姓は「矢代」で固定
第3話 日陰者
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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土方が去って、ふと気づく。
「監視いなくね?」
なんて適当なんだろう。逃げて良いよってことなのか。
平助は平気で放って行くし、咎めた筈の土方さんも行ってしまうし、おざなり過ぎるだろう。
「…とか言って、逃げる気ないけど~」
「なんだつまらない」
「…いたんですか」
姿は見えないが、声が壁の向こうからした。
この嫌味な感じは“沖田総司”で間違いないだろう。
「部屋横だもん。土方さんも困るよね、僕にこんな面倒臭いの押し付けるなんて。
それに君、五月蠅いんだけど。ほんと独り言多いよね、友達いないの?」
「…五月蠅いのは謝りますけど、余計なお世話です。
沖田さんがここの前の住人追い出したんじゃないんですか? ネチネチと嫌味でも言って」
「僕は君と違って繊細だからね。毎日、市中巡回や稽古で疲れているのに、夜中に変な物音とか立てられると困るんだよ」
「へぇ~、それで鼾が五月蝿いとかなんとか言って、幼気な隊士を昼夜いじめ倒したんですね。目に浮かびますよ、その真っ黒な笑顔が」
「さすが未来から来たっていうだけあるね。君がこれからいじめ倒されて泣きを見るのが見えてるなんて」
「やってみろってんだ。返り討ちにしてくれるわ」
「弥月、持ってきたぞー…って、何揉めてんだ?」
壁を一枚挟みながら邪悪な気を醸し出す二人に、平助は右手の行燈を取り落しそうになる。
「揉めてないよ」とニコリと笑って見せる、弥月の笑顔が逆に怖い。
「あ、それ行燈だよね。使っていいの?」
「お、おぉ。油は後で持ってくっから」
「ありがとう。確かに昼間は廊下から入る光でなんとかなるけど、暗いもんね。平助は気が利くね、助かる」
感謝を伝えると、へへっと平助は嬉しそうにする。照れる様は少年の姿そのままで、彼は年上だからと偉そうにする風もなくて、弥月は一緒にいて気が楽だった。
「明るくても暗くても、ここで寝るしか能ないんだから、別にいらないんじゃない? 勿体ない」
そして、弥月にとって“要らんこと言い”のこいつ。
なぜ沖田さんが横なんですか。恨みますよ、土方さん
「…能はあるけど使わせて貰えないだけだから」
「へぇ、どんな才能があるっていうのさ」
「知力は十人並だけどね、運動能力は自信あります」
「ふーん、でもこんなとこじゃ運動能力に意味ないし、知力も凡人じゃあどうしようもないよね」
「あんた達の都合で監禁されるだけだから。ここで発揮するためのものじゃないから」
「それって『本当はやればできる』とか『社会が悪い』って言ってる奴と同じじゃない?」
イラ…
「…私に能がないか試してみる?」
「い」
「だあぁぁ!!もう止めとけって!
ほら総司、もう朝餉できるってはじめ君言ってたから広間行っとけって!」
弥月は平助の仲裁に押し黙る。これ以上突っ掛るのは賢い選択ではない。
「…はいはい」
沖田も弥月が引いたのを見て気が削がれたのか、のろのろと立ち上がり、隣の部屋から出ていく。
音が遠ざかるのを待って、弥月は息を吐いた。
「うん…ごめん、平助」
「いや、まあ、良いけどさ。…総司が怒らせるような事言ったんだし」
「あれが隣人だと思うと気が重いけど……なんとか慣れるよ」
それに平助は苦笑いしながら「頑張れ」と言って。私と平助の朝餉を斎藤さんが持ってくるまで、彼は掃除を手伝ってくれた。