姓は「矢代」で固定
第6話 信じるもの
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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土方side
問題の娘が大人しく(?)「帰ります」と背を向けた後。
今しがた目の前で繰り広げられた、見ているこっちが気恥ずかしい芝居について、癪だとは思いながらも色々追及したい気持ちで一杯だった。けれど、八木邸から聞こえてきた足音で、"奴"が出てきたことを知る。
俺と奴は自他共に認める犬猿の仲だ。不愉快な思いをする前にここを離れようかと思ったのだが……なぜか奴を毛嫌いしているはずの総司が、動く気配がない。
…ったく、何考えてんだ…
矢代と総司、そしてあの男を三人にするなど、統御不能な状態になることが予想できていて放置していくことは、流石に憚られる。
仕方なく、俺は残らざるをえなかった。
「おい、小鼠。なんだ、それは」
「! こんにちは、芹沢さん!」
…鼠は気にしてねぇのか…
芹沢はまたこれから女を買いにでも出かけるのか。悠然と歩いてきては矢代の前で立ち止まって、彼の持つ重箱を指差した。
矢代はニコニコしながら、「女の子に貢がれてしまいました」と蓋を開けて、自慢気に中身を見せる。
「おはぎか」
「良い匂いでしょ」
「ふん…旨そうだが、貢がれたのなら一騒動あるだろうな」
「あはは! さすが、御明察です。もう既に一波乱あった後です」
芹沢は俺らを一瞥して、「そうだろうな」と返した。その目にどこか見下した感じを見て、少し苛立つが、何を言いたかったのかが分からない。
「芹沢さん、良ければ一個いっときます? あ、もしかして辛党ですか?飲兵衛ですもんね。」
「いや、甘味も食べるが……これはどういう処分になった」
「一人で全部食べることになっちゃって…って、あ。毒、気になるなら良いです! 全然断ってもらって大丈夫です!!」
「この欠けてるところは食べたのか?」
「はい。二個食べましたけど、美味しかったです。味なら保証しますよ!」
…
…なんて言ったら良いか分からねえが…
…妙に親しくねぇか…?
「ねぇ、君。この人、筆頭局長なんだけど、それ知ってて話してる?」
総司も同じことを思ったようで、俺と似たような疑問を口にする。
俺らと奴の関係については、ついこの前説明したばかりだし、流石に忘れているわけないと思うが…
この前は『未来云々を話さないなら勝手にしろ』とは言ったが、土方としては『面倒な拾いもの』が『面倒な男』と、自身の預かり知らぬどころで仲良くしてることは、余り気分が良くない。
「…? そりゃ、局長が誰かくらい知ってますけど?」
「敬意ってものは、何処に落としてきたの? 馬鹿すぎて最初から頭に入れられなかったの?」
「…それ、沖田さんには言われたくないんですけど」
げんなりした顔で沖田と話をした弥月は、芹沢をもう一度正面から見る。
「芹沢さん、私の態度、気になります?」
「貴様のために遣ってやる気など持ち合わせておらん」
「ですよねー。……だってさ!」
ふんと踏ん反り返って、勝ち誇った笑みで沖田を見返す矢代。
…それは威張るとこじゃねぇだろ…
しかし想像するに、屈託ない様子で、謀略もなく話しかける矢代は、芹沢にとっても物珍しいのだろう。
上京以来、彼が率先して面倒をみているボロ雑巾だった男も、俺には何故拾ったかは甚だ理解不能だった。あまりにその男が餓鬼で五月蝿いから、彼もすぐに放り出すかと思っていたが……何を思ったか、今も下男の代わりにしているようだ。
実は、面倒見が良いのかもしれねぇ…
そんなことを思いながら芹沢さんを見ると不思議なもので、彼の矢代を見る瞳に優しさの欠片さえ感じる。
「ところで、今からまた飲み屋さんですか?」
「揚屋と言え……そのつもりだったが、止めにする。それと茶を部屋に持ってこい」
「…! やった!流石に、これ一人で全部食べるの辛かったんですよ」
土方は心なし穏やかな気持ちで、嬉々として芹沢の後へ続く彼を眺めていたが……つづく弥月の言葉に、不覚にも固まってしまった。
「問題なかったらタメ坊達にもお裾分け、お裾分け!」
あいつ、芹沢さんでさえ毒見役の一人くらいにしか思ってねぇ…!
二人の『平隊士』と『筆頭局長』のはずの関係を、やはり異様に感じざるをえなかった。
だから俺より先に門の内へと戻った総司が、
「あの人も彼もあれで一緒に死んでくれたら楽なんですけどねー」
なんて言いながら、頭の後ろで腕を組んで去っていくのを咎められなかったのは、仕方のないことと思いたい。