姓は「矢代」で固定
第7話 わたしのために
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
文久三年九月三日
段々と日が短くなるのを感じ始めた夕時。
きっかけは些細なことだった。
…いや、自分が阿呆なことに、油断していたのだ。
「金ちゃん、引っ越したことある?」
八木さんちの兄が地面を小枝でいじりながら言った。それを目の端に映しながら、弟と落ちてる石を積む。
「あるえ。最初は大阪におって……でも、4歳からずっと京におるから、あんま他所のことは知らへんなぁ」
「…カメ子ちゃんな、江戸に引っ越してもうてんて」
あぁ、なるほど。それで今日は元気ないのか
「それは寂しいなぁ。カメ子ちゃん家、何のお家やったん?」
「分からへん…」
「そっか…お父はんのお仕事の都合かもなぁ、残念やなぁ…」
「カメ子ちゃんのお父ちゃん、いつも家でお酒飲んでてん」
「…」
「お母ちゃんが笠貼りして頑張っててん」
「…そっか………お家のことはそれぞれやもんなぁ…」
我ながら下手くそな返答だとは思うが、何とタメ坊に言ってあげれば良いのか分からなかった。子どもながらにカメ子ちゃんの家の事情を、何か感じたのだろう。
「江戸なぁ…」
自分の話し方が曖昧なので、江戸にも行ったことがあるという設定になっているが、東の方は現代でも、某ランドにしか行ったことがない。
「将軍様ってどんなお家に住んではるん?」
「…たぶん城だと思うんだけど……大阪城と二条城とシンデレラ城しか見たことないからなぁ…」
「将軍様のお城ってどんなん?」
「えっと……その棒貸して」
ガリガリと『お城』の絵を描く。
「屋根が黒くて、壁は城でー……」
お、なかなか上手くない?
美術は6っていう、ありがちな数だったが。
「……で、ここに金鯱(しゃち)!」
「きんしゃち?」
「うん!金色の鯱(しゃちほこ)!」
「しゃちほこ?」
「さちほこってなに?」
「なんやよう分からんけど、魚が反り返ってんの。金ピカキラキラでな。たぶん、こ――んくらい大きい!」
「キラキラなんや!すごーい!!」
「えー!大きいなぁ!! じゃあお城はもっと大きいん!?」
「天皇……天子様の御所よりずーっと上にも横にも大きい! 山より大きい!」
「「えー!!すごーい!!」」
楽しい。子どもの反応が楽しい。
興味津々、いつの間にか復活したタメ坊の目がキラキラしてるのが嬉しい。
「ここが天守閣って言うて、むちゃ眺めがええんよ。で、またこれがキラキラやの」
「どんなんどんなん?」
「大阪城はな、ふすまに黒漆に金箔が貼ってあってな鶴と虎が描いてあるわ」
「二条はんは?」
「二条はんは一階建てやからなぁ…天守閣はあらへんし、眺めはそんなようないけど…
お庭に池とかあって綺麗やし、天井のお花なんて部屋ごとに模様が違うし、蘇鉄は立派やし…」
「ソテツってなにー?」
「ヤシの木みたいな……って、ヤシの木が分からへんもんな。
暖かいとこが好きなチクチクした木やの。あと、二の丸の門の彫刻が裏表になってて、龍と獅子がおって綺麗なんだよね」
「龍がおるん!?」
「虎ってどんなん!?」
「獅子ってなあに!?」
「虎はね~」
ガリガリと地面に絵を描いて、子どもたちの興味に応えていく。テレビもない時代だ。龍はともかく、虎や鶴だって子どもは見たことないだろう。
「えー!!黄色いん!?なんでシマシマなん!?」
「蛇さんがお空飛ぶん!?なんでなんでー!?」
子どもは可愛いなぁ
ほんわかした気持ちになる。これが母性というものだろうか。
それとも普段が殺伐とした所にいるだけに、この時代にも変わらない子どもの純真さに、落ち着くのだろうか。
微笑ましく、「なんでやろうなぁ、不思議やなぁ」と返す。
問題が発生したのはその二日後のことだった。
***