姓は「矢代」で固定
第3話 日陰者
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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土方side
「ほら!」
「ほら、じゃねぇ!!ああいうのは夜襲っていうんだ! 夜這いっつーのは、ヤりてえ時に行くもんなんだよ!」
がなる俺に対し、矢代は興味無さ気に「へーそうなんですかー」と返してきた。
心なし目が据わっているようなのは気のせいだろうか。
…もしかして、分かって言ってるのか?
奴の語彙力を疑うが、そんな問答するつもりもない。
「…起きたんなら、山崎連れてさっさと部屋に戻れ」
元通り、文机の書状に視線をやってから顎を障子へと釈ると、深夜から部屋の隅に座していた山崎が「了解しました」と言って立ち上がる。
矢代は山崎の存在に、声をあげて驚いた。
「布団も片付けるので退いて下さい」
「あ、すいません……って、ちょっ!ちょい待ち!! なんで私ここにいるんですか!?
記憶の限りでは、私、納戸で寝ましたよね? 土方さんに付いて来てないですよね?」
矢代は視線を遣らない俺からの説明ではなく、山崎に答えを求めるが。何故か奴から返答がない。
紙に走らせる筆は止めなかったが、山崎が困ったように自分を見ているのに気付いた。
別に、普通に言やぁ良いだろうが…
「お前が寝た後、ここに運んだ」
「誰が?」
「俺だ」
矢代は五数える間ほど固まった後、怪訝な顔をする。勿論、直接見てはいないのだが、呼吸が変わったから間違いないだろう。
「なんでまた…私、何かしました? 確かに抵抗しようとはしましたけど………それに、待遇の改善って訳じゃないんですよね? 」
「そうだ、処分は変わらず保留だ。部屋に大人しく戻れ」
「…」
「幹部と歩くお前を見たって隊士がいる。気を付けろ。屯所内を無駄に彷徨(ある)くんじゃねぇ。昼間は絶対に部屋から出るな。
…分かったら戻れ」
「…」
一瞬だけ止めていた筆を再び走らせる。納得していない様子の彼に、これ以上説明する気はないことを態度で示した。
喧(やかま)しいこいつならまだ食い下がるだろうが、山崎に引き摺ってでも連れて行かせる気だ。
「…分かりました」
土方が驚いて少し顔を上げると、間近にいた彼と自然と視線が絡まる。
それは相手の顔色を伺うような眼ではなく、自ら意思をもって思考する眼。
長いようで僅かな間の後、彼は「ありがとうございます」と浅礼してから、山崎の手を借りて部屋を辞した。
誰もいなくなった部屋で、山南さんの言う通り、矢代は賢い奴だと土方は初めて思った。
帰室した後、山崎から話をする手筈になっていたが、それも必要ないだろう。
まさか、夜間の出歩きを許可したのに気付くとはな…