姓は「矢代」で固定
第1話 正義のみかた
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弥月は突然の闇に目を凝らす。
そして目にした凄惨な光景に声をあげることすら出来なかった。
着物を着た女の背から赤い飛沫が噴出した瞬間には、わずかに息を飲んだが、今それ以上の物音を立ててはならぬと本能が知っていた。
その一方で、「悲鳴の一つでもあげるべきだろうか」とぼんやりと考える。
昼ドラでも見てれば、反応は違ったかもしれない。
最近ハヤリの医療ドラマを見過ぎたせいだろうか。
大して、出血に対しては嫌悪感は無かった。
だからか割と冷静だと思われる。
暗闇の中、弥月は細い路地にしゃがんで、今起こっていることを分析しようと必死に頭を働かせた。
右手には腕の長さ程の鞘に収まった太刀、左手には高校の制服とスクール鞄。
着ているのはいつもの自主トレ用のジャージにTシャツ。
足元は黒のハイソックスだけで、靴は履いていない。
今しがた自分は放課後の日課であるランニングをして、家の横の剣道場に帰ってきたところだった。
そして5時までは閉まっているはずの庭に面する扉が半開きになっていたから、不思議に思って中を覗くが、そこには不用心にも誰もいない。
只、床の間の刀掛けに見慣れぬ太刀に気が付いて、気になって靴を脱いで道場に上がり、それに手を伸ばした。
それから寝た記憶も、気絶した記憶もない。
床に膝を着いた態勢だってそのままだ。
だから何故こんな所にいるのか、皆目見当がつかない。
鞘に手を触れた刹那、わずかな目眩を感じると同時に女性の悲鳴が聞こえた。
反射的に顔を上げると、さっきの光景だ。
何故か自分は夜の路地裏にいた。
そして目先の大通りでは、白髪の抜き身を持ったヤバそうな人が、悲鳴の主であろう女性を背中から袈裟懸けにしていた。
ヤバそうっていうのは、その男が「血だ!血だ!」と叫び、ひひひと笑いながら涎を垂らしてるから。
そのヤバそうな人は、横から見ていた私に気づかず、そのまま骸から溢れだした液体を舐め始める。
なんとなく夢じゃないと思う。
夜の冷えた空気も、足底に感じる指先の土の冷たさもはっきりと感じられる。
それに、先程から鼻につく鉄臭さが生々しくて、とてもじゃないが夢とは思えなかった。
ピチャピチャという水音と、下卑た笑いに思わず顔をしかめ、耳を塞ぎたくなる。
なんかよく分かんないけど、嫌な所に出くわしたな…通り魔かよ。
ほんと世の中物騒だな…。
いつまでも続く光景に、僅かに感じる吐気を抑え込む。
ビビるな。
こっちに気づかないとは限らない。
いつでも逃げられるように…
心を落ち着けようと目をわずかに伏せ、自分に言い聞かせる。
呼吸を整え、ゆっくりと瞼を開いた。
「ーーっ!!」
狂気の男は目の前にいた。
息が止まり、全身が総毛立つ。
男が緩慢な動作で振り上げた得物から液体が頬に飛び、振り下ろす動作は一瞬にも、数十秒にも感じられた。
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