姓は「矢代」で固定
第9話 予定された死
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夜の静寂が帰って、随分と経った。
隣の部屋に人が戻ってきてからも、一刻以上は経っただろうか。
いつのまにか雨も止んだようで、少し前のことが嘘のように、いつも通りの静かな夜が訪れていた。
今夜、彼は殺された
いや……私の世界では、とっくの昔に死んだ人だった
彼らがしくじる筈はない。
彼も、終わりを望んでいたから…
いつの間にか、心は大分凪いでいた。
早く終われと望んでいたことが、終わったことへの安堵と空虚感。自分が何にも関与しえないことへの諦めと無力感を、すべて心に収めて。
弥月は何かに誘われるまま身体を起こし、戸板を除けて縁側に腰をかける。
出会って二ッ月。
誰よりも強い彼は、誰よりも儚い人だった。
稽古以外で、芹沢さんが唯一私を訪ねたのはこの裏口で。
今にして思えば、あれは垣間見せた彼の死への恐怖だったのかもしれない。
それは私が作ってしまったもの。未来の”希望”という恐れ。
そして、その希望すらも断ち切った
「…ほんまに…」
義を貫くとは何かを考えて、道を間違えたかもしれない。
何の因果か、落ちてしまったこの世界。
家に帰ることは一番の目標だけれど、私のために何かしてくれる人のために、私も何かしたいのに上手くいかない。
彼らのためになる未来への道筋は、話せないんじゃなくて分からない。
ただの凡人のように剣を振ることしかできない。いったい何故、私がここへ来たのだろう。
分からない
だけど、たくさんのことを彼から教えてもらった。
だけど、自分のものにできていないことの方が多いのではないか。
『誰も貴様を咎めたりはできんと、なぜ分からん』
自分の正義を選んで良いのだと、彼は云っていた。
けれど私は、突然分岐した私の人生に、まだ新しい道筋を決めることができなかった。信じられるものが何もない。
『いつまでも愚鈍で偏狭な童だな』
そう。そうなってしまったものは仕方ないのだ。柔軟に、臨機応変に、私が変わらなければいけない。
『生きもがく輩はいとわん』
だって、生きたいと、自分のためだけに願う事なんてできなかった。大切な人が未来にいる。なにも壊したくはなかった。
だけど、生きろと彼は云っていた
「そうですね、芹沢さん。こんな所でまだ死ねませんから」
『今日だ』
「はい、今日で最後です」
いつも通り行燈と、枕元に置いていた木刀を掴みあげる。
そのまま外へ出ていこうとしたのだが、ふと何かに呼ばれた気がして部屋の奥を見ると、目についた真剣。
『死にたくなければ取れ』
「…あなたに教えてもらったこと全てを」
弥月は裸足で駆け出した。