乙姫VS. 第九夜『すごろく』
15493巡目。
ゲーム開始から5日と6時間。
未だ誰一人としてゴールに到達できず……!!
このすごろく。最後の難関は、まさに鬼畜だった。
5つ連なる「ふりだしに戻る」。それが6連繰り返し!
6連続で6を出さねばゲーム開始位置まで戻される、突破確率、じつに46,656分の一。いかにも小学生らしい鬼畜難度である。
挑みつづける麗志坂えす。その顔には疲労の色が濃い。
一方、乙姫つづりはテーブルに突っ伏したまま1の目を振り、振り出しに戻り続けていた。
そして眠霊幽。
「おやおや、お二人さん。お疲れのよーだけど?」
涼しい顔でサイコロを振り続けていた。
出目はやはり1。
乙姫つづりには、彼女の魂胆がわかっていた。眠霊幽の真の能力。それは絶食絶飲に強く、長期戦に長けること。あまりの極貧ゆえに、食事を一か月絶つことなどざら。家の水道も止められているため、水なしで数週間過ごしたこともある。彼女にとって5日の幽閉は苦痛のうちに入らなかった。このまま他の2人が倒れるのを待つつもりだ。
見れば審判の久寝ねねこは、床に転がって動かなくなっている。
梓星ゆえは椅子にふんぞり返ったまま目をつぶっていた。
どうすればいい?
どうすれば行き残れる?
頭をめぐらす乙姫つづり。
「諸君」
唐突に、梓星ゆえが目を開いた。その姿にはわずかな憔悴もなかった。
「我は退屈している。このような泥仕合、王者が目にするに値しない」
そして口を歪めた。
「そこで我は、諸君らに我の力を少し……ほんの僅かだけ分け与える。諸君らが耐えられる程度の、ちっぽけな運命力をな」
ドクン。
乙姫つづりの心臓が高鳴った。全身に力がみなぎった。精神が高揚する。
これが王者の運命力。
「ちっ。あんたの力だってのは気に入らねーが、いくよ!」
また振り出しに戻っていた麗志坂えすが振る。
出目は12。普通の6面サイコロで12が出た。王者の力恐るべし!!!
乙姫つづりもサイコロを振る。
出目は9!
もう驚かない!
「じゃあ、ボクもいっちゃうぞー!」
眠霊幽が振った。出目は6。
『じごくにおちる』
「おかしいだろおおおおおお!!!!」
悪魔の手に捕まれ、眠霊幽は床下に消えた。
珍しく噴き出す王位継承者。
「我の運命力をもってしてもこれとは。見事であったぞ眠霊幽」
乙姫つづりと麗志坂えすは笑えなかった。
次手。麗志坂えす。
出目は8。
そのマスには……。
『みなえのこと すきになっていいよ』
麗志坂えすの目じりに涙がにじんでいた。乙姫つづりはそのことに触れなかった。
乙姫つづり、サイコロを振る。
出目は10。
『ほかのひとは3マスすすむ』
「あっ、ラッキー!!」
自分のコマを3つ進める麗志坂えす。
そのマスには
『じゅうでうたれる』
虚空から飛び出した弾丸が、麗志坂えすの胸に鮮血の花を咲かせた。
「えすちゃん!」
「ちっ。実苗かこぉっ!!最後の最後まで、クソガキだったぜ……ははっ」
テーブルに突っ伏し、動かなくなる麗志坂えす。
乙姫つづりは溜息をはいた。
終わった。また自分だけが生き残った。
「つづりん。安心するのは早い」梓星ゆえ。
「このゲームのルールをおぼえているかい?勝者は一番に上がった一人だけだ。きみは上がらなければならない」
ああ、そうだ。この世界はいつだってゴミ溜めのような現実にあふれている。
乙姫つづりはサイコロを握った。
『いっかいやすめ』
『ほかのひとは こいつなぐっていいよ』
『つぎのてばんまで ゆかをなめろ』
『あともうすこし』
乙姫つづりは床を舐めながら15の目を出し、最後の難関直前に到達した。
ここからは6連続の6が必要である。
「いっけぇぇぇぇぇええええ!!!」
6面サイコロは、ぴたりと30を上にして止まった。
30マス進むコマ。残りは5つの振り出しに戻ると、ゴール、のみ。
体を満たしていた力がふっときえた。梓星ゆえから分けられた運命力が元に戻ったのだ。
「さあ、乙姫つづり。己の運命を決めよ」
手を組んだままの梓星ゆえの目が、怪しく光る。
憔悴しきった久寝ねねこが意識を取り戻した。
乙姫つづりはサイコロに力を込めた。梓星ゆえに運命力があるなら、自分にはサー姫力がある。
そのすべてをこの一投に込める!!
「とどめだーーーー!!!!」
出目は。
12。
「ねねこちゃん」
「ん?」
「このすごろく、ゴールを飛び越えたらどうなるの?」
「んとね、振り出しに戻って残りのぶんを進む」
コマは振り出しに戻り、6歩進んだ。
『じごくにおちる』
「なんでえええええ!!!!!!!!!????????」
巨大な悪魔の手が、乙姫つづりをどこかへ引きずり込んだ。
後には流石に驚きの顔の梓星ゆえ。そして力尽きた久寝ねねこ。
「つづりんの負け」
梓星ゆえが宣言してため息をついた。
*実際の収録は2時間ほどで行われています。
*地獄に落ちるのはCG演出です。
*えす様が撃たれたのは特殊効果です。
*本物のはりちゃんは出オチ要員ではありません。
*よめなちゃんはただの風邪でした。
*この後みんなでバーガーキングに行きました。
ゲーム開始から5日と6時間。
未だ誰一人としてゴールに到達できず……!!
このすごろく。最後の難関は、まさに鬼畜だった。
5つ連なる「ふりだしに戻る」。それが6連繰り返し!
6連続で6を出さねばゲーム開始位置まで戻される、突破確率、じつに46,656分の一。いかにも小学生らしい鬼畜難度である。
挑みつづける麗志坂えす。その顔には疲労の色が濃い。
一方、乙姫つづりはテーブルに突っ伏したまま1の目を振り、振り出しに戻り続けていた。
そして眠霊幽。
「おやおや、お二人さん。お疲れのよーだけど?」
涼しい顔でサイコロを振り続けていた。
出目はやはり1。
乙姫つづりには、彼女の魂胆がわかっていた。眠霊幽の真の能力。それは絶食絶飲に強く、長期戦に長けること。あまりの極貧ゆえに、食事を一か月絶つことなどざら。家の水道も止められているため、水なしで数週間過ごしたこともある。彼女にとって5日の幽閉は苦痛のうちに入らなかった。このまま他の2人が倒れるのを待つつもりだ。
見れば審判の久寝ねねこは、床に転がって動かなくなっている。
梓星ゆえは椅子にふんぞり返ったまま目をつぶっていた。
どうすればいい?
どうすれば行き残れる?
頭をめぐらす乙姫つづり。
「諸君」
唐突に、梓星ゆえが目を開いた。その姿にはわずかな憔悴もなかった。
「我は退屈している。このような泥仕合、王者が目にするに値しない」
そして口を歪めた。
「そこで我は、諸君らに我の力を少し……ほんの僅かだけ分け与える。諸君らが耐えられる程度の、ちっぽけな運命力をな」
ドクン。
乙姫つづりの心臓が高鳴った。全身に力がみなぎった。精神が高揚する。
これが王者の運命力。
「ちっ。あんたの力だってのは気に入らねーが、いくよ!」
また振り出しに戻っていた麗志坂えすが振る。
出目は12。普通の6面サイコロで12が出た。王者の力恐るべし!!!
乙姫つづりもサイコロを振る。
出目は9!
もう驚かない!
「じゃあ、ボクもいっちゃうぞー!」
眠霊幽が振った。出目は6。
『じごくにおちる』
「おかしいだろおおおおおお!!!!」
悪魔の手に捕まれ、眠霊幽は床下に消えた。
珍しく噴き出す王位継承者。
「我の運命力をもってしてもこれとは。見事であったぞ眠霊幽」
乙姫つづりと麗志坂えすは笑えなかった。
次手。麗志坂えす。
出目は8。
そのマスには……。
『みなえのこと すきになっていいよ』
麗志坂えすの目じりに涙がにじんでいた。乙姫つづりはそのことに触れなかった。
乙姫つづり、サイコロを振る。
出目は10。
『ほかのひとは3マスすすむ』
「あっ、ラッキー!!」
自分のコマを3つ進める麗志坂えす。
そのマスには
『じゅうでうたれる』
虚空から飛び出した弾丸が、麗志坂えすの胸に鮮血の花を咲かせた。
「えすちゃん!」
「ちっ。実苗かこぉっ!!最後の最後まで、クソガキだったぜ……ははっ」
テーブルに突っ伏し、動かなくなる麗志坂えす。
乙姫つづりは溜息をはいた。
終わった。また自分だけが生き残った。
「つづりん。安心するのは早い」梓星ゆえ。
「このゲームのルールをおぼえているかい?勝者は一番に上がった一人だけだ。きみは上がらなければならない」
ああ、そうだ。この世界はいつだってゴミ溜めのような現実にあふれている。
乙姫つづりはサイコロを握った。
『いっかいやすめ』
『ほかのひとは こいつなぐっていいよ』
『つぎのてばんまで ゆかをなめろ』
『あともうすこし』
乙姫つづりは床を舐めながら15の目を出し、最後の難関直前に到達した。
ここからは6連続の6が必要である。
「いっけぇぇぇぇぇええええ!!!」
6面サイコロは、ぴたりと30を上にして止まった。
30マス進むコマ。残りは5つの振り出しに戻ると、ゴール、のみ。
体を満たしていた力がふっときえた。梓星ゆえから分けられた運命力が元に戻ったのだ。
「さあ、乙姫つづり。己の運命を決めよ」
手を組んだままの梓星ゆえの目が、怪しく光る。
憔悴しきった久寝ねねこが意識を取り戻した。
乙姫つづりはサイコロに力を込めた。梓星ゆえに運命力があるなら、自分にはサー姫力がある。
そのすべてをこの一投に込める!!
「とどめだーーーー!!!!」
出目は。
12。
「ねねこちゃん」
「ん?」
「このすごろく、ゴールを飛び越えたらどうなるの?」
「んとね、振り出しに戻って残りのぶんを進む」
コマは振り出しに戻り、6歩進んだ。
『じごくにおちる』
「なんでえええええ!!!!!!!!!????????」
巨大な悪魔の手が、乙姫つづりをどこかへ引きずり込んだ。
後には流石に驚きの顔の梓星ゆえ。そして力尽きた久寝ねねこ。
「つづりんの負け」
梓星ゆえが宣言してため息をついた。
*実際の収録は2時間ほどで行われています。
*地獄に落ちるのはCG演出です。
*えす様が撃たれたのは特殊効果です。
*本物のはりちゃんは出オチ要員ではありません。
*よめなちゃんはただの風邪でした。
*この後みんなでバーガーキングに行きました。