姓は「矢代」で固定
第2話 真偽のみかた
混沌夢主用・名前のみ変更可能
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いったいここはどこ?
得られた情報と照らし合わせても、合点がいかないことに気付いてしまうと、また焦りが生まれてくるもので。ただ、パニックになっても仕方がない事を判断できるくらいには落ち着いている。
どうやら次の私の言葉を待ってくれているようだから、落ち着いて質問したら答えてくれるかもしれない。
「…すみません。もう一つ先にお尋ねしたいんですけど、何度も訊くようで申し訳ないんですが、ここは京都市内なんですか?」
もしかしたら、京都府内に「鍵屋町通り」の南にある「魚棚通り」が別にあるのかもしれない。
ものすごく、もすごーーーく嫌な顔をされ、信じられないくらい長い間の後に答えが返ってくる。
「……………………ここは、壬生村だ。」
みぶそん、ミブソン、エプソ……違うちがう!…みぶ、壬生…壬生村!?
ギョッと目をむく。
壬生村…現在の京都にはもう存在しない土地名だ。少なくとも壬生町のある辺りにあたるはず。
まさか自分たちを「壬生浪士組」って名付けたからって、自分たちが住んでるところを「ここは壬生村です」なんて言わないよね…
そう思って、ここを壬生村だと仮定すると、弥月の中で何かが繋がった。
昨晩の騒動の後、自分の脚でこの建物に移動したが、距離的にそんなものだった。
自宅から、壬生寺までの道のり
なに……じゃあ最初にいた所が、やっぱり魚棚通りだとして…?
…じゃあ、まさか私がしゃがんでいたのは……
……実は床の間とか?
突飛な発想に自嘲気味の笑いが生まれるが、あながちハズレとも決め難い要素がある。
目の前の彼らは、当たり前に着物を着て、当たり前に脇に大小の刀を置いている。
そして昨日は暗くて気が付かなかったが、彼らが揃って身につけていた羽織の柄には見覚えがあった。
「新撰組」
そう無意識に呟く。
すでに弥月の頭の中は「タイムスリップ」という言葉が完全に支配していた。
なんで!!?…ってか、まじで!?冗談でしょ!!
「おい、お前…」
「すいません、もう一つ!! 今、いつですか!?日付!」
「…文久三年文月の廿日だ」
文久…って分かんないけど、とりあえず江戸時代!!
えっ!まじで!?
…
……
………まじで?
「今の将軍って誰ですか?」
「…家茂公だ」
超すごい。 将軍がいるんだって。
とりあえず自分の頬をつねってみる。ベタだけど、痛い。
…ってか、夜もずっと手足痛かったじゃん。何してんだ私。でも…これってつまりそーゆー事!?
…いや。
まだ、ドッキリって可能性もあるか?
一瞬、祖父いたずらをしている時の兄の顔が浮かぶが、それにしてはタチが悪い。
昨日の「不逞浪士」から考えても、マジの目だった。いくら特殊技術で殺人シーンを作れても、あの殺意だけは誤魔化しようがない。
だとしたら…
弥月は突如沸き上がった混乱と興奮に唆されて顔をあげる。
まじで本物と仮定してみる…か?
ポジティブも弥月の売りの一つで、適応能力は高い方だ。ヤラセでもなんでも、とりあえず状況を楽しんだもの勝ちだろう。
本当にタイムスリップしたと思う方が楽しいに決まってる。
突然、目の前の嫌疑者が自分をつねるという意味の分からない動作をして、更に百面相をするのだから、その他一同は「なんだなんだ」という反応をしていたのだが。当の本人はそんなこと全く気付いてもいない。
とりあえず、帰ったら自伝でも書こう!
弥月は上座にいる三人を見て、何処かで得た知識を引っ張りだそうとしてみる。
真ん中の恰幅の良い人が偉いとすると…局長の近藤勇。うん、割りとイメージ通りだと思われる。
左右のが…ん? どっちかが、たぶん、えっと、次に偉い人…
写真を教科書で見たことあるんだけど…明治まで生き残るはず。美男って話だったけど、どっちも美男だし。
…ってか、右の人はなんで笑顔なん?
2番目に偉い人…副長か。誰だっけ。
んーと
えーと…
……そう!
「土方なんとかさん!!」
なんだっけ?
なんとか、かんとか。
えーと、んーと…
…まあいいや。
じゃあもう一人が…沖田総司とか?
ああそうだ、副長は鬼らしいから、こっちの微笑んでるのが沖田総司かな? なんか病気になって悲惨な死に方するんだよね。
眉間の皺的に、左のこっちが土方さんってことで。
んー、後知ってるのは...そうだ、なんか鳥っぽい名前の…鷺?鷹?
…田中…鈴木…佐藤…うーん、分からん。
うーんと首を捻りながら、横を見る。すると、ソウジとかいう人が俯いて、肩を小刻みに振るわせていた。
あれ、そういえばこの人、ソウジ…そうか、こっちが沖田総司……って
「なんで笑ってるんですか…?」
と言った後に気づいた。
「……もしかして…私、口から出てましたよね?」
正面を見ると、近藤勇(仮)が何ともいない表情でこちらを見ていて。横の土方(仮)が更に眉の皺を深くして、青筋を浮かべていた。そして不服そうに口を開く。
「おうよ」
「ぶっ!」
最初に吹き出したのは誰だったか。それを皮切りにゲラゲラと男達が笑いだす。
「な、なんとかーっ!」
「土方なんとかさんだってさ、あっはっは!」
「言わなきゃいいのになあ、わかんねぇんなら!」
「土方なんとか、かんとかーって顔してた!!分かんねえやって!」
「ぎゃはは!してたしてた!まあいいやって顔!」
やばーい…
口だけはなく、顔に出てたらしい。
近藤勇(仮)の隣の偉い席にいて、最初に「口鎖がなくて申し訳ありません」と謝った、穏やかそうな男性に何か救いを求めるが。笑っているような、そうでもないような顔で曖昧に頷かれた。
ああ、やっちまった…
昔から気を抜くと「顔に出る」とよく言われたし、周りが見えなくなると考えていることを口走ってしまうのも悪い癖だった。
「口の利き方も知らねぇ、頭のおかしい餓鬼かと思いきや、そうでもないようじゃねえか」
怒ってはるわ、土方なんとかさん。
「あはは、やだなあ。もう私、世間知らずもいいとこの命知らずの餓鬼ですってぇ…」
えへへとヘラヘラ笑いながら、土方(仮)より優しそうな上司の近藤勇(仮)に助けを求める。
「…まあまあ、トシ。怯えさせても答えられないだろう?」
「近藤さん、あんたにはあれが怯えてるように見えるってのか」
「…そうですねえ。 まあ、この壬生狼と恐れられる壬生浪士組に、尋問を受けてる自覚があるにしては、随分落ち着いていらっしゃるようですね」
壬生浪士組、ね…
それが、後々「新撰組」と呼ばれる者達であることは弥月だって知っている。
…にしても、近藤さん…なかなかのんびりした方のようで…
「確かになあ。君、名は何と言ったか。」
「ニックネームはミッキー」
「は?」
「みん、き?」
「冗談です、矢代弥月です。」
某ネズミと同じ徒名が受け入れられない以上、ここは本格的に現代ではないと仮定した方が良さそうだ。
自分の判断基準もどうかと思うが。
さて、どうしたものか…