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乙姫VS. 第七夜『マジック・ザ・ギャザリング』

コイントスの結果、先手は久寝ねねこ。
第一ターン。
トレイリアのアカデミーセット、魔力の櫃(ひつ)セット、モックス・ダイアモンドセット、水蓮(すいれん)の花びらセット!
こ、こいつ!!乙姫つづりは戦慄した。
外道だ。真の外道だ。
これはマジック史上最悪と呼ばれたコンボデッキ『MoMA(モマ)』だ!

原理は単純。大量のマナを一瞬で生み出し、対戦相手に大量のドローを強制することで、デッキ切れによる敗北をもたらす。
普通マジックの対戦デッキは60枚。対してMoMAは最大出力でおよそ3000枚のドローを強制できる。久寝ねねこは勝利を確信し微笑んだ。
乙姫つづり。お前の敗北は最初のコイントスで既に決まっていたのだ。
自分のターンを迎えることなく昇天しろ!

そこで久寝ねねこ、異常に気付く。
何かがおかしい。
自分の勝利はゆるぎない。そのはずだ。
乙姫つづりは泣き叫んで命乞いをしていなければおかしい。
だが、やつはなぜ悲し気にこちらを見るのだ?

ここではじめて久寝ねねこは、乙姫つづりのデッキを見た。
明らかにおかしかった。
厚さが。
普通のデッキの100倍ほどある。1メートルを超えている。

「あ、あのおひめ。それは?」
「平地6000」

『平地6000』。
それだけでは何もしない平地を6000枚積んだだけの、何もしないデッキである。ただ絶対に削り切られることなく、そこに立っているだけ。MoMAに対抗するだけのために生み出された、伝説のクソデッキだ。
「完全な対人メタじゃねーか!!」
「でもこのデッキ、ルールには何も違反してないんだよ」
「そ、それはそうだけど……」
助けを求めて梓星ゆえを見る久寝ねねこ。
しかし王位継承者は首を横に振る。
この王者にも、わずかながら憐憫の感情というものがあったのか、同じスプスタの仲間に対して、悲し気に微笑んだ。

「ねねこ、きみはゲームオーバーだ」
宣言され、久寝ねねこは頭を垂れた。
肩を震わせ、それから乙姫つづりに向き直った。
目から大粒の涙がいくつもこぼれ落ちる。

「おひめ」
「うん」
「がんばってね」
そう久寝ねねこが言い終わるか終わらないタイミングで、ガタンと音がして、足元の床が開いた。床下に消える久寝ねねこ。後にはぶらんと揺れる一本の荒縄。
さようなら、ねねこちゃん。
姫は友に別れを告げ、そして決勝戦の相手を確かめるべく、右手の決闘台を見た。
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