第2話 真偽のみかた

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偽名


 一番偉い近藤さんに向き直って、大きな声で一言述べた。


 その後の室内の沈黙は、先ほどのものと状況的には何ら変わりないというのに、少し笑えるような空気だった。
 マンガだったら閑古鳥でも鳴くんじゃないかと思う。鹿威し(ししおどし)なんか風流で良いかもしれない。



  うん、まあ、そうなるよね!!


 少し間を置くと、ほぼ全員が驚いた顔から、だんだんと何とも言えない憐れむような、訝しむような表情に変わっていく。もしかしたら本格的に頭の弱い子だと思われたかもしれない。


  まあね。「150年後から来ました!」なんて寧ろ笑うわ


 誰がどこから突っ込むべきなのか測り兼ねてる面々をおいて、先程から問題になっている事を取り上げる。


「そういう訳で、私、隊士?がそこの人に切られてるの見ましたけど、来たばっかりで、自分が何であそこに居たのかも分かんないですし、その辺のこと訊かれても困ります」


 都合の悪そうなことは敢えて避ける。どさくさまぎれに、うやむやにしてしまえ。


「…その、あんたが未来から来た如何というのは…何か証拠とかが?」


 唖然としていた面々の中で、最も早く質問を飛ばしてきたのは斎藤さんで。頭のキレそうな土方さんとか山南さんは、鞄の中身を見たから事情を予想していて。合点していて口を挟まないのか、単に私の様子見か、どちらなのだろうか。
 黙られると、何考えてるか分かんな過ぎて怖い。


「証拠という程の物は持ってませんけど、この時代にないであろう物なら見せれます。これ私の荷物なんですけど...スマホとか」


 ガサガサと鞄をあさり、とりあえず中の物を広げる。一度見られたから抵抗はない。そもそも見られるのが嫌というタチでもない。

 ノート、筆箱、お弁当箱…は開けたら臭そう。水筒、ティッシュ...と、次々並べていく。


  教科書は持って帰らない子なので。てへぺろ


 一通り並べてから、「どうぞ触って」と手を広げる。
 最初は「誰が行く?」とでも言いたげに、目配せし合っていた男達だったが、早くに寄ってきたのは予想通りの二人だった。
 先ほど私が操作していたのが気になったのだろう。新八さんが平助さんとスマホを裏表に何度か返してから、首を傾げる。私が説明しようと口を開きかけた瞬間、ピピピッ!と甲高いアラームの音が鳴り出す。


「「うぉ!!?」」
バンッ
「ぎゃあぁっ!? 壊れる!!」


 ぶん投げられた。


「精密機械ですよ!高いんですから!!!」

「す、すまねぇ」

「なななんだ今の!!?」

「アラーム……時間になったら鳴るよう設定してたんです。今のは寝落ちる前に宿題やったか確認しろよアラーム!…って、ちょっとそれ取ってもらえます?」


 壁に打ち付けられたそれを拾いに行こうとして、足が縛られてることを思い出す。平助さんはビクビクしながらも、それを拾って返した。
 アラームが本来鳴るのは22時。こことは昼夜が8時間ほどずれているらしい。そんなことさえも移動したという証明になってしまう。


「なあ、じゃあこれは何だ?」

「ああ、それは蛍光ペンって言って…」


 詳しく説明していると、やはり見たことが無い物には一同が興味深々で、最初は三人を遠巻きに見ていたが、シャーペンとボールペンの説明を終える頃には、斎藤さんや左之さん、沖田さんも寄ってくる。


「お弁当箱以外は瘴気とか出ませんから、まあ適当に見ても大丈夫ですよ」


 そしておそらく、これが未来人として一番説得力があるだろう。


 ピピッ

「はい、適当に喋っててくださーい」

「は? 喋ってろって…」
「何をしゃべろって言うんだよ」

「はい、おっけーです! ありがとうございまーす」

「「???」」


 その後は言わずもがな。再生された動画に、これはお偉方三人衆も度胆を抜かれたようで、さっきまでの微妙に冷めた空気から一転。すごい騒ぎになった。
 更に「いくら渡来物でも、この技術があるとは思えません」という山南さんのステキコメントから、一気にに私が“未来人”であるという信用度が上がった。


「百五十年後は過去にも来れるのか?」

「そんなはずはなかったんですけど、来ちゃいました。偶然」

「偶然で来れるのか?」

「いやー…私もなんでこんなことになったのか皆目…」


 敢えて太刀の話は避けておく。物理的な原因があるとするならば、状況から考えて、あの太刀が少なからず関係している。



  絶対に返してもらわなきゃ


「夕方に日課の走り込みして、休憩して、ぼーっとしてて。なのに急に目の前が暗くなって、気付いたら目の前で刀振りまわしてる人いるし、いったい何事かと…」

「それはまた気の毒というか…」


 近藤さんが同情的な視線をくれる。


  …うん!この人、好きです!!


 もう、この人を頼って生きるしかない気さえする。


「だけどそんなの持ってても、拾った物かもしれないし、この子が未来から来たっていう証明にはならないんじゃない?」


 良い大人達が少年のようにビデオカメラで遊んでいたりと、ざわついたままの雰囲気の中で、冷静そうに沖田さんが言った。


 あんただってさっきカメラで「土方さんの魂とった~♪」とか遊んでたじゃん!

 と、ツッコむのは内心だけにしておく。


 んー…


「…仕方ない。じゃあ、ひとつだけ。」

「「?」」


 タイムスリップした時の鉄則は、ド〇えもんに教えてもらっているから、小学生だって知っている。

  『歴史を変えてはいけない』


 だけど、自分の身を守るために、使えるものは使えばいい。それが今の私にとっては”情報”だ。
 その中で使うことが許される、社会的に可能な線引きは自分で考えるしかない。


「近々、お上から“新撰組”という名を知るでしょう」

「しんせんぐみ…? なんだそりゃあ」

「お上…って会津公か?」


  またこの不審者は何を言い出すのか、とでも言われ兼ねないが……ギリギリ彼らに伝えても問題ないのは、これが限界だろう。


「…それが何かまで教える必要はないと思いますれば」


 含みのある笑みを語尾にのせる。


 誰もが息を呑んだ。
 最初は日が登っていない霞がかった早朝に始まったこの尋問だったが、気づけばすっかり日は登り、室内は明るくなっていた。

 弥月の髪は光をのせて輝きを放つ。
 そうして、ゆったりと微笑む弥月の姿は、彼らにとってこの世にあらざる者のようにさえ見えた。

 それほどに弥月の存在は彼らの目には異質だった。
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