姓は「矢代」で固定
第3話 日陰者
混沌夢主用・名前のみ変更可能
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「んじゃ、ここがお前の部屋な。俺らの部屋はあっちだから」
平助に案内されて前川邸内の入用になりそうな所を回り、屋敷の一角に辿り着く。
ガタガタと音をたてながら開けられた木戸。中から出てきたムァッとした空気に、二人は眉を寄せる。
「うぉ、やっば湿気てんなぁ」
「まあ夏だから仕方ないかな」
納戸だし、換気が悪いのは仕方がないだろう。
先ほど土方さんは『使ってる奴に移動させろ』と言っていた。けれど、実際は残っていた一人も、風通しが悪くて寝辛すぎる納戸から、実質他所に移っているそうだ。
「暑苦しいのさえ我慢すりゃぁ、一人で三畳って悪くねぇと思うな。運が良かったな」
「………なんて言うかさぁ…」
「ん? どうかしたか?」
「…いや…あんたらの部屋も、もしかしてこんな感じ?」
「いくら部屋として使ってるつったって物置だからなー。オレらの部屋はこれよりはかなり大きい。それにここは日当たり悪いな。
……あ、でも角部屋だから静かだって、前使ってた奴は言ってた!」
「…前の奴はいつまでここを?」
彼が腰に手を当てながら首を捻ると、長い髪がゆらゆらと揺れた。
「そーだな…確か半月程前くらいか?」
「…そっか。聞いた私が馬鹿だったよ。」
首を傾げる彼には、弥月が何を言いたいのか全く分かっていないらしい。
確かに、倉庫らしい細長い間取りで、明かり取りが開けられただけの室内は暗く、じめじめしている。三畳のうち一畳は物が雑多に積み上げられ、大人の男二人寝るのがやっとというところだ。人が暮らすには、静か以外に向いてるとは言い難い物件だろう。
だが、問題はそこではない。
たとえ半月以上、誰も使っていないとしても、これは間違いなく汚い。
江戸時代だからとかじゃなく汚い。
目も当てられないくらい汚い。
病気になりそうなくらい汚い。
埃とか、土とか、蜘蛛の巣とか、なんかの毛とか…
とりあえず汚いから!!
どうしてこの男が気にならないのか、全く理解できない。その平助という名前故か!?
荒れ狂った心を静めて平静を装う。そこまで自分の立場が分かっていない訳ではない。
「掃除機…はないから、とりあえず箒と雑巾の場所教えてください」
きょとんとした彼も、部屋をもう一度見て、漸く弥月の意図したことに思い至ったようだったが、「あー、それはな…」と言葉を濁した。
その後、前川邸内の案内に出てこなかった掃除用具は、八木邸まで借りに行かなければならなかった、それを知った時には、流石に弥月は幸先に不安を感じずにはいられなかった。