第一章
その日、山は静かだった。
風は吹き、枝も揺れ、葉も擦れ合っている。
鳥の鳴き声もする。
川も流れ、獣が水を飲んでいる。
それでも、山は静かだった。
黒い影が通る。
その後にズル、ズルと続いていく。
それらは物の怪だった。
その音で鳥は羽ばたき、獣は逃げる。
それらは皆、山の奥に向かっている。
そこには古い祠があった。
祠の前に、物の怪達が集まっている。
妖怪、鬼、神までも。
山に棲むものもいる。
川に棲むものもいる。
海から来たものさえいた。
しかし、誰も声をあげなかった。
守り神は悲しそうに顔を顰めた。
鬼は無言で目を閉じた。
猫は目を逸らし黙り込んだ。
煙は何も言わなかった。
狼は親友の死を嘆いた。
兎はどうして、と呟いた。
鹿は下を向いた。
狐は目を細めた。
虎は同胞の死を悔やんだ。
鴉は泣くのを堪えた。
小さな物の怪達は、声を出さず泣いた。
それだけ慕われていた。
それだけ近しい存在だった。
だからこそ、悔やまれる。
龍神の亡骸は、もうこの世に存在しない。
神は死ねば身体が消えるのだ。
その代わり、というように古い祠は優しい暖かな気配に満ちていた。
カラン、カランと下駄の音が響く。
皆がそちらを向く。
顔布をつけた女が、祠の前に立っていた。
彼女が静かに口を開く。
「これより、龍神───の葬式を始めます」
風が優しく頬を撫でた。
夜の水雲町はとても静かだ。
まるで人間なんて住んでいないみたいに。
街灯が小さく道路を照らす。
そんな静かな景色をかき消すように走る。
「ッくそ!!」
ひたひたひた。
こちらを追いかけてくる人ではないなにかの音。
こんなはずではなかった。
今度の大会のために練習に没頭していたら、日が暮れていることに気づかなかったのだ。
部室を閉めて急いで学校から飛び出したものの、帰る途中で《あれ》と目が合ってしまいこの始末。
生まれつき、俺はああいうものに狙われやすい。
数えるのはもうやめた。
しかしここで振り返れば、追いつかれる。
「ッはあっ、は」
息が上手く吸えない。
ああいうものに追いかけられるのには慣れているとはいえ怖いものは怖い。
曲がり角を曲がる。
ここなら家に近い。
ひたひたひた。
まーってぇーまーってぇー
あちらの方が足は速いらしい。
ひたひたという水を踏むような足跡と子供のような声が近くに聞こえる。
こちらは全速力で走っているというのに!!
背後から音が響く。
声が、聞こえる。
つーかーまーえーたー
その声と同時に振り向く。
「顎 !!」
沢山の手が自身に触れるより先に黒い何かがそれを噛みちぎる。
そこに在るのは自身の影だったもの。
それは、黒い龍だった。
影が人の言語ではない咆哮を発した。
それが周囲に響き渡る。
その音を切り裂くように黒い龍は動く。
そして口を開け、今度は確実に仕留めるように噛み付いた。
ぐちゃり、と嫌な音が聞こえた。
黒い龍の牙の間から、そいつと目が合い息が止まる。
黒い龍はそいつを噛み砕こうと力を入れる。
甲高い音が聞こえた。
鼓膜が破れそうな音に、思わず耳を塞ぐ。
走った後なのに、手は酷く冷たかった。
背中に寒気が走る。
また、龍を使いすぎた。
視界が歪んだ、その瞬間。
川の音が頭に響く。
風が木々を揺らし、どこまでも澄んだ空が広がっていた。
誰かの声が聞こえる。
振り向こうとした、その瞬間。
「・・・またか・・・」
視界が戻る。
ふと見てみると龍が元の自身の影に戻っていた。
・・・どうやら倒せたらしい。
「ッ!!」
ぐらり、と重心を保てず倒れそうになる。
ここで倒れる訳にはいかない、家までもう少しなのだから。
ふらふらになりながら残りの道を歩く。
目の前が水の中のようにゆらゆらと歪んでいる。
まるで酔っ払いみたいに足がもつれて動けない。
瞼に鉛をつけられたのかと思うぐらい重くなる。
そうして家にたどり着く前に───そこで俺の意識は途切れた。
電柱の上に影がぽつり。
音もなく道路に降り立つ。
そうして倒れた彼を優しく抱き抱え、玄関まで運ぶ。
ふわふわと風に乗るように、軽やかに。
「・・・見つけた」
その呟きは、無意識なものか。
しかし誰にも聞かれず、暗闇に溶けていった。
あの一夜の、翌日。
「お前また倒れたんだって?玄関だっけか、いいのかよ学校に来て、家で休んどけよ義衛」
カバンから教科書を出していると、そう声をかけられる。
顔をあげると、眉間に皺を寄せた篠原湊が立っていた。
「倒れてたんじゃねぇよ、寝てただけだ」
「それを倒れてるって言うんだよ!!問題ねえじゃねえだろって!!お前ただでさえ倒れることが多いんだからよお!!」
「へへっ、俺ァそんな虚弱体質じゃねぇって」
「倒れてるがぁ!?笑ってる場合じゃないがぁ!?」
「おーい篠原ー意味ないぞ、そいついつもそうだから」
わーぎゃーと隣で騒ぐ篠原をよそに、前の席に座っている川瀬晴は、本から目を離さず、淡々とページをめくっていた。
「でもよぉ!?今真夏だってのにこんなに手が冷えんだぞこいつ!!ほら晴も触ってみろって!」
「はぁ?こいつの手が冷たいのはいつもだろ⋯冷たっ!?死んだのこいつ!?」
「だろぉ!?いつもより冷ぇだろやっぱ!!」
「大袈裟すぎるだろ」
「いや大ありだろこの体温⋯アイスかお前はほんとに体調が悪いとかじゃねぇんだな?」
「さっきからそう言ってんだろぉ?」
「そうかよ、本人がそう言ってんならいいんじゃねえの?倒れても知らねえけど」
「そんときは、川瀬が助けてくれるだろ?」
「・・・気分次第だな」
ぷいっと顔を逸らす。
だが耳が赤いのが見えたので湊と顔を見合せ、くすくす笑う。
キーンコーンカーンコーン
やべ、と篠原が急いで席に戻る。
ガラ、と教室のドアが開き、担任が入ってきた。
「はぁーい、席につきなさーい。出席取るわよー」
担任が出席を取る中、考える。
倒れた俺を、一体誰が玄関まで運んだんだ?
助けたということは、敵じゃない。
でも、何故助けた?
疑問がいくつも浮かんでくる。
しかし、名前を呼ばれたことでその思考は中断される。
返事をした後、窓を見る。
青い空に、白い雲が何個も浮かんでいる。
いつもと同じ、変わらない空だった。
いつか、お礼を言えたらいいんだが。
そして今日も、いつも通りの一日が始まる。
足元で影が揺れた。
────そのはずだったのに。
階段を急いで駆け下りる。
カタカタカタ、と足音が聞こえる。
だが昨日と違い、早めに日が暮れていることに気づけた。
だが、こいつらに追われてたら意味がねぇ!!
あぁくそっ!!何故学ばねえんだ俺は!!
己の馬鹿さを呪いたくなる。
他人に馬鹿と言われたらブチ切れているところだが、今回のこれも俺が馬鹿だったからだ!!
そもそも最近、こいつらにカチ合う頻度が上がっているのだから、ちゃんと気をつけるべきだった。
走って、玄関までたどり着く。
だが鍵が閉まっている!!
どうやら先回りされ閉められたらしい。
「尻尾 !!」
影が広がり、龍の尾の形になる。
そこに大きな手のような白いナニかが近づき、尾を踏む。
「1発ぶちかましてやる!!」
その瞬間に尾が暴れだし──爆発した。
「あっぶねェ!?」
思ったより爆発した。
あまり使わないから範囲が分からず、危うく巻き込まれるところだった。
確かアイツ等にしか効かないから、玄関のガラスは無事なはず、よし、問題ねぇ。
煙が段々晴れていく。
しかし、あまり効いていないようだった。
「まじかよ!!」
しかもさっきの爆発音で存在に気づかれたのか、どんどん集まってくる。
消耗を気にせず「顎 」で攻撃するべきだった!!
だが学校で眠る訳にも・・・!!
その時。
ふわり。
目の前に誰かが降り立つ。
顔布をつけている為表情は分からない。
ふんわりと花の匂いが広がる。
春の花のような、どこか懐かしい匂いだった。
目の前のそいつを見た瞬間、色々な影が少し怖気づいたように見えた。
「下がりなさい」
下がろうとせず、そのまま動こうとする。
「下がれ」
一気に空気が重苦しいものに変わる。
「・・・それでも近づくのであれば、斬る」
ふわりと髪が浮く。
命の危機を感じたのか、影の群れは四散して逃げていった。
そして、そいつは振り返り、驚いて座り込んでいる俺の手を取りこう言った。
「・・・ご無事でしたか」
よかった、と呟いていた。
その声を何処かで聞いたような気がする。
でも、何処で?
『お前さん、大丈夫か』
声が聞こえた。
目の前には散りかけている桜と、座り込んだボロボロの子供。
『随分と派手にやられたなァ、よいしょっと』
その子供を抱えてどこかへ向かおうとする。
でも、何処に?
それに、これは
俺の、声?
足元で、影が応えるように揺れた。
何かを懐かしむように。
「・・・!!─────!!」
激しい頭痛に襲われ、意識が保てなくなる。
何かを言われているようだった。
しかし、もう聞き取ることが出来なかった。
胸のざわめきが取れぬまま、意識は底に沈んでいった。
人と見えざる者、物の怪が織り成す静かで優しい物語。
─────水雲町綺譚、始まり、始まり。
風は吹き、枝も揺れ、葉も擦れ合っている。
鳥の鳴き声もする。
川も流れ、獣が水を飲んでいる。
それでも、山は静かだった。
黒い影が通る。
その後にズル、ズルと続いていく。
それらは物の怪だった。
その音で鳥は羽ばたき、獣は逃げる。
それらは皆、山の奥に向かっている。
そこには古い祠があった。
祠の前に、物の怪達が集まっている。
妖怪、鬼、神までも。
山に棲むものもいる。
川に棲むものもいる。
海から来たものさえいた。
しかし、誰も声をあげなかった。
守り神は悲しそうに顔を顰めた。
鬼は無言で目を閉じた。
猫は目を逸らし黙り込んだ。
煙は何も言わなかった。
狼は親友の死を嘆いた。
兎はどうして、と呟いた。
鹿は下を向いた。
狐は目を細めた。
虎は同胞の死を悔やんだ。
鴉は泣くのを堪えた。
小さな物の怪達は、声を出さず泣いた。
それだけ慕われていた。
それだけ近しい存在だった。
だからこそ、悔やまれる。
龍神の亡骸は、もうこの世に存在しない。
神は死ねば身体が消えるのだ。
その代わり、というように古い祠は優しい暖かな気配に満ちていた。
カラン、カランと下駄の音が響く。
皆がそちらを向く。
顔布をつけた女が、祠の前に立っていた。
彼女が静かに口を開く。
「これより、龍神───の葬式を始めます」
風が優しく頬を撫でた。
夜の水雲町はとても静かだ。
まるで人間なんて住んでいないみたいに。
街灯が小さく道路を照らす。
そんな静かな景色をかき消すように走る。
「ッくそ!!」
ひたひたひた。
こちらを追いかけてくる人ではないなにかの音。
こんなはずではなかった。
今度の大会のために練習に没頭していたら、日が暮れていることに気づかなかったのだ。
部室を閉めて急いで学校から飛び出したものの、帰る途中で《あれ》と目が合ってしまいこの始末。
生まれつき、俺はああいうものに狙われやすい。
数えるのはもうやめた。
しかしここで振り返れば、追いつかれる。
「ッはあっ、は」
息が上手く吸えない。
ああいうものに追いかけられるのには慣れているとはいえ怖いものは怖い。
曲がり角を曲がる。
ここなら家に近い。
ひたひたひた。
まーってぇーまーってぇー
あちらの方が足は速いらしい。
ひたひたという水を踏むような足跡と子供のような声が近くに聞こえる。
こちらは全速力で走っているというのに!!
背後から音が響く。
声が、聞こえる。
つーかーまーえーたー
その声と同時に振り向く。
「
沢山の手が自身に触れるより先に黒い何かがそれを噛みちぎる。
そこに在るのは自身の影だったもの。
それは、黒い龍だった。
影が人の言語ではない咆哮を発した。
それが周囲に響き渡る。
その音を切り裂くように黒い龍は動く。
そして口を開け、今度は確実に仕留めるように噛み付いた。
ぐちゃり、と嫌な音が聞こえた。
黒い龍の牙の間から、そいつと目が合い息が止まる。
黒い龍はそいつを噛み砕こうと力を入れる。
甲高い音が聞こえた。
鼓膜が破れそうな音に、思わず耳を塞ぐ。
走った後なのに、手は酷く冷たかった。
背中に寒気が走る。
また、龍を使いすぎた。
視界が歪んだ、その瞬間。
川の音が頭に響く。
風が木々を揺らし、どこまでも澄んだ空が広がっていた。
誰かの声が聞こえる。
振り向こうとした、その瞬間。
「・・・またか・・・」
視界が戻る。
ふと見てみると龍が元の自身の影に戻っていた。
・・・どうやら倒せたらしい。
「ッ!!」
ぐらり、と重心を保てず倒れそうになる。
ここで倒れる訳にはいかない、家までもう少しなのだから。
ふらふらになりながら残りの道を歩く。
目の前が水の中のようにゆらゆらと歪んでいる。
まるで酔っ払いみたいに足がもつれて動けない。
瞼に鉛をつけられたのかと思うぐらい重くなる。
そうして家にたどり着く前に───そこで俺の意識は途切れた。
電柱の上に影がぽつり。
音もなく道路に降り立つ。
そうして倒れた彼を優しく抱き抱え、玄関まで運ぶ。
ふわふわと風に乗るように、軽やかに。
「・・・見つけた」
その呟きは、無意識なものか。
しかし誰にも聞かれず、暗闇に溶けていった。
あの一夜の、翌日。
「お前また倒れたんだって?玄関だっけか、いいのかよ学校に来て、家で休んどけよ義衛」
カバンから教科書を出していると、そう声をかけられる。
顔をあげると、眉間に皺を寄せた篠原湊が立っていた。
「倒れてたんじゃねぇよ、寝てただけだ」
「それを倒れてるって言うんだよ!!問題ねえじゃねえだろって!!お前ただでさえ倒れることが多いんだからよお!!」
「へへっ、俺ァそんな虚弱体質じゃねぇって」
「倒れてるがぁ!?笑ってる場合じゃないがぁ!?」
「おーい篠原ー意味ないぞ、そいついつもそうだから」
わーぎゃーと隣で騒ぐ篠原をよそに、前の席に座っている川瀬晴は、本から目を離さず、淡々とページをめくっていた。
「でもよぉ!?今真夏だってのにこんなに手が冷えんだぞこいつ!!ほら晴も触ってみろって!」
「はぁ?こいつの手が冷たいのはいつもだろ⋯冷たっ!?死んだのこいつ!?」
「だろぉ!?いつもより冷ぇだろやっぱ!!」
「大袈裟すぎるだろ」
「いや大ありだろこの体温⋯アイスかお前はほんとに体調が悪いとかじゃねぇんだな?」
「さっきからそう言ってんだろぉ?」
「そうかよ、本人がそう言ってんならいいんじゃねえの?倒れても知らねえけど」
「そんときは、川瀬が助けてくれるだろ?」
「・・・気分次第だな」
ぷいっと顔を逸らす。
だが耳が赤いのが見えたので湊と顔を見合せ、くすくす笑う。
キーンコーンカーンコーン
やべ、と篠原が急いで席に戻る。
ガラ、と教室のドアが開き、担任が入ってきた。
「はぁーい、席につきなさーい。出席取るわよー」
担任が出席を取る中、考える。
倒れた俺を、一体誰が玄関まで運んだんだ?
助けたということは、敵じゃない。
でも、何故助けた?
疑問がいくつも浮かんでくる。
しかし、名前を呼ばれたことでその思考は中断される。
返事をした後、窓を見る。
青い空に、白い雲が何個も浮かんでいる。
いつもと同じ、変わらない空だった。
いつか、お礼を言えたらいいんだが。
そして今日も、いつも通りの一日が始まる。
足元で影が揺れた。
────そのはずだったのに。
階段を急いで駆け下りる。
カタカタカタ、と足音が聞こえる。
だが昨日と違い、早めに日が暮れていることに気づけた。
だが、こいつらに追われてたら意味がねぇ!!
あぁくそっ!!何故学ばねえんだ俺は!!
己の馬鹿さを呪いたくなる。
他人に馬鹿と言われたらブチ切れているところだが、今回のこれも俺が馬鹿だったからだ!!
そもそも最近、こいつらにカチ合う頻度が上がっているのだから、ちゃんと気をつけるべきだった。
走って、玄関までたどり着く。
だが鍵が閉まっている!!
どうやら先回りされ閉められたらしい。
「
影が広がり、龍の尾の形になる。
そこに大きな手のような白いナニかが近づき、尾を踏む。
「1発ぶちかましてやる!!」
その瞬間に尾が暴れだし──爆発した。
「あっぶねェ!?」
思ったより爆発した。
あまり使わないから範囲が分からず、危うく巻き込まれるところだった。
確かアイツ等にしか効かないから、玄関のガラスは無事なはず、よし、問題ねぇ。
煙が段々晴れていく。
しかし、あまり効いていないようだった。
「まじかよ!!」
しかもさっきの爆発音で存在に気づかれたのか、どんどん集まってくる。
消耗を気にせず「
だが学校で眠る訳にも・・・!!
その時。
ふわり。
目の前に誰かが降り立つ。
顔布をつけている為表情は分からない。
ふんわりと花の匂いが広がる。
春の花のような、どこか懐かしい匂いだった。
目の前のそいつを見た瞬間、色々な影が少し怖気づいたように見えた。
「下がりなさい」
下がろうとせず、そのまま動こうとする。
「下がれ」
一気に空気が重苦しいものに変わる。
「・・・それでも近づくのであれば、斬る」
ふわりと髪が浮く。
命の危機を感じたのか、影の群れは四散して逃げていった。
そして、そいつは振り返り、驚いて座り込んでいる俺の手を取りこう言った。
「・・・ご無事でしたか」
よかった、と呟いていた。
その声を何処かで聞いたような気がする。
でも、何処で?
『お前さん、大丈夫か』
声が聞こえた。
目の前には散りかけている桜と、座り込んだボロボロの子供。
『随分と派手にやられたなァ、よいしょっと』
その子供を抱えてどこかへ向かおうとする。
でも、何処に?
それに、これは
俺の、声?
足元で、影が応えるように揺れた。
何かを懐かしむように。
「・・・!!─────!!」
激しい頭痛に襲われ、意識が保てなくなる。
何かを言われているようだった。
しかし、もう聞き取ることが出来なかった。
胸のざわめきが取れぬまま、意識は底に沈んでいった。
人と見えざる者、物の怪が織り成す静かで優しい物語。
─────水雲町綺譚、始まり、始まり。
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