姓は「矢代」で固定
第3話 日陰者
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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虚空を切り裂く音は、頭上で止まった。
それに気づくのに数秒。
息も心臓も一瞬止まった。
今更、汗が吹き出て、鼓動がバクンバクンと喧しく鳴る。
「―――ッあ…ハッ…ハッ」
死…んで、ない…
「…そりゃ無茶だろ」
敵の声に、パッと顔を上げる。頭上の男は刀を納めるところだった。
「土、方さ、ん…」
「まともに立てもしねぇ奴が、俺を蹴り飛ばそうなんざ、掠りもするはずがねぇ」
「…」
「てめぇ、何でそんなに弱ってやがる」
「…」
「聞いてんのか」
「…知り、ませんよ…風邪で、絶食してた時だ、って、もう少し元気だった…」
「…死にそうか?」
「………あなたが聞きますか?」
「俺は何もしてねぇ。お前が勝手に死にそうなんだ」
「ははっ…確かに…」
土方は眉を寄せる。なぜ笑うのか、なぜ閉じ込めている自分たちを責めないのかが不思議だった。
「土方さんは…殺しに来たんじゃないんですか?」
「…てめぇが知ってること洗いざらい吐いたら、ここから出してやる」
「未来の話なら、腐るほどお仲間さんにしましたけど…」
「んな余田話どうでも良いんだよ。未来から来たってんなら明日の天気でも当ててみやがれ」
お天気お姉さんじゃないつーの…
「そっちを信じてもらえた所で、間者の疑いが無くなる訳じゃないんですよね。
…死ぬ前に、拷問でもしときます?」
「悪かねぇ提案だが、今の状態じゃ吐く前におっちんじまうのが目に見えてるからな」
「それは困りましたね…もう死ぬの待つしかないっぽいんですか?」
「俺は『吐け』ってんだ。…山崎はそれで良くなるつってる」
「クスクス…吐け吐けって、もう出ませんて。桶の中でも見てください」
いそいそと布団に戻る。
冗談を言ったら、怒るかと思った。
命が惜しくねぇ様だな
情報も持たねぇ無駄飯喰らいがぬけぬけと
そんな言葉を期待した。
私、いつから死にたがりになったんだろ…?
けれど、存外、彼はため息を吐いた後、呆れたような、労わるような声で、
「…そっちじゃねぇよ。…悪いこた言わねぇ。死にたくねぇなら話せ」
と諭した。
だからか、その言葉は、すとんと弥月の中に落ちた。
死にたくないなら話せ…?
私って死にたかったの?
…
…死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
『弥月! しっかりしろ!!』
『ごめん!ごめん!俺が悪かった!! 頼む!死なないでくれ!』
『弥月!! 大丈夫だから!』
『頑張れ! 弥月!!』
『弥月!!』
『弥月!!』
幼いころ大けがをしたとき、家族のみんなが願ってくれた。私の未来を。
「…っ…」
「…矢代?」
「…っ…死にたく…ない…」
「…!」
死ぬ
こんな訳の分からない所で死ぬ
そんなのイヤだ
嫌だ
いやだ
「…ふっ…うっ………うっ…」
涙が出た。
自分の不幸を呪った。
なんでこんな事になったんだろう
「……けど……消える……みんなを消しちゃう、のは、もっと、イヤ…なんです…ごめ、なさい……話せ、ません…」