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乙姫VS. 第十夜『ドッジボール(中当て)』

振りかぶる軍装の麗人。
投球。
風が唸る。いや引き裂かれ、衝撃波を発生させる。
音速を超えたボール。
その先にいたのは。

赤髪の華奢な少女。
体のどこにそのような力あるのか、真っ向からボールを受け止めた。

日本国自衛軍総帥、令夜みり。
そして未来から来たエージェント笑羽良はり。

「ほう、それを耐えるか」
「蚊が止まってるようだよ」

不敵に笑う両者。
「ちなみにそのボールには油が塗ってある」
「え」
ボールが笑羽良はりの手から零れ落ちた。

爆発。

砂が爆風とともに乙姫つづりに叩きつける。
後には何も残らなかった。笑羽良はりがそこにいた証拠は何も。

「まずは一人」憤怒の形相でこちらを睨む令夜みり。
「おっとぉ、みりちゃん。まさか一人で全員やっちゃうつもり?」眠霊幽が伸びをして言う。
「みりちゃんつよいねー。うふふ、脳まで栄養が行ってるといいけど」にふりと笑う環理よめな。
「これは仙女は出るまでもないかな!!」静観を決め込む癒日いゆ。
以上、外野四名。

「おヒメ。なんでわしらはいつもこんな勝負しとるんだ?」シリーズ恒例、外に引きずり出された久寝ねねこ。
「ぷりてぃーつよつよびしょうじょの実苗ならよゆーだもん!!」リアル小学生、実苗かこ。
「さあ、なんでかな。Vtuberだから?」油断なく外野をうかがう乙姫つづり。
以上、内野残り三名。


Pictoria社の運動用グラウンドに、MOKUROKUのVtuberたちが集っていた。
目的はドッジボール。Pictoria社ではアケド社長に反抗的な者を集め、みせしめにするために行われる伝統的な行事。
その際は最後の一人が爆死するまで私刑が続く。
今回はシ合である。戦いは公平に行われる。勝者はただ一人。最後に残った者。

そう、乙姫つづりの敵は外野の令夜みりでも環理夫妻でも癒日いゆでもない。同じ内野にいる久寝ねねこと実苗かこだ。
この二人を脱落させる。それ以外に生き延びる術はなかった。

「さあ諸君。シ合を再開しよう。我を楽しませよ」
審判の梓星ゆえが、ボールカゴに腰かけたまま拍手する。

「まず、お前たちを片付ける。その次が梓星ゆえだ」
獅子の瞳で睨む3人を睨む令夜みり。
脚を180度上げ、振りかぶる。

乙姫つづり、久寝ねねこは咄嗟に動く。
乙姫つづりは身長約90cmの実苗かこの首根っこを掴むと、盾として前に突き出した。久寝ねねこはさらにその後ろに。実苗かこはびっくりして垂れ下がり対応できない。
これでまた一人脱落……!!

「おおっと、手がすべったぁ!!」
見当違いの方向に投球する令夜みり。
なに?
ボールは眠霊幽の手に渡った。
「なにすんだよぉ!!はなせよぉ!!」手足をばたばたさせる実苗かこ。
乙姫つづりはそれを地面にもちゃっと落とした。

「眠霊幽、いくぜー!!」
眠霊幽の投球。MOKUROKUのシ合者中でも、最も智勇のバランスに優れる眠霊幽。その投球は令夜みりに劣らない!!

乙姫つづりはまた実苗かこを持ち上げて盾にした。
「っと、手がすべったぁ!!」
また見当違いの方向に飛び、ボールは令夜みりの手にわたった。

乙姫つづりは確信した。
こいつら。実苗かこに手加減してやがる。
これは困った。
もしこれが外野の総意なら…もはや乙姫つづりは詰みだ。いつかやられる。久寝ねねこもやっかいだが、ここはこのリアル小学生を早く処理しなければ。
やはり敵は内側にいるものだ。

乙姫つづりは決意した。
自分は生きる。
そのために心を鬼にする。

令夜みり、投球フォーム。
乙姫つづりは、素早く実苗かこを掴み上げ、左に跳んだ。眠霊幽への射線を封じる。
「おおっと、手がすべったぁ!!」
また見当違いの方向に飛んでいくボール。今度は環理よめなの手におさまった。

「はなせよー!!はなせよー!!」短い手足でじたばたする実苗かこ。
「うん。はなしてあげる」乙姫つづりは実苗かこを、環理よめなの眼前に放り投げた。
にふりと笑う環理よめな。
「あ、あの、よめなちゃ…?」せいいっぱいの笑顔でリアル小学生アピールをする実苗かこ。
「あなたも参加している以上、一人前のシ合者。手加減はだめですよね~」
環理よめなが叩きつけたボールが爆発し、実苗かこは消滅した。

「よ、よめっち?」眠霊幽が不審げに顔を覗き込む。
「ごめん……ごめん。よめな、うっかり手がすべって、かこちゃんを……うわあああん」
「よめっちは悪くないよ。すべりやすい球形のボールをつかうドッジボールのルールが悪いんだ」両手をにぎる眠霊幽。
「よめなのこと、嫌いにならない?」
「もちろん嫌いになったりするもんか!大好きだよ」
抱きしめ合う二人。
環理よめなの顔がいやらしくにふりと笑うのを、乙姫つづりは見逃さなかった。
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