le fantôme de l'Opéra

 「観客の拍手、まだ続いているぞ」
 「成功だ、この舞台は」
 アンドレとフィルマン、二人の支配人は、この夜の舞台の成功を決して忘れる事はないだろうと思った。
 今までの苦労が報われるとまで思った。
 お飾りとまではいわない、だがオペラ座の運営や演目、様々な事を取り仕切っているのはジリイと怪人であるといってよい、ところが数日前、二人は呼出を受けた。
 
 「これからのオペラ座の運営を私は彼女に任せることにした」
 そう言われ、支配人達は驚いた、すると自分たちは実質上、クビかと思ったが、そうではなかった。
 「勿論、ジリイ一人では無理がある、君たちには補佐をして貰いたい、だが、それだけでは駄目だ、そこで提案がある」
 その言葉に二人は驚いたというより何を言われるのだろうかと不安げな表情になった、だが、それも無理はない。
 「私の提案、それは劇場の運営だ」
 意味がわからず、二人は顔を見合わせた。
 「現在、パリには資金不足で破綻寸前という教会がいくつあるか知っているか」
 突然、何を言い出すのか、二人の表情を見ながらも仮面の男は話すのをやめなかった。
 「今現在、オペラ座がパリ一番と呼ばれるにしても限界がある、建物は古くなれば修理をしても長くはもたない、そこで教会を買い取る」
 「教会を、ですか」
 アンドレは驚いたようだ、だが、フィルマンは難色を示した、建物は決して広くない、そんな場所を劇場にしたところで、はたしてうまくいくのだろうかと。
 「大きな劇場を運営するのは金もコストもかかる、だが、小さな劇場は大劇場にはないメリットが有る」
 話を聞くうちに二人の表情、目つきが変わってきた、アンドレは最初の家不安そうだった、だが、根っからの商売人気質であるフィルマンは。
 「確かに、これは儲け話としては」
 「リスクはあるだろう、だが、私が手助けできるのは今しかない、将来的なことを考えればな」
 
 外国からの歌姫がやってくる、この講演をクリスティーナは恋人のラウルと一緒に観劇するつもりだった、ところが直前になって予定は変わってしまった。
 「ごめん、一緒に行けなくなった」
 「どういうこと、ラウル、ドレスも用意して、それに」
 「わかっている、本当にすまない」
 理由を説明してほしいと頼む彼女に対して恋人の表情は暗い、理由があるなら話してほしいと思ったが青年の顔を見ると言い出すことができない。
 だが、沈黙に耐えきれなくなったのか、口を開いたのは青年だ。
 オペラ座のパトロンをやめることになるかもしれない、その言葉に彼女は何も言えなかった。
 「ど、どうして」
 理由は話せないといいたげに青年は首を振った、
いや、言わなくても数日のうちには彼女は知ることになるだろう、そう思ったからだ。
 「クリス、大事な話があるんだ」
 僕と君のことだ、そう言われ、不安になった、なにを言い出すのか分からない、予想がつかない、だが、これだけはわかる。
 決していい話しではないということが。

 「スキャンダルですわね、シャニュイ家にとっては」
 気の毒にと呟くジリイ、だが、その表情はいつもと変わりないのは貴族の不祥事を今まで見てきて、珍しくないと思っているせいかもしれなかった。
 「新しい支援者は決まったか」
 「まだですが、名乗り出てきた候補者が数名おります」
 「シャニュィの噂を知って、か」
 「それ以前から知っていたようです、恨まれて
いるようですわね」
 「弟と違い、兄のフィリップは自信家だ、仕事だけでなく遊びも派手とくれば敵もいるだろうな」
 「それでどうされます」
 仮面の男は何我と問いかけたが、ああと頷いた、彼女が何を言おうとしているのかわかったからだ。
 「私は近いうちにバカンスに出る」
 「どれくらいです、あまり留守にされると」
 「困るのかね、君が」
 男は肩を竦め、支配人達も色々とやっているようじゃないかと言葉を続けた。
 「ええ、今までとは別人のようですわ」
 「連携は怠るな、私は手を出さない、つまりオペラ座は」
 ジリイは頷いた、肩に重くかかる重圧を今更のように感じたせいかもしれない。

 
 「バカンス、ですか」
 彼女が驚くというより不思議そうに尋ねる。
 「気をつけて行ってきて下さい」
 私は首を振った。
 「君も一緒に行くんだ、オペラ座はしばらく騒がしくなる、少し前に警察が来ていただろう、フィリップ・シャニュイという貴族の不祥事でね、オペラ座のパトロンだった男だ」
 彼女の顔色が変わる。
 「外国人の人身売買だけではない、商売でも色々とやっていたようだ、爵位を剥奪、いや、そうならないとしても信用は地に落ちたといってもいいだろう」
 言葉が出てこない彼女に忘れるんだと私は声をかけた。
 「落ち着いたら私はここを出る」
 以前から考え準備をしていた、いつまでも隠遁生活を送るわけにはいかない。
 「人生を新しくやり直したいと思っているんだ、
でも一人では、君が来てくれると」
 それは告白といってもよかった。
 「返事は今すぐでなくてもいい、ただ、私は」
 どんな言葉を口にすれば響くだろうか、迷いながら男は顔を見ることができなかった。
 
 どういうこと、オペラ座の支援をやめるだなんて、信じられない、彼に真実なのか聞かなければとコーラスガールからプリマになった彼女は、その話を聞いたとき驚いた。
 
 「ねえっ、メグを見なかった」
 詳しい話しを聞きたいと思った、メグならば知っているのではないかと思ったからだ。
 コーラスガールに尋ねると、知らないという素っ気ない返事に彼女は困惑した。
 仲のいいあなたが知らないなんて、聞かれた少女達の方が驚いた顔になる。
 どこか気まずさを感じながら、彼女が向かったのはオペラ座の地下だった。
 



 
 
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