姓は「矢代」で固定
第6話 信じるもの
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***
只今、タメ坊・ユウ坊と三人で心太(ところてん)を貪っています。
心太の微妙に硬い触感と、黒糖の甘さ、独特の風味と苦みが「あぁ、これは変わらないのね…」と心に染み入ります。
「まいうー」
「「まいうー」」
もちろん、先日のおはぎはしっかり消化しました。吸収もしてます。
バタバタ
「矢代君!!」
「ふぁい?」
「わあ!忍者だ!!」
「忍者!忍者!!」
「チュル…どうしたんですか、山崎さん。そんな慌」
「君は今朝も早く起きていたな!!」
弥月の返事を最後まで聞かずに、山崎は言葉を被せる。彼は足下にまとわりつく童子達を無視しているのだが、何だか奇妙な光景だ。
「はい。七つ前には起」
「新見さんを見なかったか!?」
「…見ましたけど?」
思わず、うげ。という顔をしてしまう。
あぁ…黙っとこうと思ってたのに……知れ渡ったなんて…恥ずか死ぬ
あの時は幹部を盗人と勘違いしてしまった申し訳なさより、正義感いっぱいだった自分が恥ずかしかった。
なんだ、勧善懲悪!って。厨二か
「いつ、どこで見た!? 何か持ってたか!?」
「…七つ前に裏口でですけど。何か…持ってたとは思います」
「何か言ってたか!?」
お、おう……烝さん、必死…
よく分からないが、私の武勇伝にではなく、新見さんの方に急な用事があるようだ。
「えっと…」と今朝の記憶を辿る。何度か自分の恥ずかしい所業は反芻したが、新見さんが言ったことはあまり気に留めていなかった。少しずつ記憶を手繰りよせる。
「雨降ってるのに傘指してなかったから、指してあげて…朝早いですねーって言ってて…
…そう、緑の風呂敷持ってました。カチャカチャって、硬い物がぶつかる音が何度かしてて…」
「……!どこへ行くとかは!?」
「聞いてないです。八木さん家行くんだと思ってたし…」
「……くそっ!」
わお。烝さんが『糞』だって。やっぱりいつもは猫被ってるんですよね?
そのまま、またどこへやら走り去ろうとした山崎だったが、弥月が「あ!」と声を出したのに足を止める。
「…なにか?」
「うん、そうそう。にやにやしてヤバそうな雰囲気してて、『それ拷問の道具ですか?』って聞いたら、もう要らないから売るって」
「……売る?」
「いや、どっかに売れるのかって気にはなったんですけど、聞かない方が身のためかなぁって…」
弥月は「あははー」と乾いた笑いを溢したのたが、山崎は反比例するように考え込んでいた。
あれ? 私、変なこと言った?
「……売ると言っていたのだな?」
「え。あ、はい。何かは知りませんけど」
「分かった。ありがとう」
「どういたしまして…?」
烝さんは自分の両脚にしがみついて楽しそうにしていたユウ坊達の頭を、それぞれ一撫でしてから、足早に八木邸を後にする。
うーん、なんかあったっぽい?
「金ちゃん、ごうもんってなに?」
「…」
「金ちゃん?」
「…大人が悪いことしたときに、御奉行はんがおしおきをする事だよ」
「大人もおしおきされるの?」
「おしりぺんぺん?」
「…」
お尻ぺんぺんならいいなぁ
「…矢代はん」
「あ、こんにちは、お梅さん。ご苦労様です」
今度は八木家の中から人が出てきた。先日もここで出会った女性。職業、借金取り。
けれど、そうとは思えないような、たおやかで儚げな雰囲気の女性だ。ただ、八木家の子どもたちがあまり好きではないのか、彼らを見る目はあまり優しくはない。
「すみません、お梅さん。今日は心太、もうこれしかなくて…」
「………おおきに、でもええんよ。この前ようけおはぎ貰うたし」
「そうですか?」
お梅さんとは一昨日、芹沢さんと3人でお茶をした。特に何を話したというわけでもないが、とりあえず何故彼女がここに通っているのかということは、その時に把握している。
まるで白牡丹のような、大輪の花を想わせる綺麗なお姉さん。芹沢さんとは、借金取りと負債者という関係以上のものがありそうだった。
けれど、あまりに花が大き過ぎて、自分の重みで茎を折ってしまいそうだという印象を弥月は持っている。
ちょっぴし苦手なんだよね…この人
自分とは真反対ともいえる性格をしているせいもある気がするが、彼女の他人を寄せ付けない雰囲気に、私は取っつきにくい印象を抱いた。
お梅さん側からもそう思われているだろうことは、会話の弾まなさからお察しである。
それと、この視線が、ね…
彼女は立ったまま、淡い色の紅をひいた薄い唇で言葉を発した。
「あの人が『今日も同じ時刻に』と」
「…わお」
ツルン
「言うたからね?」
「はい。すいません、伝言ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる。彼女はそのまま芹沢の部屋へ戻るかと思ったのだが、頭を上げてもまだそこにいた。
「…ちょっと話したいことあるのやけど」
「…? どうぞ?」
お梅は弥月の横で、兄弟が難しい顔で心太と格闘しているのを見やってから、また弥月へと視線を戻す。
「二人での方がええのやけど…」
…逢引? これ以上は止めておいた方が…
そう一瞬考えたが、どう考えても自分は彼女の対象ではないだろう。
「ん、分かりました。タメ坊、ユウ坊、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」
「残り食べといたるから帰ってこんでもええよ」
「食べちゃダメ!置いといて!!」
私が松原さんに買ってもらった心太。
そんなに悲愴な顔をしていただろうか。タメ坊に「分かったわかった、早よ行き」と追い出された。
***