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乙姫VS. 第四夜『砂崩し』

二巡目。
ただでさえ冷えていた部屋の温度は、氷点下にまで下降していた。
砂はもうわずか。
それでも扇子を構えたまま、余裕の笑みを崩さない麗志坂えす。
「ねえ、みんな知ってるぅ?」
朗らかに笑う。
「この犬ねえ、もと砂崩しの日本チャンピオンなの。それが今は犬なの。面白いよねぇ」
扇子を仰いでけらけらと麗志坂えす。他の三人は笑わない。ただ梓星ゆえだけが微笑んでいる。
「犬」
「わん!」
麗志坂えすの命令に応えて、犬が手を円卓に伸ばす。

刹那、梓星ゆえが腰のサーベルに手を伸ばした。
電光石火の一閃。宙に舞う、犬の手首。
「うおおおおおおん!!!!」
悲鳴を上げ倒れる犬。手首から先が切断されていた。
なんだ?なに?何が起きた!?
乙姫つづりは何も反応ができなかった。
「おいたはいけない」
梓星ゆえが口の端を歪める。
「握り込みは反則だ」
乙姫つづりは切り飛ばされた犬の手を見た。中に砂が握られている。
まだ砂山に触れていなかったのに。いかさまを働くつもりだったのだ。
それにしても、手を切り飛ばすとは。この王者の心に、一片の慈悲なし。
「いいや、私は慈悲深い。命を奪わなかっただけな」
椅子に深々と腰掛ける梓星ゆえ。
「ひどーい、ゆえちゃん」
一方、困り顔の麗志坂えす。
「この子たち、すっかりびびっちゃったじゃない」
見れば久寝ねねこも硬直している。
こんな流血を目の当たりにするのは、はじめてだろう。無理もない。自分もだ。
乙姫つづりは屈辱に身を焦がした。

「さて。じゃあ、ちょっと本気だしたおーかなぁ」
扇子をたたむ麗志坂えす。
「舐めんじゃなーぞ、梓星ゆえ!!」
憤怒に歪んだ顔で、大胆に砂山を削る麗志坂えす。
これは!?
もう棒を支える砂の量は限界に達している。
ここで終幕か!?

しかし。棒は動かず。

麗志坂えす。完全に砂を見切っている。
棒はあと一粒でも抜かれれば倒れる、限界の砂量でバランスを維持していた。
が、様子がおかしい。
麗志坂えすは、いま引き寄せた砂の大部分を、手元から離れた位置に置いて、手を膝に戻した。
「はい、わたくしの番はおしまい」
微笑む。
なんだ?あの砂は?どんな意図が?
混乱する乙姫つづり。
すると麗志坂えすが久寝ねねこに顔を向けた。
「安心して。ねねこちゃんのぶんは、ちゃんと残してあるから」
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