カルデア時空
ざあ、と穏やかな波の音が耳に届き、潮の香りが鼻をくすぐる。
石畳には二人分の靴音が小さく響き、柔らかな陽の光が街を静かに照らしていた。
坂道の先には、青い海がどこまでも広がっている。見上げれば、赤や橙の屋根が肩を寄せ合うように並び、窓辺には色とりどりの花が飾られ、潮風に揺れている。
「すげぇなこりゃあ」
そんな声が隣から聞こえてくる。
陽射しが眩しいのか、永倉は少しだけ目を細めながら、珍しそうに辺りを見渡していた。彼にとってはどれも新鮮なのだろう。
「こんなとこ映画でしか見た事ねぇぞ」
「そうですね。まるで本当に存在する街みたいです」
「これ全部ダ・ヴィンチの嬢ちゃんが再現したってことか」
「はい、実験的なものだとは仰っていました」
事の発端は、ダ・ヴィンチから頼まれたシミュレーションの確認だった。利用するサーヴァントが増えたことで、これまで再現できなかった街並みや景観を求める声が多くなったらしい。そのため、実験的に構築した仮想空間の感想を聞かせてほしい、そんな依頼だった。
本来はマシュが同行する予定だったが、所長にレイシフトの報告で呼ばれてしまい来られなくなってしまった。安全性は確認されているものの、万が一に備えて同行者を探していたところ、偶然その場を通りかかった永倉へ声が掛かった。
そうして今、私たちは二人で異国の街を歩いている。
「何処まで再現されてんだこりゃあ」
「一応街丸々は再現したと」
「流石ダ・ヴィンチの嬢ちゃんだな!」
そんな話をしながら進んでいく。
日本では見慣れない文字が書かれた看板が並び、建物の壁には鮮やかなタイルがはめ込まれており、長い年月を重ねた跡が残っていた。細い路地を覗けば、その先にもまた小さな店が軒を連ねている。そのどれもが本物と見紛うほどだった。しかし、人の気配だけは私達以外に感じなかった。店先に並ぶ商品も、開け放たれた窓も、誰かが今そこにいたような痕跡だけを残し、潮風の音や、波が岩場にぶつかる音だけが、この街の静けさ際立たせていた。
永倉は気になるものを見つけるたびに足を止め、あちらこちらへ興味深そうに視線を向けていた。まるで初めて旅行へ来た子どものようだ。足を止める永倉に合わせるように、ゆっくりと歩みを進める。
(まさか、またこんな風に一緒に歩けるとは)
楽しそうに歩く後ろ姿を眺め、自然と目を細める。
みんなと笑って別れたあの日を境に、もう二度とこうして隣を歩くことはないと思っていた。だからこそ、この時間がどこか夢のように感じられた。縁というものは、本当に不思議だ。しかし、今の時間も、これからの出来事も、覚えていられるのは今だけなのだろう。
それでも。
「おーい!何ボサっとしてんださくら!置いてくぞー!」
はっとして顔を上げると、少し先でこちらへ振り返り、手を振りながら笑う彼がいた。
「・・・はい!今行きます!」
その限られた時間の中で、あの人が少しでも笑っていられるのなら、それだけで十分だった。
石畳には二人分の靴音が小さく響き、柔らかな陽の光が街を静かに照らしていた。
坂道の先には、青い海がどこまでも広がっている。見上げれば、赤や橙の屋根が肩を寄せ合うように並び、窓辺には色とりどりの花が飾られ、潮風に揺れている。
「すげぇなこりゃあ」
そんな声が隣から聞こえてくる。
陽射しが眩しいのか、永倉は少しだけ目を細めながら、珍しそうに辺りを見渡していた。彼にとってはどれも新鮮なのだろう。
「こんなとこ映画でしか見た事ねぇぞ」
「そうですね。まるで本当に存在する街みたいです」
「これ全部ダ・ヴィンチの嬢ちゃんが再現したってことか」
「はい、実験的なものだとは仰っていました」
事の発端は、ダ・ヴィンチから頼まれたシミュレーションの確認だった。利用するサーヴァントが増えたことで、これまで再現できなかった街並みや景観を求める声が多くなったらしい。そのため、実験的に構築した仮想空間の感想を聞かせてほしい、そんな依頼だった。
本来はマシュが同行する予定だったが、所長にレイシフトの報告で呼ばれてしまい来られなくなってしまった。安全性は確認されているものの、万が一に備えて同行者を探していたところ、偶然その場を通りかかった永倉へ声が掛かった。
そうして今、私たちは二人で異国の街を歩いている。
「何処まで再現されてんだこりゃあ」
「一応街丸々は再現したと」
「流石ダ・ヴィンチの嬢ちゃんだな!」
そんな話をしながら進んでいく。
日本では見慣れない文字が書かれた看板が並び、建物の壁には鮮やかなタイルがはめ込まれており、長い年月を重ねた跡が残っていた。細い路地を覗けば、その先にもまた小さな店が軒を連ねている。そのどれもが本物と見紛うほどだった。しかし、人の気配だけは私達以外に感じなかった。店先に並ぶ商品も、開け放たれた窓も、誰かが今そこにいたような痕跡だけを残し、潮風の音や、波が岩場にぶつかる音だけが、この街の静けさ際立たせていた。
永倉は気になるものを見つけるたびに足を止め、あちらこちらへ興味深そうに視線を向けていた。まるで初めて旅行へ来た子どものようだ。足を止める永倉に合わせるように、ゆっくりと歩みを進める。
(まさか、またこんな風に一緒に歩けるとは)
楽しそうに歩く後ろ姿を眺め、自然と目を細める。
みんなと笑って別れたあの日を境に、もう二度とこうして隣を歩くことはないと思っていた。だからこそ、この時間がどこか夢のように感じられた。縁というものは、本当に不思議だ。しかし、今の時間も、これからの出来事も、覚えていられるのは今だけなのだろう。
それでも。
「おーい!何ボサっとしてんださくら!置いてくぞー!」
はっとして顔を上げると、少し先でこちらへ振り返り、手を振りながら笑う彼がいた。
「・・・はい!今行きます!」
その限られた時間の中で、あの人が少しでも笑っていられるのなら、それだけで十分だった。
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