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乙姫VS. 第九夜『すごろく』

1巡目。
すごろくにおいて1巡目は重要である。
このゲーム、初手が勝敗を決めると言っても過言ではない。
なぜなら各々の運命力の差が、初手には最もあらわれるからである。

手番は笑羽良はり。

MOKUROKUのシ合者の中でも、指折りの実力者である。
本人の体力・知力・運命力に加え、未来の技術が彼女を後押ししていた。
さらに彼女には、地球が破滅する未来を変えるという重い使命があった。
この日も笑羽良はりは、必勝の策をもってシ合に臨んでいた。

運命操作機。
確率を自在に操作するこれを用いれば、常にサイコロの6を出し続ける事など、赤子の手を捻るようなもの。
ひれふせ原始人ども!!これが新人類の力だ!!

サイコロを投げる笑羽良はり。それは6の目を上にして止まった。
「ついてるー!笑羽良6マス進んじゃいまーす!」
皆が見守る中、小学生すごろくの上の己のコマを、6つ進める笑羽良。

6つ目のマス。そこには小学生の字でこう書かれていた。

『じごくにおちる』

「え!!?」
笑羽良はりの足元に赤黒く輝く魔法陣が開き、そこから生えた巨大で無骨な黒い手が、少女の小柄で華奢な体を握り締めた。

「そんなああああああ!!!?」
笑羽良はりは魔法陣に引き込まれ、この世から消えた。
あっけなく。

一人脱落。
「うきゃきゃきゃきゃー!!ざっこー!!!」
テーブルを叩き、転がり回って笑う実苗かこ。
しかし他の参加者たちの顔に笑顔はなかった。
このすごろく。想像以上にやばい。


2番手。眠霊幽。
「うっ…」
冷汗を垂らしながらサイコロを持つ眠霊幽。その表情は冴えない。
眠霊幽はシ合者の中で、体力・知力・耐久力、全てにおいて最高レベルの強豪である。ただ一点、運命力を除けば。
噂によれば彼女は、以前のシ合の結果として4度も家を失ったそうだ。
運がない。すごろくは不利なフィールドである。
しかし彼女はこのシ合に出る必要があった。
1年ほど前に挙式した彼女の夫、環理よめなが原因不明の病に侵されていたのだ。
シ合の褒美。それがあれば病を癒すことなどぞうさもない。勝たなければならなかった。

出目1。

顔を蒼白にし、震える手でコマを進める眠霊幽。
1マス目にはこう書かれていた。

『1歩戻る』

眠霊幽は振り出しに戻った。
「ふぅ…生き残ったよ、よめっち」汗をぬぐう眠霊幽。
「「「ちっ」」」三人が舌打ちする。ライバルは少ないほどいい。

3番手。実苗かこ。
「超ぷりてぃーつよつよ美少女の実苗なら、こんなすごろくよゆーだもんね!」
そう言って、小さなおててでサイコロを握る実苗かこ。
確かに余裕かもしれない。彼女にはこのすごろくの作者である、という圧倒的なアドバンテージがある。戦場において地形を知ることの優位さは、言うまでもない。
「うるしざかえす!いまのうちに覚悟しときな!」
「いいからさっと振りな!」
苦々し気に促す麗志坂えす。
「そりゃ!」
サイコロが実苗かこの手から離れて転がる。
出目は6。
「え」
6マス目。それは

『じごくにおちる』

実苗かこの足元に魔法陣が現れ、巨大な手がその小さな体を掴む。
「ぎゃああああああ!!!!」
絶叫をあげ、どこかへ引きずり込まれる実苗かこ。
そのまま、床へと消えていく。
隣席の麗志坂えすが、咄嗟に手を伸ばした。実苗かこも。
しかし両者の手は交わることなく、実苗かこの姿はこの世ではない場所へ消えた。

乙姫つづりからは、麗志坂えすの顔は見えなかった。
向き直る麗志坂えす。
「さっ、続けましょ」
いつもの優美な笑顔だ。
麗志坂えすはサイコロを振った。出目3。
3マス先は、

『みなえがおまえをふるぼっこにする!』

何も起きない。当然だ。あの少女はもうここにいないのだから。
ただ乙姫つづりは、麗志坂えすの肩と手が震えているのを、はっきりと見て取った。

乙姫つづりはその手から、そっとサイコロを譲り受け、テーブルに転がした。
出目は1。
振り出しに戻った。
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