姓は「矢代」で固定
第4話 預言者
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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島田さんはなぜかオタオタしながら、その巨体を横に移動させて、山南さんを部屋へと導く。
そして彼は部屋の中に弥月を見つけて、ゆったりと微笑んだ。
「先程ぶりですね、矢代君。体調はいかがですか?」
「あ、はい。割と元気です」
「そうですか、顔色も一時よりは大分良いようですね。安心しました」
弥月が引きこもっていた間、彼は一度見舞いと言って部屋を訪れたのだが、顔を合わすだけして、きちんとお断りをして帰ってもらった。その時は確か三日目だったから、それなりに酷い顔をしていたはずだ。
「お陰様でそれなりに回復しました。数々の迷惑と失礼、大変申し訳御座いません。そして寛大なご配慮ありがとうございます」
手をついて深々と頭を下げる。
きっと彼が裏で手回し根回ししてくれていたはずだ。若しくは彼のおかげであの面子に、ものすごく圧力が掛かっていたことが、何となくあの場の雰囲気から察せられた。
「私達も貴方に大変申し訳ないことをしました。…どうか顔を御上げ下さい」
山南さんらしからぬ願いの言葉に、困惑しながら顔を上げる。
だが彼の顔は真剣そのもので、少しもぶれはなかった。
「貴方は今日から正式に新選組の隊士になりました。…ですから、先のようなことを言うのは最後になります」
「…はい、承知しております」
指示系統は上から下でなくては成り立たない。
山南は一つ頷いてから、山崎と島田へ、弥月と二人きりにしてほしいと頼む。
島田さんにわざわざ伝言を頼む形にしたのだから、何か言い忘れでもあるのかと思ったのだが、どうやら直接話しておきたいことがあるようだ。
「今、島田君から聞いたようですが、君を副長補佐という役職に置きます。他と役職を分けたのはもちろん君の出自を考えてのことです。
平隊士には平の上、副長助勤…沖田君達の下の役職と説明しますが、先程話した通り、平隊士補充用員としての働いてもらうことが多くなります」
「はい」
「それに先んじて、君に問うておかなければいけないことがあります」
「はい」
「あの夜、君は本当は何を見たのですか?」
ああ、やっぱり…と弥月は思う。
体調不良の数日間、その質問をされたのはたった二回のみであった。
『あの夜』がいつのことを指すかなど、今更問い返す必要もなく、それまでは繰り返し手を変え品を変え、何度も問われたこと。
「…今までお話したことに相違ありません」
「仮に、貴方があの夜何を見ていたとしても、貴方の身が保証され、これからの扱いに支障がなかったとしても?
君は聡明な子です。不利になると思ったことは話さなかったのでは?」
諭すような彼の口調に、ゆるりと頭(かぶり)を振って応え、すっと彼の眼を見据える。
「いいえ」
「嘘を吐くなら、目を放してお話しなさい」
驚きに目を見開く。
「下手な嘘吐きは目を逸らしますが、本当の嘘吐きは相手の目を見て話します。真実を語るのは目だと知っていますから。
…貴方は後者ですね?」
「…」
「君が何を見たとしても、私達が危害を加えることは無いと約束しましょう。全てをお話しなさい」
…
…だめだ。彼に嘘は通じない
沈黙が落ちる。これ以上黙っていても得はない。
隊士として死線に飛び込んでいくのに、信頼を得られない……仲間を信頼できないことは命取りだ
「…私は、この世界に現れて…すぐ…状況を把握す暇もなく、白髪の抜き身の男に襲われました…」
少し俯き、ゆっくりと話し出す弥月に、山南は相槌を打つでもなくただ黙って聴いていた。
「偶然持っていた太刀で抵抗しようとしたところ、斉藤さんが相手を後ろから一突きにしたので、驚き、呆然としていました。訳の分からぬまま土方さんに『逃げるな』と言われたので、ここにいます」
何度も何度も、問われる度に同じ話をした。そして、彼らが訊き返してきたことは…
「私はそれを仲間内での闘争、或いは精神の病の方を仕方なく殺したのだと思っています。取り立てて、あの者の容姿や言動を不審に思ったことはありません」
問われて初めて、彼が“白髪”であったことに疑問を抱いたが、それ以上の何者でもなかった。興味本位にそれが何を指すのか、問い返してただで済むとは思わなかったし、髪の色などどうでも良かったから。
そして…
「…いま言ったのは本当のことですが…明らかにしていない事があります」
僅かに山南さんの纏う気が変わったが、それでも想像していたよりは穏やかなものだった。
いつもより大きく脈を打つ心臓と、いつのまにか握る力が強くなっていた拳に、自分が委縮していることを知る。
「こちらに現れてから襲われるまで、二十数える間程……私は、あの男が女性を殺し、その血を舐めているのを見ていました。
驚いて動揺して、落ち着こうと目を瞑っている間に、気付けば私の目の前に、男が刀を振りかざして立っていました」
本当にその一点のみを曖昧にしてきた。
「それ以外は、先の通りだと言うのですね」
「はい」
コクンと肯く。
「なぜ黙っていたのですか?」
「…外聞が…悪いと思ったんです。おそらくあの女性は一般の方でしょうから、新選組…壬生浪士組の隊士に心の病の方がいて、それで無差別に町の人を殺していたと知られるのは不都合だろうから…
…目撃者はいない方がいいはずだと」
「…本当にそれだけですか?」
「はい」
再び肯く。
弥月は段々と項垂れてしまっていて。これからどんな沙汰があるのかと、頭上でする山南の吐息に集注していた。
“危害を加えない”と山南さんは約束してくれたけど、それは中身を詮議してからのことというのが分からない程、馬鹿ではない。
できれば…
「できれば、むち打ち程度でお願いします」
監禁されてる間に色々考えたが、やっぱり足に穴開けて、蝋垂らされるのは辛い。全身に回るなんて非科学的だが、ちょっとありそうとか考えてしまう。
むち打ちにせよ、蝋にせよ弱っている私では、死んでしまうかもしれないから、ご遠慮願いたいのだが。
「ハァ…」
しばらくの後聞こえてきたのは特大の溜め息。
「確かに君が見たのは忌々(ゆゆ)しき事ですが……それを隠して、君は死にかけていたんですか?」
「…?」
なぜか……そう、呆れたような声だった
おそるおそる頭を上げると、山南さんは渋面の中に、困った様な顔をしていて。
えっと、それはつまり…
「…まさか、大したことじゃ、なかったんですか…?」
山南さんは目を僅かに細くするのみで、何も答えなかった。
だが、それだけで弥月にとっては十分で、
「―――っ!?私死にかけてたんですけど!!?」
大したことじゃないってどういう事ですか!!?
自分が勝手に黙っていたから、仕方なく閉じ込められたのだとしても……納得がいかない。
噛みつく勢いで山南さんに詰め寄る。
「え!? ホンマに私、どうでもええ事で死にかけとったん!!?」
「……どうでも良くはないですが…まぁ、そうとも言」
「それって、そうとしか言われへんのちゃいますのん!?えぇぇぇぇ……………えぇっ!?」
パチンと頬に両手を当てる。自分でもわかる、すっきりとこけてしまった頬。
「…なんでやの」
絶食ダイエットはリバウンドするんですよ…?