姓は「矢代」で固定
第一話 大切なものの守り方
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文久三年九月二十一日
夕餉の席。
弥月は監察方の部屋で、山崎と林と川島と四人で今日あったことや、他愛ない会話をしながら箸を進める。
最近はご飯の時間はまずここに顔を出して。誰もいなければ、次に斎藤組の部屋をあたっていた。
監察方は相変わらず何かと忙しいようで、烝さんは一旦報告のために戻ってきたらしい。
廊下で夕餉の膳を持った弥月が偶然出会い、そのまま挨拶しただけで山崎は燕のように出ていこうとしたのだが。
弥月は彼のたなびく黒い鉢巻を掴んで、「今すぐ行かなきゃ誰か死ぬんじゃないなら、ご飯かけこんでも死なないんじゃないですか」と言って、部屋に連れてきた。
林も先ほど帰って来たらしく、疲れているのかウトウトしていて。なんとかギリギリ箸を持っている。
川島は今日一日屯所にいたようだ。休みの日も外にいることが多いから、珍しいことこの上ない。
結果、話をしているのは殆ど弥月と川島である。
「あ、そうや、矢代はん」
「む…モグモグ…ふぁに?」
「あんたはん、今斎藤はんと巡察してるんよな?もう何日目やった?」
「んーと、そろそろ一月くらいだけど」
「斬りおうた回数は?」
「……斬られそうになったのは四、五回だけど……斬ってはない。
一昨日のはちょっと脚が思ったよりいい感じに入って……歯が一二本は逝っとったけど」
巡察で主に使われるのは捕縛術の方で、あまり浪士と斬り合いになることはない。
だが、一昨日は何かよく分からないのと斬り合いになった。「最近うちが多いな」と鈴木さんがぼやいていたから、私が当ててるんだろうと思う。昔から悪運はやたらと強い。
そもそも既に、私の存在が厄としか思えない。
確か今年は前厄……え!?これで前厄!? 来年はどこ行くの!?
「…なに、百面相してはるんか知らへんけど、話してええ?」
「へぁ!どうぞどうぞ!」
声には出てなかったようで、一先ず安心する。
もはや川島にバレる云々よりも言霊が怖い。
「斎藤はんに、刀抜けて言われてるのやろ。まだ抜いてへんの?」
「ぬ…抜いて、ない、です」
少し後ろめたくてドモると、そんなに意外だったのか、言葉少なだった林が眼も開けずに言った。
「意外だなぁ……抜けない派かぁ…」
「…竹光なら抜けるんですけど…」
「は……巡察に…竹光持ち歩いて…?」
「…はい」
刀を抜くという動作に躊躇うあまりに、護身用に竹光を持ち始めてはみたが、相手を往(い)なすのにもそれで事足りている。
最初の内は咄嗟に抜けない隊士も珍しくないらしく、弥月の場合は実害もない為、未だに多めに見てもらってはいるが。
必要性に駆られない分、実戦に出ても抜く訓練にならないというのが現状だ。
スッと林は目を開いた。
「…真剣と斬りあったら……死ぬぞ?」
「はは…だから困ってるんですけどね…」
心配そうに眉根をよせる林と川島に、曖昧に笑って返す。
"避ける、往なす、撃つ"の三段活用でここ一月ほどやってきたが、端から見たら気が気ではないだろう。
既に知っていた山崎さんが、味噌汁の椀越しに視線だけをこちらにやっているのに苦笑いをする。そんなに睨まないでください。危機感ないこともないです。
「斎藤はんに居合い教えてもらってるんとちゃうかったん?」
「いやー……最初は上手いこと抜く練習してたんですけど…」
いつも、いつの間にか真剣での打ち合いになっている。あれ、なんで?
弥月は「うーん」と悩みながらも、コンッと山崎が空になった湯呑を置くのに気付いて、「片しておきますから、置いといて下さい」と声をかけた。
三人で口々に「いってらっしゃい」と言うと、彼は少し口の端を上げて「行ってくる」と返事をしてから、足音も無く部屋を出て行った。
山崎を見送ってから、弥月は最初の居合の時の事を思い出す。
「…居合って、斎藤さんので初めて見たんですけど……どうなってんでしょうね、アレ」
「斎藤はんのは…なぁ……安易に、あん方の横に立たれへん思うわ…」
初めてみた時、刮目していたつもりで、全然見えなかった。
それに衝撃を受けたのもつかの間、腰から抜く動作すら怪しいのに、一回見ただけで「真似してみろ」と無茶振りをされ。…冗談抜きで、時が止まった。
…ってか、斎藤さん。他の隊士には段階追って指導するのに、なぜ私にはそれがないんですか。嫌がらせですか。写輪眼はまだ習ってません
黙々と考えてる間にも、手と口は食べるべく動いていて。
そんなに難しい顔をしていたのか、川島が「おきばりやす」と言ってくれた。
林さんは箸と茶碗を持ったまま寝ていた。
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