姓は「矢代」で固定
第5話 大切なもの
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***
「ひっじかったさーん!」
スパンッ
「おりょ、いない。」
返事がないのは新手の戯れかと思いきや、本当にいなかった。
「今日は出かけないって聞いてたんだけどな?」
よし探そう
「そういえば、まだ探検してなかった」
入隊1日目は、初道場と八木さんの家へ挨拶に行き、子どもに弄り倒されて疲れ果て。 2日目は寄って集(たか)って平隊士に稽古をつけろとせがまれて、また泥のように眠った。
今日も肩慣らしと思って道場へ出れば、気づけば夕方で。
「んと、出入り禁止はあの辺って聞いてるけど…」
所謂、“屯所”と呼ばれる部分は“前川邸”“八木邸”の二件。当面の弥月の一人歩きが許可されたのは、それに加えて“壬生寺”への行き来。
出入り禁止の前川邸の一角。『ダメ』と言われたら行きたくなるのが人の性だが、今回ばかりは遠慮しておく。死にたくない。
「こっちが、幹部棟で。ここが監察部屋」
今更ながら、監察部屋は裏口前。完全に私が逃げ出さない前提だ。
「井戸」
昨日使ってみた。釣瓶(つるべ)式の井戸で、滑車がキィキィ言いながら回った。京都は江戸と違い、地下水が豊富だそうだ。江戸はその代わりに上水道っぽいものがあったらしく、近代的でちょっと驚く。
「お風呂」
中を覗くと五右衛門風呂が一つ。何となく使い方は想像がついた。一つ言うならばめちゃくちゃ狭いが、興味深々だから入ってみたい。
でも、釜が一つってことは、使ってなさそうだなぁ…
今の季節は残暑。男たちが井戸から直接水浴びをしているのを度々目にする。その中で、風呂を使えば無駄に目につくだろう。
「厠」
ここはまあ慣れた。袴の隙間か、脱衣して行くかは気分次第。
くるっと前川邸周囲を回るが、土方さんはいなかった。今度は八木さん家へ。
「…っと……あれ?」
あそこに見える紫色は土方さんでは。
しかし……なぜに鍬(くわ)?
あの手に持つのは間違いなく鍬。しかも裸足に草履。そして何より、今日は袴を着ておらず、帯に止めて捲れ上げられた中から見える脚は泥まみれ。
…もしかして斬魄刀だろうか。卍解しちゃったらそんなイカレた感じの格好に変身しちゃうのだろうか…
その……男性の足元にしては麗わしいとは思うのですが……
なんとも違和感。まだ句を詠んでくれていた方が、その顔には似合っていた。
いや、実はそっくりさんだったりして…
「おう、んなところで何してやがる」
「居た堪れない気持ちになってました」
土方さんは「は?」と言ったが、答えないことにした。
「土方さんに用事です」
「なんだ」
「芹沢さんとは仲良くしていいですか?」
「・・・ちょっと待て、ここで話すな」
ここは八木さんの家の前。
「山南さんの部屋に行ってろ。俺も後で行くから先に話しとけ」
「はーい」
そうでした。私の直接の上司は山南さんでした。
「なんか、みんなが『土方さん』『土方さん』って言うから、すっかり機械猫的な”困った時の土方さん”の気がしてたんですよ」
「確かに隊士への指示は彼にお任せしていますからね。みなさんが頼るのも無理はない」
山南さんは珍しく部屋にいた。昨日、一昨日と見かけなかったのだ。
「これからは私の上司は裏で牛耳る腹黒番長だと肝に銘じておきますね」
「クスクス・・・えぇ、貴方のお世話まで彼に任せるのは忍びないですからね。
ですが、明日からの巡察に関しての指示は彼にお任せしていますから、土方君に訊きに行くのも、あながち間違いではないのですが」
「あ、そうなんですか? 明日から出動ですか?」
「明日すぐかは分かりませんが、おそらく彼のことですから、初」
「山南さん」
「あぁ、来ましたか。どうぞ」
ガラッ
あ、よかった。いつもの格好だ
「・・・なんだ、さっきからジロジロ見やがって」
「いや・・・こう、なんて言うか……福笑いを観戦してるときのような、もどかしい気持ちが生まれていたもので・・・・・・お陰様で解決しました。ありがとうございます」
「・・・山南さんに本題は話したのか?」
「はい。”仲良くはするもしないも私の自由だけど、こっちの派閥が変な拾い物をしたってことは、とりあえずバレるな”ってことですよね。
しかも、なんかあっちの派閥と仲が宜しくないって理由で」
土方は山南に視線を送る。
「・・・私は『貴方はどうしたいですか?』と聞いただけなんですが…」
「だって先刻、大っきいのと小っこいのが、そりゃあもうグダグダウダウダ愚痴ってくれましたから。仲良くないんだろうなぁって。
山南さんの質問の返し方もネチコイし。方針的にはだいたい当たりみたいですね」
山南は土方ともう一度顔を見合わせてから、「そういうことです」と言った。
「彼は“筆頭局長”なので、些か隠し事をするのは憚られますが・・・・・・できますね?」
「はい」
「・・・」
「てめぇがすぐに返事するとはな・・・」
「そうですね、大変『嘘くさい』ですね」
「ええぇ!!だって『できない』って選択肢ないですよね!?」
すっかり信用がないらしい。
「そういえば、弥月君は先ほど彼と会ったのですよね? そのときは何と?」
「ぅえ? 予定通り『江戸から京へ戻ってきました』と言っただけなんですが・・・」
「その後は?」
「えっと・・・実力は多少あるようだが、毛色の違うネズミは何かと大変だろうから頑張るがいい的な・・・?」
ん…? 雰囲気は違った気もするが、意味的にはたぶんだいたい…
「…他には」
「・・・鴨鍋がおいしいなぁって思ったら怒られて・・・」
「……他には」
「えっと・・・・」
ポンッ
「そう! 貧乏同情・・・じゃなって、貧乏道場の連中と何でつるんでるのかって!」
あ。
「「・・・・・・・」」
「私が言ったんじゃないですから!それに事実だったんでしょ!! だから、私に怒らないでください!」
山南はなんとか一瞬寄った眉間のしわを伸ばしながら言った。
「貴方はなんと返したんですか?」
「いえ、あの・・・なんか、有耶無耶にしてしまったような・・・」
話す順番がバラバラになったから余計に分からなくなったが、お互いそこはあまり気にしていなかったような。
それよりも山南さん達に、私達が話していたことの大筋がバレないかがドキドキな訳で。
二人が溜息をついて、「なら、まだ大丈夫でしょう」「そうだな」と言うのでホッとした。芹沢さんに”何か”を疑われていることはバレなかった。
そして、今度は芹沢さんの方にも”何か”を口止めに行かなければということに、弥月はようやく気づいたのだった。
「ひっじかったさーん!」
スパンッ
「おりょ、いない。」
返事がないのは新手の戯れかと思いきや、本当にいなかった。
「今日は出かけないって聞いてたんだけどな?」
よし探そう
「そういえば、まだ探検してなかった」
入隊1日目は、初道場と八木さんの家へ挨拶に行き、子どもに弄り倒されて疲れ果て。 2日目は寄って集(たか)って平隊士に稽古をつけろとせがまれて、また泥のように眠った。
今日も肩慣らしと思って道場へ出れば、気づけば夕方で。
「んと、出入り禁止はあの辺って聞いてるけど…」
所謂、“屯所”と呼ばれる部分は“前川邸”“八木邸”の二件。当面の弥月の一人歩きが許可されたのは、それに加えて“壬生寺”への行き来。
出入り禁止の前川邸の一角。『ダメ』と言われたら行きたくなるのが人の性だが、今回ばかりは遠慮しておく。死にたくない。
「こっちが、幹部棟で。ここが監察部屋」
今更ながら、監察部屋は裏口前。完全に私が逃げ出さない前提だ。
「井戸」
昨日使ってみた。釣瓶(つるべ)式の井戸で、滑車がキィキィ言いながら回った。京都は江戸と違い、地下水が豊富だそうだ。江戸はその代わりに上水道っぽいものがあったらしく、近代的でちょっと驚く。
「お風呂」
中を覗くと五右衛門風呂が一つ。何となく使い方は想像がついた。一つ言うならばめちゃくちゃ狭いが、興味深々だから入ってみたい。
でも、釜が一つってことは、使ってなさそうだなぁ…
今の季節は残暑。男たちが井戸から直接水浴びをしているのを度々目にする。その中で、風呂を使えば無駄に目につくだろう。
「厠」
ここはまあ慣れた。袴の隙間か、脱衣して行くかは気分次第。
くるっと前川邸周囲を回るが、土方さんはいなかった。今度は八木さん家へ。
「…っと……あれ?」
あそこに見える紫色は土方さんでは。
しかし……なぜに鍬(くわ)?
あの手に持つのは間違いなく鍬。しかも裸足に草履。そして何より、今日は袴を着ておらず、帯に止めて捲れ上げられた中から見える脚は泥まみれ。
…もしかして斬魄刀だろうか。卍解しちゃったらそんなイカレた感じの格好に変身しちゃうのだろうか…
その……男性の足元にしては麗わしいとは思うのですが……
なんとも違和感。まだ句を詠んでくれていた方が、その顔には似合っていた。
いや、実はそっくりさんだったりして…
「おう、んなところで何してやがる」
「居た堪れない気持ちになってました」
土方さんは「は?」と言ったが、答えないことにした。
「土方さんに用事です」
「なんだ」
「芹沢さんとは仲良くしていいですか?」
「・・・ちょっと待て、ここで話すな」
ここは八木さんの家の前。
「山南さんの部屋に行ってろ。俺も後で行くから先に話しとけ」
「はーい」
そうでした。私の直接の上司は山南さんでした。
「なんか、みんなが『土方さん』『土方さん』って言うから、すっかり機械猫的な”困った時の土方さん”の気がしてたんですよ」
「確かに隊士への指示は彼にお任せしていますからね。みなさんが頼るのも無理はない」
山南さんは珍しく部屋にいた。昨日、一昨日と見かけなかったのだ。
「これからは私の上司は裏で牛耳る腹黒番長だと肝に銘じておきますね」
「クスクス・・・えぇ、貴方のお世話まで彼に任せるのは忍びないですからね。
ですが、明日からの巡察に関しての指示は彼にお任せしていますから、土方君に訊きに行くのも、あながち間違いではないのですが」
「あ、そうなんですか? 明日から出動ですか?」
「明日すぐかは分かりませんが、おそらく彼のことですから、初」
「山南さん」
「あぁ、来ましたか。どうぞ」
ガラッ
あ、よかった。いつもの格好だ
「・・・なんだ、さっきからジロジロ見やがって」
「いや・・・こう、なんて言うか……福笑いを観戦してるときのような、もどかしい気持ちが生まれていたもので・・・・・・お陰様で解決しました。ありがとうございます」
「・・・山南さんに本題は話したのか?」
「はい。”仲良くはするもしないも私の自由だけど、こっちの派閥が変な拾い物をしたってことは、とりあえずバレるな”ってことですよね。
しかも、なんかあっちの派閥と仲が宜しくないって理由で」
土方は山南に視線を送る。
「・・・私は『貴方はどうしたいですか?』と聞いただけなんですが…」
「だって先刻、大っきいのと小っこいのが、そりゃあもうグダグダウダウダ愚痴ってくれましたから。仲良くないんだろうなぁって。
山南さんの質問の返し方もネチコイし。方針的にはだいたい当たりみたいですね」
山南は土方ともう一度顔を見合わせてから、「そういうことです」と言った。
「彼は“筆頭局長”なので、些か隠し事をするのは憚られますが・・・・・・できますね?」
「はい」
「・・・」
「てめぇがすぐに返事するとはな・・・」
「そうですね、大変『嘘くさい』ですね」
「ええぇ!!だって『できない』って選択肢ないですよね!?」
すっかり信用がないらしい。
「そういえば、弥月君は先ほど彼と会ったのですよね? そのときは何と?」
「ぅえ? 予定通り『江戸から京へ戻ってきました』と言っただけなんですが・・・」
「その後は?」
「えっと・・・実力は多少あるようだが、毛色の違うネズミは何かと大変だろうから頑張るがいい的な・・・?」
ん…? 雰囲気は違った気もするが、意味的にはたぶんだいたい…
「…他には」
「・・・鴨鍋がおいしいなぁって思ったら怒られて・・・」
「……他には」
「えっと・・・・」
ポンッ
「そう! 貧乏同情・・・じゃなって、貧乏道場の連中と何でつるんでるのかって!」
あ。
「「・・・・・・・」」
「私が言ったんじゃないですから!それに事実だったんでしょ!! だから、私に怒らないでください!」
山南はなんとか一瞬寄った眉間のしわを伸ばしながら言った。
「貴方はなんと返したんですか?」
「いえ、あの・・・なんか、有耶無耶にしてしまったような・・・」
話す順番がバラバラになったから余計に分からなくなったが、お互いそこはあまり気にしていなかったような。
それよりも山南さん達に、私達が話していたことの大筋がバレないかがドキドキな訳で。
二人が溜息をついて、「なら、まだ大丈夫でしょう」「そうだな」と言うのでホッとした。芹沢さんに”何か”を疑われていることはバレなかった。
そして、今度は芹沢さんの方にも”何か”を口止めに行かなければということに、弥月はようやく気づいたのだった。