姓は「矢代」で固定
第4話 預言者
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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近藤に掲げられた半紙に躍った文字に、一同は固まっていた。
「おいおい…」
「どっかで聞いたな…」
「冗談だろ…」
「へえ…」
「まさか…」
掲げた近藤自身も、土方も信じられないといった風で。山南はただ愉快そうに口の端を上げる。
「あいつ、やっぱ本物だろ」
平助の言葉に誰も反論できなかった。
『新選組』
それが“今日”彼らが会津公から直々に拝命した、壬生浪士組の新しいの名前であった。
「…あんま考えたくなねぇけどよ、実は、会津公に近しい奴なんじゃねえの?」
永倉の言葉に一同はハッとする。確かに拝命することを事前に知っていたなら、ありえない事でもない。
「いや、未来から来たと言うのを信じた方が無難だな」
土方はガシガシと頭を掻く。
「お前らも知ってのとおりだが、奴は生きるのに基本的なことすら知らないことが多すぎる。知らない振りをするにしても、奇妙な訊き方してきやがるしな」
「確かに『ロウシは人の名前か』って言った時には、さすがに吃驚しましたね」
山南だけでなく皆が思い当る事があったらしく、思い思いに「あー…」と言いながら記憶を辿る。
「京の通りの名前全部言えるし、寺とか神社とか御所の位置とか知ってるのに、大店の名前とか全くしらなかったぜ。
ってかそもそも、『揚屋って何。天ぷら?』ときやがった」
「洗濯板のこと『まな板っぽい板』つって、見たこともなかったらしくてさ。
んで、糠が泡立たないって文句言って、洗い方教えるの一苦労だったぞ」
「あいつ火起こせねぇんだよな。『木の板こすりあわせるんじゃないのか』とか言い出すし、火打ち石見て『すごい!!近代的!画期的!』って叫んで喜んでたぜ」
「俺らいつの人間だよ…」
「僕、退屈そうだったから本を貸してあげたんだよね。そしたら大体の漢字は読めるのに、平仮名が読めなかったりするんですよ。
何でかって訊いたら『こんなミミズがのたくったような字読めない』って言うから、思わず笑っちゃった」
「…おい待て、総司。それは何の本だ」
「句集ですよ。簡単だから無知な彼にも分かりやすいんじゃないかってね。
それにしても一個一個に首傾げてるのも良かったけど、音読させた時の『知れば迷い 知らねば迷わぬ 変の道』は最高だったな!あはは!!」
「ーーっ総司いぃぃ!!!」
土方は沖田に今にも襲い掛からんとしていたのだが。山南は銘々が自分の中で納得させた頃合いとみて近藤に進言する。
「では、矢代君が未来から来たというのは信じられて然るべきことかと」
「…そうだな。矢代君を呼んできてくれないか」
「近藤さん、わしらが行かんかね? 彼の状態が…」
井上の発言に、皆が渋い顔をした。
「俺ら…」
平助の消え入るような呟きに、誰一人言葉を連ねることはできなかった。
弥月が夜中の出歩きを許可されたのは三日前のことで、吐き戻しはしなくなったものの、一日を殆ど寝て過ごしていた。夜間、山崎を連れて土方の部屋に出入りしていることは暗黙の了解となっている。
「今、彼は納戸にいるのか?」
近藤の質問に、先ほどまで見張りだった原田が答える。
「あぁ、寝てたけどな。島田が見てる」
「…それは全員で行くには狭いな。やはり、連れてくるしかないか」
***
弥月は島田に起こされ、寝ぼけている所を彼に抱え上げられた。
「ぅおっ!? しっ、島田さん!?なんですか、何なんですか!!?」
「局長たちが呼んでいますので、広間にお連れします」
「歩きますっ! 歩きますから!!」
ガタイの良い彼は「重い」とかはあまり気にしていなさそうだが、横抱きにされては気恥ずかしい事この上ない。散々叫んだものの、彼は結局広間に着くまで下ろしてくれなかった。
「入ります」と島田さんが中に声を掛けた事で、広間への到着を知ったのだが、何となく顔を上げれず、下ろされるまで彼の肩に顔を隠していた。
…?
下ろされた先でおずおずと顔を上げると、ここ一ッ月で関わった面々がそろっていた。けれど、初対面の時の物々しい雰囲気ではなく、何故か落ちこんでいるような…
烝さんはいない
最近のライナスの毛布が足りないことに気付く。天井にいるわけでもなさそうだ。
そんな場の状況を見つつ、彼らに何も言われないから、居心地の悪さを感じて黙っていた。けれど、呼ばれたからには用事があるのだろう。そう思った弥月が部屋の真ん中にきちんと正座すると、近藤は「いや、楽にしてくれ」と言ってから、自分は正座をして、床に穴を開けるほど勢いよく頭を下げた。
ゴッ
うっわ!痛っ!!
「疑ってすまなかった! 君が未来から来たというのは本当だと信じよう!!」
おでこがっ………ぬ?
「えっと、おでこ大丈夫ですか? それと、なぜ?」
「あぁ、ありがとう大丈夫だ!! それと今日、会津公から隊の名を拝命した」
いや、そんなついでみたいに…とその場の誰もが思ったのだが、当の本人たちは気にしていない。
ああ、と弥月は手を打つ。そんな布石を打っておいたことを忘れていた。
「『新選組』ですか?」
「うむ、やはり君は知っていたのかね」
「そうですね……まあ、ダンダラ模様の羽織ってことは”新選組”か“赤穂浪士”かなって」
「…! そうなのか!俺たちも彼らのように未来に名を残せるのか!」
――っまずい!
自分は行き過ぎたのだと、サッと血の気が引く感覚がした。
「おうよ! 名を上げて100年後にも永倉新八の名を轟かしてやるぜ!」
顔を輝かせて盛り上がる皆の雰囲気に、弥月は曖昧な笑みを浮かべる。彼らに教えられるギリギリのラインは、気をつけていなければ、うっかりで越えてしまいかねない。
話題を逸らそう
「それじゃあ、私の監視は無くなって、解放してもらえるんですか?」
「いや、てめえにはここで暮らしてもらう」
「衣食住をありがとうございます」
手を合わせて拝むと、土方さんは信じられないものを見る顔をしてくる。
「働け。一隊士としてだ。幹部の傍から離れるな」
半ば当然のことで納得しかけたが、ふと気付いて弥月は眉間に皺を寄せる。
それ、監視じゃん?
そして、土方との問答ももう慣れたものだと、無言で不満をぶつける。
「んな顔すんじゃねえ。てめぇは自分がどんだけ意味不明な言動をしてるか気付いてねぇのか」
「…してません」
「してんだよ! どこに十七年生きてて、厠の使い方が分かんねぇ奴がいる!!」
「…」
まあ、ご最も
「引き続き、てめえが未来から来たっていうのは極秘でいく。
生活で分かんねえことはこいつらに訊け。くれぐれも隊内を混乱に陥れるんじゃねえ」
「外出は?」
「隊士として巡察に出ろ。ただし補充用員だ。どこの隊に出るかは俺が指示する」
「遊びに行きたい」
「当分は一人での外出は控えろ。世の中の迷惑だ」
「わがままめ」
土方はこめかみを引くつかせて「てめえがな」と言った。
「刀は返しますよ」
「あ、どうも」
山南さんの言葉と、斎藤さんの手によって差し出されたそれを受け取る。残念ながら、触ったからどうという事もなかった。少しばかり残念に思っていると、斎藤さんが「ひとつ聞きたいんだが」と尋ねてくる。
「それはどこで手に入れた」
「この剣ですか? 道場に飾ってあったんですけど、初めて見た物で、触った瞬間にこっちに来たので、私にも分かりません」
「誰も使っていないと?」
「…そうですね、少なくとも戦後…80年くらいは使ってないですね」
そうでなくては困ると言う希望的観測だが、一応答えておく。
思案するように「そうか」と返されたが、刀の事なんてさっぱり分からないので、それ以上答えようがなかった。