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乙姫VS. 第九夜『すごろく』

「神はサイコロを振らない。そう言ったのは誰だったか」
梓星ゆえ。絶対王者が、鞘に収まったサーベルを床につき、椅子に腰かけたまま言った。
「だが本日、諸君らはサイコロを振る神となる。己の駒をサイコロでもてあそぶのだ。しかし心せよ。サイを振ると言うことは、自分自身の運命もその結果に左右されるのだということを。諸君らの堂々たる戦いを期待する」
そしてサメのように笑った。いや違う。
サメほんのが少しだけこの王位継承者に似ているのだ。
傲慢、非情、愉悦、強暴、残忍、酷薄、冷酷。どれをとっても、梓星ゆえは映画で人気の魚類の比ではなかった。
「さあ、我を楽しませよ」
サイは投げられた。


Pictoria本社ビル地下13階。
今日も己の命を賭け台に載せて投げ捨てる、シぐるい人たちが集っていた。

一人は、赤い髪の活発そうな少女。未来の道具で場を圧倒する優勝候補筆頭。
笑羽良はり。

一人は、金髪に青い目をした、およそ日本人離れした容姿の少女。体力・知力・耐久力・全てに優れる新進気鋭のシ合者。
眠霊幽。

一人は、シ合の場に非常食を持ち込む周到な少女。リアルメスガキ小学生。
実苗かこ。

一人は、その残忍さにおいて梓星ゆえにも匹敵する、目録会系麗坂組お嬢。
麗志坂えす。

一人は、乳製品を食べるとすぐお腹が痛くなる能力の持ち主。
乙姫つづり。

以上、五名。

それに審判の久寝ねねこと、オブザーバーの梓星ゆえが、この決闘部屋にいるメンバーだ。
部屋は外から施錠されている。このシ合で勝者が決まるまで、鍵は開かれぬことになっている。

「じゃあ、すごろくの駒をくばるよぉ」
審判の久寝ねねこが、各人に小さなカラーコーン型の駒を配る。
赤、黄、紫、茶、青。

「勝者は一番に上がった一人だけ。ご褒美が与えられるよ。がんばりな」
勝者は褒美。では敗者は?
もちろんそんなことを尋ねる間抜けはいなかった。
これはシ合。わかりきったことだ。

「つよつよぷりてぃー美少女の実苗が、みんなこふるぼっこにしちゃうもんね。かくごしときな!」
「あら?あなたどこの幼稚園から来たの?ママはどちらかしらぁ?」
扇子を頬に当て嫌味を言う麗志坂えす。
「ムキー!!ぜったいゆるさない、うるしざかえす!」
実苗かこの頭をぽんぽん叩く麗志坂えす。
「ごめんなさぁい。小さすぎてどこにいるか見えないわぁ」

「はいはい、これが今日のすごろく盤だよ」
割り込んだ久寝ねねこがテーブルに広げたそれは、一同を唖然とさせた。
画用紙。
その上に、小学生がえんぴつで書き殴ったと思われる『すごろく』が描かれている。
なんだこれは。今日はシ合だぞ。まさか小学生の遊びに付き合わされるのか?

「あ、これ、実苗が作った奴」
「「「「お前か!!!!!」」」」
突っ込む一同。

しかし部屋の緊張は、裂けんばかりに張り詰めていた。

小学生のすごろくは"ヤバイ"。

皆、経験でそれを知っているのだ。
「ではシ合を開始する」
梓星ゆえが宣言した。
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