姓は「矢代」で固定
第5話 大切なもの
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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そういうわけで八木家にて。
「あ!黄色の!」
「ほんまや! 黄色のや!」
「こらこら。金色といってくれるか、少年たちよ。私はカレー戦士では無いからな」
「金のにいちゃん、今日は何の用なん?」
「金ちゃん、また髪さわらしてーなぁ」
うーん…これはこれで仮装大賞みたい
まだ月代もない小学生くらいの少年と、ぴょんぴょんと跳ねるまだ年端もいかない男児。八木さん宅の子ども達である。
やはり子どもは無邪気だ。遠巻きにしたり臆したりするわけでもなく、ひょこひょことやって来て、相手が危険そうでないと判断するや否や、やけに”新しい玩具”のごとく気に入られてしまったのだ。
「一昨日、名前教えたやん? 弥月って言うんやけど?」
「えー!やって、それむちゃ女々しいやん! 金ちゃん折角えろうなりええのに!!」
「金ちゃんの方が言いやすいやん!」
頬を膨らまさずとも十分に丸い兄弟の顔が、さらに丸くなってパンパンで可愛らしい。自然と笑顔になってしまう。
「まあええけどさ。ところでさ、今、芹沢さんいてはる?」
「鴨のおっちゃんなら、さっき出かけたで」
「どこに?」
「たぶん飲みにや!」
「いつもやねん!」
「…ふーん。いつも何時ごろ帰りはるん?」
「さぁ」
「分からへん」
「だいたいでええよ?」
「分からん」
「いつもいつ帰ってきてるんやろな?」
・・・
「だっていつもな、寝てる時に帰ってくんねん。でな、水を持て持てって、うるさいから起きんねん」
「めちゃうるさいねん」
「お父ちゃんもお母ちゃんも、眉こーんなんなっててな。でも怒らへんねん」
「怖いねん」
「………そっか。それは難儀やなぁ…」
なんとなく想像がついた。
「んじゃまあ、しゃーないから明日……って、明日は早々に出動かもしれんのやった…また後で様子見に来るわ」
「金ちゃん、ひまなん?」
「遊ぼうや!」
「お誘いは嬉しいんやけど、もう暗ぁなるからな。お家入り…ほら、お母はん来たえ」
「あ!お母ちゃん!」
「お母ちゃんや!」
八木夫人は子どもたちを呼びに出てきたようで、割烹着姿で穏やかな顔をしていた。
「坊ら、もう入りや。
…すんまへんなぁ、矢代はん。またあの子らが御髪引っ張ったり、お邪魔したんとちゃう…?」
「ふふ…今日は引っ張られてへんし、かまへんよ。あないに気に入られて、悪い気はしいひんよってから」
気の良さそうな八木夫妻。最初はおっかなびっくりな話し方だったものの、さすが壬生浪士組を受け入れている方々とでも言おうか。器の大きい、なかなか胆の据わった夫婦だ。
「芹沢はんって、いつも何時頃帰って来はるん?」
兄弟にした質問と同じものをしてみるが、やはり「さぁ…」と困ったように首を傾げられた。
「今日帰って来はるんやったら、亥一つには居てはる思うから、縁側から回って声かけてみたらええんちゃう? 部屋教えとこか?」
「あ、うん。じゃあお願いします」
どうやら帰って来ないこともあるようだ。
***
亥一つ。庭に回って縁側から、教えてもらった部屋の中の様子を窺う。
とはいえ、弥月はそこらにいる特殊能力のごとく、壁の向こうの気配が読める面々とは違う。
うーん・・・・・・これは、居るかな~~?
という見解の元、音を立てないように障子に近づく。中は静かなものだ。少し除いてみようと枠に手を掛けた。
スッ
「――っ!?」
咄嗟に首を大きく仰け反らせ、上体を後ろへ反り返らせる。鼻先を通り過ぎた刃を目が捉えて、息を呑んだ。
僅か指の太さほどに開けた障子の隙間から、刃が飛び出してきたのだ。
弥月が動くこともできず固まっていると、刃が少しだけ持ち上げられ、向こう側から障子が開けられる。
弥月は刃越しに相手の顔を見た。
「貴様か」
「せ・・・りざわさん・・・」
「夜襲か」
「・・・とんでもないです」
なんだかおかしな返答になったが、「濡れ衣だ」と言いたかったのは伝わったようだ。
「己(おれ)は餓鬼を抱く趣味は無いが」
「・・・私もそんな目的で来たわけではないです。急ぎの話があって来ました」
「明日にしろ。己は寝る」
ピシャリと閉められた障子に、そのまま声を掛ける。
「・・・早朝に伺うより、起きてらっしゃる今の方が良いと思いますれば」
ほとんど初対面の弥月にも分かるくらい、明らかに芹沢は機嫌が悪い。深夜に訪れて眠りを妨げたのだから、当然と言えば当然なのだが。
・・・本当にこの男は、今眠っていたのだろうか?
根拠は無いが、ただそんな疑問が過ぎった。
しばらく待っても物音のしない障子の向こうに諦めかけた時、そこから微かな声だけが聞こえた。
「端的に言え」
端的・・・
「・・・誰も知りません。黙っててください」
室内には”新見”という懐刀がいると聞いている。既に彼に私のことを話したかどうかは分からない。そして、どこで誰が聞いてるとも察せられない。なるべく内容は口に出さない方が無難だ。
「俺は去(い)ねと言った。」
「三ヶ月で構いません。私の立場が落ち着くまで。それまでに貴方が納得いくような答えを探していきます。
それでもここに相応しくないとお思いでしたら、そのときに御処断下さい」
彼に問われたこと……”私がここにいる意味”。それが三ヶ月などで分かるはずも無いとも思っている。
けど、何か変わるかもしれない
何かが見えるかもしれない
いつでも可能性は0じゃない
男の返事は無かった。それは是か非か。
「・・・芹沢さん」
少しの間の後、小さな声があった。
「三ッ月か」
・・・?
相手に確認する、或いは肯定するというよりは、自分の中で反芻して確かめる様な声。
「一ッ月」
「!!」
一ヶ月・・・!?
「一ッ月で己の望む答えを出せ。良いな」
日々隊務に追われるであろう自分に、一ヶ月で答えが出せるだろうか。
たとえ無理でも、今応えるべき言葉は一つしかない。
「・・・わ、かりました」
制限時間はたった一ヶ月。その来たる時、答えを間違えれば切腹かもしれない。
逃げるルートも確保しとかなきゃ・・・
弥月はゆっくりと腰をきり、男の部屋を後にした。