カルデア時空
料理は、嫌いだ。
湯気を見ると幼少期の記憶を思い出す。
魔術ができなくても、せめて料理で役に立ちたくて、頑張って作った料理を兄弟に不味いと吐き捨てられ、目の前で捨てられる。
スープはかけられる。
床に広がったスープの匂いを今でも覚えている。
顔に火傷の痕がないのは、きっと運が良かっただけだ。
料理中の鍋に虫を入れられ台無しにされる。
気づかず味見して吐いた。
両親にはそのぐらいで騒ぐなと注意され、使用人にはくすくすと嘲笑われる。
台無しになった料理を見て、拳を握りしめた。
食堂の台所にて。
用意したのは骨付き鶏もも肉、豚肉、牛肉、ベーコンのブロック、チョリソー、キャベツ、ジャガイモ、ニンジン、カブ。
肉は前日に一晩塩と胡椒を振っておいたので問題はなし、そして肉汁に関しても前日に作ってあるため大幅に時短ができる。
大鍋の中に肉汁を入れ、その中に沢山の肉と野菜を入れ煮込む。
ふつ、ふつと表面が僅かに震え、小さな泡がひとつ浮かんでは消えていく。
入れた具材の縁がぼやけていく。
さて、とさっきまでなかった気配に声をかけることにした。
「壁からひょっこり見てる食いしん坊2人組〜見えてるよ〜」
「!」
「!不覚」
「何してんだ?マスターと雑賀の嬢ちゃんは」
台所の入口からひょっこりと顔だけ覗かせていた桜花ちゃんと孫一ちゃんの頭の上から顔を覗かせた永倉を見て思わず笑いそうになる。
ちょうど大中小で上から順に並んでいるし全員白髪なものだから団子にしか見えない。
「とても美味しそうな匂いがしたので・・・申し訳ありません」
「マスターと私はさっきまで周回してたからお昼ご飯を食べれてない。このまま契約が履行されない。雑賀にとっても困る」
「なるほど、お前さんら腹が減ってんだな」
永倉が言い終わると同時にぐぅ、と両方の腹の音が鳴る。
その音に驚いたのか、2人の髪がふわりと揺れる。その動きでオレも永倉も笑ってしまった。2人ともそれが少し恥ずかしかったのか、少しだけきゅっと目を細めていた。
「そういやぁ坊主は何作ってんだ?」
「あぁ、コジード・ア・ポルトゲーザだよ」
「こじーと・・・?」
「こ?」
「こじーどあぽるとげーざ、ですか?」
そういえば、ここ全員日本人だった、と舌足らずな発音を聞いて思い出す。
「煮込み料理だよ、沢山のお肉と野菜を煮込んだ料理。日本風に言うんだったらお袋の味ってやつ」
「沢山のお肉と野菜・・・」
「お肉・・・!!」
それを聞いて目をキラキラさせる孫一ちゃんと表情筋は動いていないもののそわそわしだす桜花ちゃんに落ち着け、と苦笑しながら桜花ちゃんと孫一ちゃんの肩に手を置く永倉。
「そういやァ雑賀の嬢ちゃんは肉が好きだったな」
「この料理色々な種類のお肉使ってるから、楽しみにしててね〜あ、でも野菜はちゃんと食べなきゃダメだからね」
「野菜も食べなきゃ大きくなれない、それより、働かざる者食うべからず。何か、手伝うことはある?」
「何か手伝うことがあれば私も手伝います」
「だってよ坊主、俺もできることがありゃ手伝うぜ」
その言葉に少しだけ言葉が詰まりかける。
「・・・大丈夫!もうあとは煮込んでよそうだけだからさ、座ってなよ3人とも」
「本当?」
「ほんとほんと!」
「それでは、お言葉に甘えて」
桜花ちゃんはぺこり、とお辞儀をし、3人とも台所を出て食堂の席へ向かっていった。
鍋を覗き込むと淡い灰色の綿が表面を覆っていた。それをそっとあくすくいで取って小皿に移す。
できるだけ丁寧に、残らないように。
湯気が上る。
食堂から笑い声が聞こえてくる。
賑やかな、楽しそうな声。
何を話しているかは分からないが、無意識にこちらの口角もあがる。
「随分と楽しそうね」
「えっ!?お姉様!?」
声に驚き、入口の方を見るとお姉様───クリームヒルトが腕を組んで立っていた。
「いつからそこに!?」
「あの3人を座らせた所から」
「結構いるぅ!?声をかけてください!!」
「声掛けたわよ。貴方が無視したんでしょう」
「それはぁ気付かなかったオレが悪いです!!」
なんてこと、このオレがお姉様の気配に気づかないなんて・・・!!
とんでもないくらいショックだが、それだけ集中していたということだろう。
「お姉様も食べます?コジード・ア・ポルトゲーザ」
「えぇもちろん。貴方の料理は美味しいもの」
その言葉に頬が緩む。
「そろそろ完成するので、お姉様も座って待っててください。持っていきますから」
「そう。じゃあ先に行ってるわね。」
コツ、コツとヒールの音が聞こえる。
鍋を見る。
野菜も柔らかくなっており、肉も菜箸でつつくとホロリと崩れた。
塩を入れ味を整える。
おたまで少しだけスープを掬い、小皿に入れ味見をする。
肉の出汁と塩分がゆっくりと舌に広がる。
前に作ったレシピと同じなのに、味が違うように感じる。
でも、その理由はもう分かっている。
具材が崩れないように皿に盛り付け、お盆に乗せる。
湯気が少しだけ目にしみた。
彼らが言う言葉はもう分かりきっている。
分かりきっているのに、毎回待ってしまう。
「お待たせ〜!出来たよ〜!」
わっ!!と盛り上がった声にくすくす笑いながら向かった。
料理は嫌いだ。
それは一生変わらない。
それでも───作りたいと思うようになってしまったのは、きっとこの人達のせいなのだ。
湯気を見ると幼少期の記憶を思い出す。
魔術ができなくても、せめて料理で役に立ちたくて、頑張って作った料理を兄弟に不味いと吐き捨てられ、目の前で捨てられる。
スープはかけられる。
床に広がったスープの匂いを今でも覚えている。
顔に火傷の痕がないのは、きっと運が良かっただけだ。
料理中の鍋に虫を入れられ台無しにされる。
気づかず味見して吐いた。
両親にはそのぐらいで騒ぐなと注意され、使用人にはくすくすと嘲笑われる。
台無しになった料理を見て、拳を握りしめた。
食堂の台所にて。
用意したのは骨付き鶏もも肉、豚肉、牛肉、ベーコンのブロック、チョリソー、キャベツ、ジャガイモ、ニンジン、カブ。
肉は前日に一晩塩と胡椒を振っておいたので問題はなし、そして肉汁に関しても前日に作ってあるため大幅に時短ができる。
大鍋の中に肉汁を入れ、その中に沢山の肉と野菜を入れ煮込む。
ふつ、ふつと表面が僅かに震え、小さな泡がひとつ浮かんでは消えていく。
入れた具材の縁がぼやけていく。
さて、とさっきまでなかった気配に声をかけることにした。
「壁からひょっこり見てる食いしん坊2人組〜見えてるよ〜」
「!」
「!不覚」
「何してんだ?マスターと雑賀の嬢ちゃんは」
台所の入口からひょっこりと顔だけ覗かせていた桜花ちゃんと孫一ちゃんの頭の上から顔を覗かせた永倉を見て思わず笑いそうになる。
ちょうど大中小で上から順に並んでいるし全員白髪なものだから団子にしか見えない。
「とても美味しそうな匂いがしたので・・・申し訳ありません」
「マスターと私はさっきまで周回してたからお昼ご飯を食べれてない。このまま契約が履行されない。雑賀にとっても困る」
「なるほど、お前さんら腹が減ってんだな」
永倉が言い終わると同時にぐぅ、と両方の腹の音が鳴る。
その音に驚いたのか、2人の髪がふわりと揺れる。その動きでオレも永倉も笑ってしまった。2人ともそれが少し恥ずかしかったのか、少しだけきゅっと目を細めていた。
「そういやぁ坊主は何作ってんだ?」
「あぁ、コジード・ア・ポルトゲーザだよ」
「こじーと・・・?」
「こ?」
「こじーどあぽるとげーざ、ですか?」
そういえば、ここ全員日本人だった、と舌足らずな発音を聞いて思い出す。
「煮込み料理だよ、沢山のお肉と野菜を煮込んだ料理。日本風に言うんだったらお袋の味ってやつ」
「沢山のお肉と野菜・・・」
「お肉・・・!!」
それを聞いて目をキラキラさせる孫一ちゃんと表情筋は動いていないもののそわそわしだす桜花ちゃんに落ち着け、と苦笑しながら桜花ちゃんと孫一ちゃんの肩に手を置く永倉。
「そういやァ雑賀の嬢ちゃんは肉が好きだったな」
「この料理色々な種類のお肉使ってるから、楽しみにしててね〜あ、でも野菜はちゃんと食べなきゃダメだからね」
「野菜も食べなきゃ大きくなれない、それより、働かざる者食うべからず。何か、手伝うことはある?」
「何か手伝うことがあれば私も手伝います」
「だってよ坊主、俺もできることがありゃ手伝うぜ」
その言葉に少しだけ言葉が詰まりかける。
「・・・大丈夫!もうあとは煮込んでよそうだけだからさ、座ってなよ3人とも」
「本当?」
「ほんとほんと!」
「それでは、お言葉に甘えて」
桜花ちゃんはぺこり、とお辞儀をし、3人とも台所を出て食堂の席へ向かっていった。
鍋を覗き込むと淡い灰色の綿が表面を覆っていた。それをそっとあくすくいで取って小皿に移す。
できるだけ丁寧に、残らないように。
湯気が上る。
食堂から笑い声が聞こえてくる。
賑やかな、楽しそうな声。
何を話しているかは分からないが、無意識にこちらの口角もあがる。
「随分と楽しそうね」
「えっ!?お姉様!?」
声に驚き、入口の方を見るとお姉様───クリームヒルトが腕を組んで立っていた。
「いつからそこに!?」
「あの3人を座らせた所から」
「結構いるぅ!?声をかけてください!!」
「声掛けたわよ。貴方が無視したんでしょう」
「それはぁ気付かなかったオレが悪いです!!」
なんてこと、このオレがお姉様の気配に気づかないなんて・・・!!
とんでもないくらいショックだが、それだけ集中していたということだろう。
「お姉様も食べます?コジード・ア・ポルトゲーザ」
「えぇもちろん。貴方の料理は美味しいもの」
その言葉に頬が緩む。
「そろそろ完成するので、お姉様も座って待っててください。持っていきますから」
「そう。じゃあ先に行ってるわね。」
コツ、コツとヒールの音が聞こえる。
鍋を見る。
野菜も柔らかくなっており、肉も菜箸でつつくとホロリと崩れた。
塩を入れ味を整える。
おたまで少しだけスープを掬い、小皿に入れ味見をする。
肉の出汁と塩分がゆっくりと舌に広がる。
前に作ったレシピと同じなのに、味が違うように感じる。
でも、その理由はもう分かっている。
具材が崩れないように皿に盛り付け、お盆に乗せる。
湯気が少しだけ目にしみた。
彼らが言う言葉はもう分かりきっている。
分かりきっているのに、毎回待ってしまう。
「お待たせ〜!出来たよ〜!」
わっ!!と盛り上がった声にくすくす笑いながら向かった。
料理は嫌いだ。
それは一生変わらない。
それでも───作りたいと思うようになってしまったのは、きっとこの人達のせいなのだ。
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