姓は「矢代」で固定
第2話 真偽のみかた
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弥月が決意を新たにして間もなく、三人が戻ってきて元の位置に座った。采配が下されるのを黙って待つ。
息をついたのは土方だった。
「…保留だ。こいつが未来から来たってことは信用しても良いが、長州の間者ではないと決まった訳じゃねえ。当分監視付きで過ごしてもらう」
「へ? 私、ここで暮らすんですか?」
「…近藤さんの意向だ」
苦い顔をしている土方さんの横で、彼はやはり人の良い笑みを浮かべている。
「矢代君は行く宛もないんだろう。君は腕も立つようだし、嫌でなければ隊士としてここで暮らせば良いんじゃないか?」
暮らす…
…そ、そういえば、マジで現実としての実感がなかったからか、何処で寝起きするかとか考えていなかった。身一つで、行く当てもなく野宿は色々キツイ
「隊士として、か…」
確かに腕に覚えが無いわけではないし、好きな刀を振るだけで衣食住が確保されるなら、条件としては悪くない。寧ろ思いもしなかった好待遇すぎて吃驚だ。
歴史的観点から言えば、まだ将軍は家茂。慶喜ではない。
それがいつまでかは分からないが、彼らが壬生寺に住んでいる間なら、比較的平和に暮らせるはずだ。新撰組の屯所はどこかで西本願寺へ移動する。…ということは、それまでは組織として潤沢ということ。
大政奉還で、幕府と天皇側の戦争になるまでに帰る方法を探せば……若しくは、脱走すれば良い。
うん、と一人で頷いて顔を上げる。
「…良いんで」
「でも、こんな得体の知れないのそばに置くより、斬っちゃった方が安全だし良くないですか?」
こいつ、まだ言うか! しかも今の被らせてきたのわざとだよね!? せっかくの私の寝床を!!
キッと沖田へ視線を向けたが、フッと鼻で笑われた。
しかし、近藤さんは迷うことなくそれに応える。
「総司! お上の民を無闇に殺してなんとする。我々は…」
そう朗々と話す姿にポカンとする。
いえ、わたし、お上の民じゃないですけど?
「そんなにこいつが不審だっていうなら、総司の隊に入れれば良いんじゃねーの?」
「え、やだ!」
反射的に私の口から出た。
しまった、とも思ったが、出てしまったものはもう引っ込めようがない。
「…僕だって嫌だけどさ、先に言われる何かムカつくなあ」
「だって死亡確率上がるだけじゃん! 絶対『手が滑っちゃった☆』とか言って殺される! こんな人が監視とか嫌だ!」
「君、生意気だね。やっぱり、斬っ」
「あー! がたがたうるせぇ!」
鬼の一喝で場が静まる。
「こいつにはこないだ空きが出た納戸を与えておく。今納戸で寝てるやつは他に移す。
近藤さんは『隊士として』といったが、疑いが晴れるまではそこにいろ。未来から来たとかややこしい話は、他の連中には口外禁止だ。できるだけ他のやつとは接触するな」
再び沈黙が訪れる。
は? それ、普通に監禁じゃない?
「…副長、それはいったい…」
斎藤が弥月とは違う理由で、狼狽えながら問いかける。
現在、彼らは前川邸の一角で寝起きしているのだが、二人に一つ部屋が与えられている。
疑いが晴れるまで、納戸でこの人物を監視ということは…
「決定事項だ。こいつの面倒はてめぇらが三日ごとに交代で見ろ。夜中はできるだけ監察を遣らせるが、あいつらも忙しい。無理な日は寝起きを伴にしろ」
「はあ!?」
「ちょちょっと待ってくれよ!」
「なんでそうなるんだ!」
「おいおいまじかよ」
「寝語は寝てから言って下さい」
「…御意」
同時に喋り出すから、もう誰が何を言ったか訳がわからない。
「うるせぇってんだろ。文句あるやつは悪趣味な山南さんに言いやがれ」
「…土方君」
「…兎に角だな、今日の昼から三日交代だ。当番の奴は午前の巡察の報告の後からだ。…くれぐれも報告しに来るように、総司」
「え、なんで僕だけ指名なんですか」
あっけらかんとした沖田に、土方はこめかみをひくつかせる。だが、溜め息混じりに応えたのは斎藤だった。
「胸に手を当てて考えてみるといい」
「酷いなあ、はじめ君」
「…事実であろう」
まだ、やいやい誰彼が何やら言っている中、弥月は静かに座っていた。
監禁っぽいし、監視とかかったるー……ま、剣の相手してもらえばいっか
…てかなんか、イメージと違うなあ。新撰組ってもっと重苦しい雰囲気の中で、筋骨隆々のオッサン達が汗臭く刀振り回してる団体かと思ってたよ。しかもイケメン多いし
あまり『監視される』ことに関しては気にならず、今更ながら、ボケらっと全体の様子を眺めていた。
「そういう訳だが、今朝は山崎らは出てる。
平助、悪いが朝餉の間は面倒みてやれ。昼からの予定は朝餉の時にでも決める」
「平助さん…」
「しゃーねえなぁ…おい、矢代だっけか。俺は藤堂平助だ、宜しくな」
立ち上がって近づいてきた彼を見上げると、ニイッと屈託ない笑みを向けられて。空色の瞳は澄んでいて、まるで彼の裏表ない明るい性格を映しているようだった。
手足の縄をほどいて「うわ、型ついてるじゃん。ごめんな」と言ってくれる。監視の最初が彼であったことに心底ホッとして、にこりと笑みを返した。
「改めまして、矢代弥月と申します。藤堂さん、どうぞ宜しくお願い致します」
床に手をついて、ゆっくりした所作できちりとお辞儀をすると、何故か慌てたように肩をバンバンと叩かれる。
「いいって、そういうの! 大体、歳も二つしか違わねぇだろ!
それに藤堂さんなんて面倒くさいのじゃなくて、平助って呼んでくれていいからさ!なっ!!」
「んじゃ、平助。よろしく」
ポンッと彼の肩を叩く。
「「ぶっ!!」」
「……変わり身早ぇよ…」
そりゃ俺が言ったんだけどさ、と半笑いをするう平助の横で、吹き出して大声で笑う長身の男二人。
「ぎゃはは!!最高だ!!」
「やっべえ!矢代、面白すぎるだろ!!」
軽快に笑った二人は、緑の鉢巻きを巻いた筋肉の方が「永倉新八」で、赤髪のイケメンの筋肉が「原田左之助」と名乗った。
「俺も新八でいいからな!」
そう言って肩を組まれた、というより半ばのし掛かられて重いのだが。とりあえず、なんとか打ち解けて貰えるようで何よりだ。
「俺は左之でいいぜ」
彼は優しくポンと頭をなぜた。
あ、兄ちゃんみたい
その掌に二番目の兄を思い出して、少し嬉しくなる。
「はい! 新八さん、左之さん、宜しくお願いします!」
元気に挨拶すると、おう!と二人ともから返事が返ってくる。
案外やっていけるかもしれない。
「…でも重い重い!!」
どんどん圧し掛かる体重に、必死に足を突っ張って耐えた。
“加減ができない筋肉、永倉新八”と脳内辞書に書き込んでおく。