姓は「矢代」で固定
第4話 預言者
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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***
そうして。
酒騒動の翌日の午後、縁側でほへほへしている昼日中。
弥月side
縁側で、脚を庭に投げ出して大の字になる。今日はジャージ着用だから、股の開き具合など気にしなくても良いのはやはり楽だ。
ただただボケーッとしていて。ふと顔を横に向けと、廊下向こうから斎藤さんがこちらに向かって歩いていた。考え事でもしているのか、全くこちらに視線が向かない。
”賢い人は歩くのが速い”というのは本当かもしれない。どう見ても彼は注意散漫なのに、気づけば綺麗な白い足首が目の前に迫っていて…
「ぐえっ!」
「!? すまないっ!!!」
頭を踏まれました。
「すまない!大丈夫か!? 考え事をしていて、見ていなかった!!」
「だ…大丈夫です。横からでしたし…」
こんな所で寝てた私も悪いですから…と、踏まれたこめかみを手で払う。これが沖田さんならわざとなんだろうけど、斎藤さんじゃ許すしかない。
オロオロと「本当に申し訳ない」と謝る彼が物珍しく可笑しくて、笑いながら宥める。
「わざとじゃないんですから、それに私も気づいてたのに、声もかけずボーッとしてて不注意でした。なのでお互い様ってことで」
「…すまない…」
しょんぼりとする彼が可笑しくて、また笑ってしまった。
「何か難しいこと考えてたんですか?」
「いや…難しいことではない…の、だが…」
なんとも歯切れの悪い彼に首を傾げる。独り言のように彼は呟いた。
「…昨晩、何かあったか?」
「…?」
「いや…矢代が知るわけないのだな…」
「…宴の後ですか?」
「後…やはり後なのか? 分からないが…」
分からんのはこっちなのだが
「…矢代は山崎と親しいな?」
「山崎さん?」
親しいかと訊かれても。この人達の中で一番信頼はしているが、それはここ一ッ月、監視員と囚人の関係でよく話す機会があったからで…それを親しいと呼ぶのだろうか。
……一方的に好きなだけの気がする
そう思うと、なんだか片想いみたいで哀しくなってきた。
だが、斎藤は弥月が思い悩み始めたことなど知る由もなく、ちょうど良い相談相手を見つけたとばかりに話し始める。
「山崎の様子が可笑しい。」
「山崎さんの?」
「先ほど副長室で会ったのだが、俺と話す時にあからさまに目を逸らしていたんだ。昨晩の酒宴で話した時は普通だったんだが…」
「…」
えっと…
「…えっと、まさかと思いますが……昨日、斎藤さん自室へちゃんと戻られました?」
「あぁ、子の刻を過ぎた頃に真っ直ぐに帰ったが」
「…まっすぐ?」
「…真っ直ぐ」
斉藤さんが頷きつつも、斜めにコテンと首を傾げる姿は、可愛らしいのだけれど。
「……だめだこりゃ」
あはん、と目線を明後日にしてメリケンなポーズをとってみる。
「何が駄目なのだ?」
「斎藤さん、すーっかり忘れてますね?」
「何を…」
弥月はにやりと口の端を上げる。
おもちゃ見ーつっけた!!
手をおいでおいでと振り、こちらに寄るよう促す。「耳貸して」というと、訝しげな顔をしながらも素直に従ってくれるものだから、少し良心が痛まないこともないが。
「…斎藤さん、部屋に戻る途中、監察方の部屋に寄って、私に接吻を迫るような行為をしていたというのを、山崎さんが目撃しました」
バッと彼が振り返る。信じられない、そんなことする筈がないという顔で。
「何を馬鹿な…」
だが、こっそりと話したのが信憑性を増し、それならばあの山崎の態度にも納得がいくと思ったのだろう。
さらに、襲われた側のはずの弥月が、「ふふん」と、弱味を握ったとでも言いたげなのには、妙な説得力があった。
倍返し!! これを家訓とする、今日から。
未だに異見しかねる斎藤に、弥月は意地の悪い笑みを浮かべる。
「ふふ…大丈夫です。酔った勢いのことですから。
それに私は気にしていませんよ。男前が間近に見れて、目の保養だったとでも思っておきます」
彼の変態は酔っ払いのとき限定らしい。
限定!っていうと、痛い目に合ったのに、発見できたことにお得感があるから不思議だ。
本当のことはしばらく黙っとこ~
斎藤さんが返す言葉の見つからない内に、立ち上がってその場を去る。今日はもう歩くのだって、飛んだり跳ねたり無茶しなけりゃ全然問題ない。
そしたらついでに…
「ひっじかったさーん! あっそびーましょ!!」
「何度も来んな! 馬鹿かてめぇは!!」
そういえば今日は二回目でした。回想を挟んだからうっかり忘れていた。
でも、とりあえず先に済ませるべき用事は、
「いたいた、烝さん!」
「私ですか? 何か急ぎの用事でも?」
「はい、超急ぎです! 斎藤さんのことなんですけど」
「…斎藤?」
そう返事をしたのは土方で、山崎は眉を潜めたのみだった。
想像した通りの二人の反応に、弥月は内心ほくそ笑みながら、山崎の隣にちょこんと座って、彼の片膝に手を置く。
「あれは酔った勢いでの未遂なんで、虐めないであげてください」
「………しかし…」
「斎藤さん、昨日宴席を離れた後のこと、全く覚えてないみたいなんですよ。だから見に覚えの無いことで避けられたら可哀想です」
「…」
うん? 言ってる事とやってる事が違うって?
ふふふ…
「おい、待て。いったい何の話だ?」
来た!
「…あ、いえ…何でもありません」
まるで、さも彼が居るのを忘れていたのだと言う風に言葉を濁す。
「わざとらしい小芝居してんじゃねぇよ。さっきの斎藤と山崎のやり取りがおかしいことなんざ分かってんだ。
…まさかてめぇが絡んでるとは思わなかったが…」
「…聞きたいですか?」
もしも2次元で彼らを見るなら、弥月の頭から黒い触覚と、黒い尻尾が生えて、ユラユラと揺れていただろう。
「…いや、いい」
見えたらしい
「えぇぇ!! つまんないぃ!」
「…てめぇが有ること無いこと喋りたいってのは、よく分かった。しかも屯所内で録なことしねぇってのも、よーーーく分かったけどな……俺はお前の玩具にはならねぇ」
「実はですねっ!」
「話すんですか…」
烝さんのツッコミはこの際、無視することにする。
「全ては石田散薬のせいなんです!」
「「は?」」
腕を宙へと伸ばしながら、スクッと立ち上がって、ポカンとする彼らを他所に、明後日の方を見やる。
「あぁ、石田散薬。あなたはなぜ石田散薬なの」
手を胸のまえで祈るように組み、ぎゅっと身体を縮こめる。
「…石田散薬という名の『万能薬』を謳う、世にも不味い効果の無さそうな正体不明の粉を、彼が心からその効能を信じ……そして彼の優しさから、他人にも良かれと思ったばかりに…!!
私は昨日そのシラミの糞みたいな粉を口に無理矢理捩じ込まれ…」
「「…」」
パッと顔をあげた。
「あぁ! なんと苦くて不味い、乾燥したシラミの糞!!
私は酒が飲めないというのに、善人たる彼は水で流し込んでは意味がないからと、無理矢理にでも酒を飲ませようと襲いかかってくる。
けれど、長年の闘病生活で弱りきった私は、足を押さえ込まれてしまっては逃げることなど叶わない。耳元で囁くように『口を開け』と誘う彼。
あぁ!絶対絶命!!」
「「…」」
ヨヨヨ…とくずおれる。顔を上げて、表情に悲壮感を醸し出す。
舞台は暗転、スポットライトでお願いします。
「そこで私は涙しながら思うのです。
あぁ、どうして、どうしてこんなことに! あぁ、誰がこんなもの作ったの! 誰が純粋で心優しい彼に、シラミの糞なんか渡したの…!
誰が酒なら何でも良いとか適当なこと抜かしたの…! ねぇ、土方さん!」
「…」
クルンと彼の方を向く。ニッコリと。
「ねぇ?」
「……悪かった」
「心がこもってぬぁーーーい!!」
「悪かったよ!! でも俺は悪くねぇだろ!!」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いに決まっとんねん!」
「…それはこの場合、使い方が少し違うような気が…」
ふぅ…と一息ついてから、「そんな細かいこと…」と烝さんをたしなめる。
「斎藤さんが土方さんの信者なのはよーく分かりました。でも、あれ効かないですよね?」
「…今日は随分と元気そうじゃねぇか」
「…」
…言われてみれば…
「って、言うとでも思ったかぁ!?」
絶対信じない
「…でも確かに、元気ですね…」
「…! 烝さんまで!!」
「いや… 俺はあれの効能を信じている訳ではないが、もし君に効いていたのなら、今後、疲労回復薬や精力剤の調合にも使えるのではと…」
「山崎…何気に失礼だからな…」
「…申し訳ありません」
精力剤だって。やっぱ変なもの飲まされた気分だわ。
「…にしても、お前が酒飲めねぇとは意外だな。ウワバミっぽいが」
うんうんと山崎も肯く。
弥月は少し考えてから応える。
「…たぶん飲めますよ?」
「ゲコか?」
言い澱んだのが信用されなかったのか、問い直された。
「…だから飲めますって!…ちょっと自分の限界を知らないだけで…」
「ガキか」
その「俺は大人だ」と勝ち誇るような顔を、怨めしげに見る。
「仕方ないじゃないですか。向こうは二十歳になるまで、法で禁止されてるんです」
「…? さきほど君は飲めると言わなかったか?」
「…ちょっと味見したくらいです、たぶん」
「たぶん?」
「飲んだことまでは覚えてます」
「あぁ、記憶なくなる奴か」
「いつも気づいたら朝、布団で寝てます」
「まぁ…無いこともないですよね」
「自分で部屋に戻ることはないらしいです」
「…」
「大概、脛か膝か肩に新しい痣ができてます」
「山崎」
「はい」
「絶対、屯所内でも外でも飲ますな」
「承知しております」
「えぇぇ!? 元気になったらちょっとくらい良いでしょう!?」
お酒は二十歳になってから。