続き情報収集、伝達役として動け」
「承知」
この時、山南の眼鏡の奥で、その瞳が妖しく光っていたことには誰も気づけなかった。
***
弥月side
弥月の元へも、“日没までには屯所で討ち入りの準備を整えるように”と伝令は伝わり、長州藩邸を張っていた弥月は、七つ半には屯所へ帰ってきていた。
「体調不良が多いから私たちも討ち入り組で…って聞きましたけど、どんだけ病人いるんですか?」
ひとまず監察方の部屋で、情報の共有をするために集まっていた。烝さんと林さんは引き続き出ているため、島田さんと腹ごしらえ…と云うよりも、遅すぎる昼食をしながら川島を待つ。
「さっき他の部屋の様子を見てきましたが、どうにも二十人近く、調子が悪いようですね」
「に…!?中熱(熱中症)ですか!?」
「食あたりと暑気あたりと、半々といった所でしょうか」
「信じらんない…」
帰ってきたら、手洗いとか、傷んだものはせめて火を通すとか、徹底させなきゃ…
「…島田さん、誰かなんか治療とか、それっぽいことしてました?」
「いえ、確認してませんが……恐らく、そんなには…」
弥月は頭を抱える。
烝さんと自分が外へ出ている間に、そんな状況になっているとは。
「…ちょっと勝手場行ってきます。川島来たら呼びに来るよう言ってください」
茶碗と箸を両手に、廊下を歩く。行儀が悪いとか、そんなことを言っている場合じゃない。
ポカリって何でできてんだろ…塩と、砂糖と、水だけでできるかなぁ……あぁ、そういえばカリカリ梅残ってるから、それ食べさせよう…
そうは思っても、今から病人の看病をしている余裕がないのが現状で。
屯所内のことは千鶴ちゃんにちょっとお願いできないだろうかと、申し訳ない気持ちと、期待を抱いて、彼女の部屋に向かった。
***