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乙姫VS. 第三夜『かくれんぼ』

「もーいいかい」「まーだだよ」
Pictoria本社裏の公園。木に向かって目をつむる麗人が一人。梓星ゆえだ。
「もーいいかい」
穏やかな、透き通った声で問いかける。
アソビ、の仲間に。
「まーだだよ」
久寝ねねこの声。
しかし梓星ゆえは自分に返事をしているのが、人間ではないことを知っていた。
「もーいいかい」
「まーだだよ」
挑戦者たちが散ってから早3分。
梓星ゆえは穏やかだった。穏やかに爪を研いでいた。
この遊びは、獲物があがけばあがくほど面白い。
「もーいいかい」
「…もーいいよ」
"安全"な場所を確保したか。
目を開き振り向くゆえ。
広がる緑にぎやかなる初夏の公園の光景。
そして、久寝ねねこが地面に置いていった予備のスマホ。
声はここからしていたのだ。
ぐしゃ。と、梓星ゆえはそれを踏み潰した。
顔には王族スマイル。
「本当によかったのかなぁ?」
狩りが始まった。



シ合がはじまった。にもかかわらず乙姫つづりは自らの安全な隠れ場所を見つけられずにいた。梓星ゆえを相手にするとき、これは致命的なミスである。
この公園は広い。が、中央を大きな池が占めており、実質的な移動可能範囲は敷地面積のおよそ60%と見積もられていた。
これはあまりにも少ない。
仲間たちは三々五々に散っていった。固まっていては瞬時に全滅する危険性があるからである。
そう、仲間。
今回は個人競技ではない。かくれんぼの勝利条件は15分間、誰かが生き残ること。久寝ねねこ、プロデキューサーのザレス山田、マネ太郎、そしてアケド社長。
皆が仲間だった。時には他の仲間を助けるために、自分を犠牲にする、その覚悟をしていた。



試合開始前の梓星ゆえへの応答に、スマホを1個犠牲にしたのは久寝ねねこの発案だ。声で返事をした場合、音波の反響で探知されるのは明白だった。応答はあらかじめ録音した久寝ねねこの声を、mp3で流すことで行われた。
電話でも可能だったが、王位継承者と通話した場合、久寝ねねこが耐えきれず自分の隠れ場所を自白してしまう可能性があった。
危険はおかせなかった。
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