姓は「矢代」で固定
第2話 真偽のみかた
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確か“新選組”の面子は、“天然理心流”だったか?
私は自分が「強い」か「弱い」かにしか頓着がなかったから、系譜を覚えるのは苦手だけれど。流石に10年弱するうちに、流派の名前くらいは覚えている。
『あそこは棒術・柔術とかもあって、実戦にも特化してて面白いところだったな』
祖父か兄か、誰かが溢していた言葉を思い出す。
自分はまだ出会ったことはなかったが、彼らが褒めるほどの型だ。一度本気の手合せをしてみたいところの一つだった。
ん? じゃあこの状況って考えようによってはラッキー?
東京までの電車代浮くし、マジの実践稽古も可能!?
「君は生まれも育ちも京都ですね」
弥月が物思いに耽っていると、徐に「山南さん」と呼ばれていた人が口を開いた。
弥月は一瞬にして気持ちを切り替える。
何を訊かれるのか
「…はい、京都です」
「世間知らずと自ら言うほどには、根っからの京都の人間だと」
…うん、まあ旅行とかでしか他府県には行かないよね
「まあ、はい。そうですね」
「小姓や奉公人などの家人は?」
…わたしはどこぞのお偉いさんだ。大名の御子息に見えるってか?
この金髪が目に入らぬか~!
「そんな方はいませんし、家族みんな京都の人間ですけど」
「師はどこの御出身で?」
「…京都ですが」
彼の押し上げた眼鏡が妖しく光った。
「では、江戸の言葉を何処で身に付けました?」
「…?」
…!
目を見開く。
しまった! 丁寧語!
言葉に詰まった間に、「あ、本当だ!」と銘々が口にする。
彼らが標準語を使うから吊られていた。
見知らぬ人には丁寧語を使うのが普通になった現代で、京言葉なんてわずかな言葉の端々以外では、意識した時にしか使わないから気が付かなかった。
「さて、あなたは何処の人なのでしょうか?
そういえば、最初の土方君の質問…昨日の件についても、何も答えていないままですね」
クスクスと笑う、してやったり顔の彼をわずかに睨む。
途端、空気がピリとしたものに変わっていた。全員が置いていた刀を手にして、次に私がどう動くのかを待っている。
ちょっと……荷物、全部取り上げたのあんた達でしょ……私に素手で戦えってか…
…ん?荷物?
ふと、弥月はあることに気付いた。
あ!
「……はあ。してやられた…」
思わず溜め息が出た。憮然とした顔で、今度こそメガネを睨みつける。
「その質問は、何かしらに気付いてて言ってますよね?」
「さて、何のことでしょう?」
更に笑みを深めるあたり、本当に腹黒い。まさに暗黒微笑。
この人に救いを求めた私、人を見る目ないわー…
「土方なんとかさん」
彼はあからさまに不快な表情をしたが、そんなこと気にしてやらない。
「鞄の中身全部見たんでしょ?」
一瞬「かばん?」と訝しんだ様子だったが、思い当たる所があったらしく、「ああ、荷物のことなら」と頷く。
「説明するから返して」
「刀は返さねえぞ」
「今はいらない、死にたくないし。そっちが危なくないと判断したものだけで良いです」
「賢明だな」
そう言って彼は席を立った。
それ以外の人達は、何やら状況が分からず、山南さんと私に視線を往復させている。近藤さんと井上さんは、これまた私を見て困ったような顔をしている。信じられないと言ったような顔と言うべきか。
後ろ手の縄を解くことを要求すると、後ろから前に変わっただけだったし、代わりに足首をまた縛られた。
身体をくねらせながら姿勢を変え、なんとか正座に落ち着く。
間もなくガラッと障子が開いた。
「ほらよ」
「ちょっ! 人のもん放らないで下さいよ!」
全く謝る気のない土方さんの不遜な態度に腹が立って、斎藤さんに質問することにする。
「すいません、今何年って言いましたっけ?」
「何年?」
「あーっと、西暦は使わないんだっけ。…慶長?慶応?安政?…えーと、なんて言うんだっけ、さっき…」
「…年号か?」
「そうそれ!年号!」
つながった手でビシッと指さすと、濃紺の髪に隠れてはいるが、半分しか見えない無表情に変化が生まれた気がした。
だが、あくまで淡々とした口調で答えが返る。
「今は文久三年だが」
ここで「1850年ね!」なんて言える程、日本史好きではない。そこで登場するのがスマートフォン。
「ちょっと待ってくださいね」と言い置いて、アプリを開く。
圏外であることに気づいて、底知れぬ恐怖を感じたが、考えるのは後だ。
動きづらい両手でなんとか操作し、ダウンロード済の辞書で“文久”と叩く。
“1861.2.19~1864.2.20”ってことは、文久三年は1863年。んで、文月って言ってたから7月。7月にしては暑い…って旧暦か…
昨夜のことを思い出す。あの寝苦しさは8月も半ばと思われる。今も暑い。
自分は京都の5月後半のつもりなのだから、それは当然っちゃ当然で。仮に寝てる間に南の島へ移動したのでもないなら、この暑さは異常だろう。
うーん…また”マジ”の可能性あがっちゃった…
…
……うん。そっか…
…よし。腹も決まったし、いっちょ行きますか。