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みそポエ選集


青い空の砂漠から来た旅人が
僕の隣に座り込んだ
彼の手はしなび
顔はやせ細り
脚は骨になり
目は干乾びていた

彼は言った
この砂漠を越えた先には
幸福の国がある
黒い髪の姫が
きみに微笑みかけるだろう
食べ物は倉からあふれ
蜜が木からたれ
みそ汁も飲み放題
涼しい木陰で休む人々を
姫の歌声が楽しませる
悲しい心の人がやって来れば
姫がともに泣いてなぐさめる
そこは不幸の一つもない
喜びの土地である

僕は立ち上がり
白い砂漠へと旅立った

そして
長い旅の果てに
ただ一本の木の下
首をくくろうとする
青年に出会った
僕は語った
この砂漠を越えた先には
幸福の国がある
黒い髪の姫が
きみに微笑みかけるだろう

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毎日毎日
僕は会社に向かう
灰色の人々の間を抜け
無慈悲な箱に乗り込み
黒い墓石へと入っていく

線路が僕を呼ぶ
「きみには失うものなんてない」
「せいぜいみそ汁くらいだ」
「さあ勇気を出して」
「一歩を踏み出せ」

屋上が僕を誘う
「きみが何を失うというの?」
「みそ汁も持ってないくせに」
「さあ鳥になって」
「一歩を踏み出して」

誘う声は日増しに強くなった
そんなある日
僕は街角で少女をみつけた
彼女はお姫様だった

姫はこちらを振り返ると
母をみつけた子供のように笑って
僕に手を振った
僕は失うものを得た

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暗い部屋に僕は座ってた
毎日薬を飲んで
こんな命早く終われよと
一人で願ってた

山積みになったゴミ袋
カラスが窓から入ってきて
腐った食べ物をほじくって
どこかへ運んでいく

ああ空は低い天井みたい
もう僕を押しつぶさないで
みんなひそひそ声で話すのはやめて
僕のことを噂しないで

君は画面の中にいた
毎日の薬を飲んで
最後の夕食と思ったみそ汁を飲みながら
僕は君を見た

山積みになったゴミ袋
その間から僕は君を見た
暗い世界で一人輝く
どこか遠くにいる君を

ああ姫を抱きしめてみたい
もう僕を焦がれさせないで
愛らしい声でじらすのはやめて
僕の胸に飛び込んできて

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『きみの頭はイカレている。
鈴蘭の根を煎じて飲むといい』
と兎は言った

姫は優雅に手を伸ばし
真鍮のティーポットから
紅茶をそそぎ
鈴蘭の煎じ汁を加え
カップを口にする

僕にはそれを
止めようもない
止めるつもりもない
ただ僕も
みそ汁を口にするだけ

泣いている
みんなが姫のために泣いている
僕はハンマーで
姫のお腹を殴って
吐き出させる

息を吹き返した姫に
僕は言う
おはよう僕のお姫様
サルミアッキを食え

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ぐるぐるぐるぐる
僕はがらんどう
僕の中は
虚無でいっぱい

さあ覗いてごらん
何もないから
外だけ取り繕って
中は何もない

みそ汁くらいあるだろうって?
無いんだなこれが
残念だけど
がらんどうなんだ

たった一つあるとすれば

それだけは
僕の中にある
あなたの虚像



あなたで僕を満たして
空っぽの僕を
満たして
せめて幻だけでも

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あなたは魔法の国から来た女の子

僕は鉄とコンクリートとみそ汁と環境汚染の国から来たマジカル成人男性

出会ってはいけない二人が出会ってしまった
そうなればやる事は一つ
デュエルだ

姫の斧が僕の首をはね
僕の斧が姫の首をはねる
入れ替わって
首だけ美少女の成人男性と
首だけ成人男性の美少女が
爆誕する

さあオタクたちよ
選べ
選ぶんだ
嬉しいだろ
どちらを推す
選べよ

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僕のたった一人の友達が
心臓発作で倒れた時
僕は横になって目を閉じて
こんな一日は早く終わってくれよと
夜に願った
明日になれば今日という日が拭い去られて
全て変わるかのように

空虚な朝は
何も言わず冷酷に訪れ
僕は現実を知った
テーブルの上には
姫の写真
みそ汁
拳銃

迷わず拳銃を手に取って
こめかみに当て
引き金をひく
弾はでない
込めてないから
僕は臆病だ

姫の写真
これだけが僕に残った

僕に勇気をください
弾を込める勇気を
それがだめなら
扉を開け街に出る勇気を

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ある日、姫のお腹がぱっくり裂けて

そこから僕が顔を出して言うんだ

姫。みそ汁飲むかい?

それが僕の愛のあかし

さあ姫、いっしょにみそ汁になろう

きみは味噌で僕は出汁

ある日、姫の喉の奥から顔を出して

僕は言うんだ

姫。いっしょにみそ汁を飲もう

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それから僕は
五年ほど歩いて
夜の砂漠にたどりついた
砂の中の眠りからさめた
スフィンクスが言う
お前が生きねばならぬ理由はなんだ?
答えられねばお前を
現実へ戻してやる
ピラミッドの守護者は
僕を食べてはくれなかった


僕はきみがいるから
真っ暗な朝に起き上がり
屈辱のみそ汁をすすり
拷問場へ這って行く


スフィンクスが言う
お前が生きねばならぬ理由はなんだ?

そう答えると
僕は現実へ戻された
やっぱりあのスフィンクスは
菜食主義者だ

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窓から腕を伸ばし
僕は手紙を
雨空に託して手放した

燃え尽きて真っ白な僕に
明日をくれた
君に宛てて

空は暗くて
僕は独り
みそ汁を飲む
僕の手紙は届くのだろうか
それとも姫は
封を切らないのかもしれない

僕の手紙は
白樺のテーブルの上で
日焼けて朽ちていく

やがて誰もいなくなった後
風に乗った僕の手紙は
廃墟の街路で開いて
言葉を空に流すんだ

姫 愛してる

---------------------------



あなたは傷ついた鳥
でも翼をひらいて
飛んで行って
厚い黒雲の
上に

雨が弾丸になって
風がカミソリになって

あなたを襲うでしょう
でもあなたは
飛ばなければならない
嵐の中へ
僕は廃墟の部屋で
薄いみそ汁を飲みながら
それを見上げる

飛んで僕の姫
これからも沢山の
傷を負うでしょう
恐れないで
僕たちがあなたを見上げている

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僕は誘拐されてここに来た

君は突き落とされてここに来た

鍋の中で僕は吠える

紫色の月の下

煮えたぎるみそ汁の波

どこにも行かないで

ここはこんな地獄だけど

君は僕を誘拐し

僕は君を突き落とした

これが姫と僕とみそ汁の物語

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ぼくは悲しかったので
息のしかたを忘れてしまった

いくら肺にすいこんでも
水に沈みゆく石のごとく
血管は酸素を運ばない

腹が煮えくり返る
腸がただれ落ちる
などという文字列では表せない
臓腑(ぞうふ)が地獄となって
僕を燃やす
ああ誰か
僕を救わぬのなら
いっそとどめを刺してくれ

もがき苦しんで夜が終わり
朝が来る
味のしないみそ汁を飲んで
僕は
ただ勇気が足りないという理由で
今日を生きる


水の底から
業火の中から
僕は君を見た


僕の希望になって
この人生にも
まだ輝きが残されていると
そう信じさせて

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この地球に閉じ込められている
この広い宇宙の中の
ちっぽけな地球の表面に

もうすぐここに
3つの星が落ちてくる
不安
恐怖
みそ汁
それが来たら
僕はきっと
また絶望しちゃうんだろうなと
思う


雲の上でずっと咲いている
一輪の花
あなたは向こうに行って
溶けたタールにまみれるのは
僕だけでいいから

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その日も僕は
小雨のエッフェル塔のような気分で
道を歩いてたんだ

隣の家の犬は
いつもどおり僕を噛み殺そうとしていて
鎖を千切りそうな勢いで
暴れていて

隣の家の猫は
いつもどおり僕を引き裂こうとして
ここを開けろと窓枠を
両手の爪でひっかいていて

つまりいつもの
常温のレモンティーのような
午後だった

僕は家に帰って
ただいまと言って
誰もいないから誰からも
応えは返ってこなくて

塗れたコートを
ハンガーにかけて
みそ汁を飲みながら
PCのスイッチを入れた

そうしたら姫に出会ったんだ
僕につかの間の夢をくれる
お姫様に

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●怪人みそ汁男

怪人みそ汁男は
悲しい怪人
好きなのは
みそ汁と
それに姫
あとは全て憎む

彼は人を食べる
爪先から一噛み
血がだらだら流れる
悲鳴が上がる
あまりに不愉快なので
心臓をえぐって掴みだす
そして問い詰める
泣いているのはお前か!?
みじめな奴はお前か!?

それから気づくんだ
えぐったのは自分の胸
問い詰めたのは自分の心臓だったって

悲しい怪人
今日も泣く

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みそ汁飛行船から真っ逆さまに
夜空に落ちた時
僕は飛行石なんてないんだと
空をかきながら理解した

親方おっさんが空から落ちて来たよ
ほう それでどうなった
ミンチになって死んだよ
ほう じゃあ豚の餌にしな
物語は終わる
豚の胃の中で

あの日も僕はみそ汁飛行船から
突き落されて
力なく両手で空をかいた
そしたら触れたんだ
小さな温かい手が
青いティアラを頭にのせた
お姫様だった

姫、僕を離さないでくれ
姫、僕といっしょにいて
姫、僕をひとりにしないで
僕よ、この手を離すな

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一杯のみそ汁
気のきかないジョーク一つ
ポケットに小銭
それから姫
他に何かいるかい?

僕は夜の台所で
灯りもつけずに
ただ君の声を聴いている
そして聴き終わったら
駅にでかけるんだ

ごとんごとん
電車がゆくよ
夜の線路を
どこか遠くへ
みそ汁は台所に置いてきた
だから僕はジョークを言って
一人で笑ったのさ

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あなたを真っ二つに引き裂いて
中に入って
あなたを着たい
姫 あなたになりたい

あるいは僕の首を切り取って、
代わりにあなたから切り取った
首を置く
接着は木工用みそ汁で
それで僕は
あなたになる

頭脳は姫
体は成人男性
そんな生き物が
街をいくよ

みんな悲鳴をあげて
逃げていく
なんでだろうね姫
僕らこんなに可愛いのに
なんでだろうね

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3mに伸びた僕の首

ひねると出汁が流れ出す

夕暮れのサバンナの真ん中で

きみは出汁を浴びて溶けていく

姫。きみはむき出しになった脳髄。

きみの骨格。きみの内臓。

サバンナの夕日が優しく包み、

みそ汁が湯気を上げる。

いただきます。ありがとう。

ごちそうさま。

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姫を作ろう
僕は思い立った

お砂糖
スパイス
素敵なものいっぱい
みそ汁
混ぜ合わせて
最高の女の子が
生まれなかった
手に入ったのは
心を持たない姫型の人形

なにがまずかった?
わからない
そんなわけで僕は
画面の前で姫に焦がれていた

ある日のこと
思いついた
そうだ姫の心臓を
この人形に移植すれば
新しい姫に
なってくれるはず

そうして生まれたのが
皆さんが今見ている
乙姫つづりです

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午前のニュースをお伝えします
分裂して二人になった乙姫つづりは
渋谷区道玄坂二丁目を滅ぼし
そのまま東と西に進んでいきます

ニュースが終わり
僕は駆けだす
姫 僕を食べて
やがてきみは究極完全体に進化する
その一部になりたいから

僕は君に噛みつく
みそ汁をかけて
目潰しにして
一瞬の隙を作る

君が僕に噛みつく
でもきっと吐き出される
なぜって僕の中は
汚泥と石炭で
真っ黒になっているから

でも食べて姫
お願い
食べて僕を
食べて僕を

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親方、空から女の子が
どんな女の子だ?可愛いか?
はい、可愛いです。お姫様です。
じゃあ放っておけ。

放っておかれた姫は
地面に激突し
トマトみそ汁になる

終幕
物語は終わる
飛行石が運動エネルギーを保存しているなんて
誰が考えたんだこの設定
世界は悪意に満ちている

僕は姫の下に体を投げ出す
親方、それに何の意味があるんですか
ないな
みそ汁の具が増えるだけだ
それでも僕は身を投げ出す

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その字を書くために
僕はノート100冊を埋め尽くし
白い机にもびっしり書き
床も天井も壁も棚も
埋め尽くした
お気に入りのみそ汁詩集も
文字の間を姫で埋め尽くした

姫姫姫姫姫

書く場所がなくなって
僕は姫という文字の隙間に姫を書いた
姫という文字の隙間に書いた姫の隙間に姫を書いた
それでも僕の字は
どうしようもなく醜い
姫ではなく鮫に見える

僕は手紙を投函した
あて先は乙鮫つづり
これは姫にとどくだろうか
僕の心を伝えてくれるだろうか

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君が僕を鉄砲で撃ち
それから僕は
自分を箪笥に仕舞う
君を夜までかかって寝かしつけて
鉄砲が撃たれる

美味しいみそ汁をどうぞ
笑顔がこぼれる
姫のその笑顔が見たかったのに
でも僕は自分を箪笥に仕舞ってしまった
深い深い箪笥の奥に
もう二度と出てこない奥底に

みそ汁の香りだけが残っている

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昨日僕が
大事にしてた
ツツジの花が
枯れてしまった

青い空の深みに
雲が一つ
あなたの黒い髪が
ゆれている

ああ、僕の姫
僕の手に手を添えて
あなたを見失って
しまわないように

昨日僕は
作ったみそ汁を
食べずに窓から
放り出してしまった

なぜなら胸に
青い空が入って来て
手が冷えて
凍えてしまったから

ああ、僕の姫
僕の手に手を添えて
あなたがいつまでも
そばにいてくれるように

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年老いた鳩が
電線から落ちる
みそ汁が焦げ
僕の周りには
誰もいない

僕は動き出さない列車に
乗っている
毎日
毎日
毎日毎日毎日

ガラス片が喉に刺さったカラスが
光の無い目で
僕を見る
みんな僕に愛想をつかして
出て行ってしまった

画面には姫がいる
僕は焦がれる
毎日
毎日
毎日毎日毎日

ゴミ山の中で
布団に包まって
僕は問いかける

いつまで僕といてくれますか?

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みそ汁飛行船の舳先(へさき)から
僕は身を投げる


とめどなく広がる静寂の中で
おわんのふちに きみは立つ
黒い汁の中に
落ちそうになるのも恐れずに


陽気に歌うきみに
揺れる 燃え尽きた森も 灰の摩天楼も
黒い群衆が
君の前にひれ伏して懇願(こんがん)する

僕はそれが許せない
僕も影にすぎないけれど
でも君と踊りたい
僕の手をとって
今だけは
僕とだけここにいて

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僕は旅に出たい
あるいは墜落する飛行機
あるいは脱線する列車
あるいは衝突する自動車に乗って

白い翼の姫が
僕を導いてくれるだろう
漆黒に輝く髪を広げて
手にみそ汁を持って

ブレーキの壊れたバイク
暴走する馬車
沈みゆく船に乗って

僕はしがみつく
きみが背中を押してくれるから
この先に何があるかわからないけど
ここよりはきっといいから

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姫 きみは宇宙から落ちてくる

僕を粉砕し

二人はみそ汁になる

ミルキーウェイに味噌を溶かして

姫 きみはバットを振り回して

僕の頭を粉砕し

みそ汁ができあがる

宇宙から落ちてきたきみ

何千回でも何万回でも

砕け散る僕

でもみそ汁が大好き

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ママのお腹を引き裂いて
僕はでてきた

パパは僕を憎んだ
大好きなママを僕が奪ったから
おばあちゃんは僕を憎んだ
最愛の娘を僕が奪ったら
弟は僕を憎んだ
僕のせいで生まれることができなかったから
隣の家のパパは僕を憎んだ
僕のママと寝ていたから
おじさんは僕を憎んだ
ママの財産を着服したのがばれたから
向かいの家のママは僕を憎んだ
ママとできていたから
向かいの家のパパは僕を憎んだ
僕のみそ汁が不味かったから

こんな僕を
誰か愛して
さまよってさまよって
僕はたどりついた
姫の配信に


僕があなたを愛する1/100でも1/1000でもいい
僕を愛してくれますか?

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画面の向こうに姫がいる
僕は今日も泣いている

姫はどんな歌を歌うのかな
黒い髪をそよがせて
あの空飛ぶみそ汁飛行船の先端から

きみの歌を聞かせて欲しい
そうすれば
僕もまた歌えるから

きみの行く先を教えて
そうすれば
僕もまた歩けるから

きみはどこにたどりつく?
空想もできないそんな場所に
きっときみは行くのだろう

今日はきっと僕も眠れる
そして夢を見るんだ
なにか素晴らしいことをしている
愛らしい姫の夢を

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きみの全身から血を抜いて
一滴残らずしぼりとって
僕から抜いた血液と
みそ汁と
混ぜ合わせたい

血は腐って
奈落の谷に流れ落ち
そこから天に昇って
赤い雨を降らせるだろう
そして豊かな
真っ赤な大地を育むだろう

赤い大地には
赤い人間が生まれます
赤いビルが建ち並びます
赤い天使が銀のラッパを吹きます
赤い薔薇が咲きます

その薔薇を
君の髪にそっと添えるんだ
冷たくなった君の髪に

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やーいおまえん家みそ汁やーっしき!
と、カンタが言ったのは
いつの日だったか
その瞬間
彼の舌は裂け
目玉は飛び出し
頭蓋が潰れ脳しょうが漏れ出した
口にしてはならなかったのだ
なぜなら、みそ汁は
僕と姫だけの秘密だから
暗い鍋の中に
大切に大切にしまっておく
僕たちだけのみそ汁
赤い赤い
みそ汁
いただきます

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鋭く磨いたメスで
僕は自分を分解する
左腕右脚左脚右腕

どうも具合が良くないぞ
心臓を取り出す
脳をミキサーにかける
どこにも僕はいない
だって僕に中身なんてないから
最初から虚ろだ

血液がみそ汁のように流れる
温かくない
冷たくもない
常温
こういうのが一番語るに困る
散らばった僕に問いかける
何かないのか
人間・残骸・1式の他に何か
もちろん何もないさ

血まみれのメスがからんと床に落ちた
定期清掃のおじさんがやってきて全て片付け
燃えるゴミに出した
姫の写真だけが
部屋に残されている

---------------------------



見てごらん
みそ汁飛行船が空を行くよ
今日も誰かを乗せて
青い空の向こうへ

さあ姫 きみの船はどこに行くんだい
僕はここでそれを見ている

きみの船はきっと
ジャングルの大地を横切っていくのだろう
奇天烈な生き物でいっぱいの海を越えていくのだろう
天使たちが昼寝している雲をびっくりさせていくのだろう

僕は夢に見る
コスモスのかおる夢にきみを見る
その中できみは船長になり
海賊になり 
女王になり 
魔法使いになり
鳥になり 
勇者になり 
貧しい少女になり 
そしてお姫様になる

暖炉の前で手紙を書きながら
僕は待つ
午後のまどろみの中に夢を見ながら
きみはどこにたどりつく?
きみはどこをめざしてる?

---------------------------



ここに一杯のみそ汁がある
やがて雲になって
雨になって降り注いでも
みそ汁はみそ汁だ
僕はそう思う

ここに僕がいる
やがて雲になって
雨になって降り注いでも
僕は僕だろうか
この地上から誰もいなくなっても
僕は僕だろうか

千年が過ぎても
百万年が過ぎても
姫の笑顔は僕の胸に残り続ける
例え僕が
雲になって
雨になって降り注いでも

---------------------------



僕は走る
姫を探して
暗い森の中を
怪人みそ汁男が追ってくる
手に斧を持って

僕はばらばらにされた
右腕は豚の餌に
左腕は魚の餌に
右脚は虎の餌に
左脚は燻製にしていざという時のための保存食に
胴体は大英博物館に寄贈
頭は排水溝に捨てられた
それが僕の最期

きみはまだ走っている
暗い森の中を
みそ汁男は諦めない
血で濡れた斧を持ち
きみを追っている

さあ走って
日が昇るのはまだ遠いけど
僕は排水溝の中で立ち上がる

---------------------------



この世の全てのみそ汁を
一つの鍋に集めたら
いったいどんな味がするのだろう

虹の味がするのだろうか
雲の味がするのだろうか
オーロラの味かも
今夜亡くなる人が最後に見る
夕焼けの味かもしれない

僕たちと姫は鍋のふちに腰掛けて
みそ汁からあふれていく
たくさんの物語を
ずっとずっと見ていようね

静かな夜が訪れて
みそ汁がしんと冷たくなるまで

---------------------------



天に輝くもっとも孤独な星
それは 北極星
僕は姫を誘拐し
その星に一つだけある刑務所
から地中に1000km掘られた穴の底
にある一度扉を閉めたら二度と開かない独居房
から開いている みそ汁次元へのポータル
の向こうにある暗くて湿ったみそ汁部屋に
姫を閉じ込める

だって姫があまりに愛しいから
しまっておきたい
誰にも見せない
僕は北極星の刑務所の前で
人が来ないよう見張るんだ
姫を助けようなんていう
おせっかいが来ないように

姫が暗い部屋で衰弱していく
僕といっしょに
朽ちていく
やがて骨になる
それを想うだけで
僕は幸せだから

---------------------------



夜の二時
草木も眠る
丑三つ時
僕はベッドの下から飛び出し
姫を取り囲む
叫んで逃げだす姫
でも扉の向こうは
僕の詩体で埋め尽くされてる
無数の僕が
姫に笑いかける
数多の詩の
顔のままで

みそ汁を姫の口にねじ込む僕
吐き出さないで姫
配信中だよ
せめてミュートにしよう
そんなに戻さないで
飲み込んで
飲み込めって
飲めってんだよ

夜が明けて
僕は姫のベッドの
下に戻る
また会おうね姫
今晩また会おうね

---------------------------



この広い世界に閉じ込められて
息ができない
こんな僕をだれか助けて
そう祈っても
祈るあいてを
思いつかなくて

苦痛のない生活を忘れてしまった
息ができない
こんな日々よ早く終われ
そう願っても
もう誰も
迎えにきてくれない


ピストルに一発
弾丸を込めて
こめかみに当てても
指に力が入らない
ただ勇気が足りないという
理由だけで
僕はまだここにいる



僕を向いて
優しい言葉をかけて
僕はあいもかわらず
みそ汁で苦労してるんだから

---------------------------



僕は

どこまでも続く黒い日々
苦い昨日
辛い一昨日
朝から空はどんよりとして
線路は無慈悲に僕を運ぶ
僕は力なく膝をつく
今や祈る相手も僕にはなく

姫 僕に微笑んで
僕の姫
君の手は甘美に僕の手を包む

僕の後悔を聞いて許しておくれ
こんな未来を選ぶんじゃなかった
みそ汁縛りするんじゃなかった
あのとき勇気をもって言うべきだった僕を


どこまでも続く白い砂漠
青い砂
青い塵
空は昼なのに紫色で
真っ白な天の川が流れる
膝をついて手を組んで
アシカ大王にお願いしよう

姫 僕に微笑んで
僕の姫
君の手は甘美に僕の手を包む

君にありがとうを言うのを許しておくれ
君に出会えてよかった
君と笑えてよかった
あのとき手を差し伸べてくれた君に


一周年おめでとう
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