乙姫VS. 第四夜『砂崩し』
一巡目。
サイコロの結果、初手は麗志坂えす。
「犬」
「ワンッ!」
いままでただ立っていた三人…いや、三匹目の犬が砂の山に向かって手を伸ばす。
この女。自分の手は汚さないつもりのようだ。
犬の手が砂山を回り込み、大胆に砂を寄せていく。
それを歯を食いしばりながら見つめる乙姫つづり。
勝負の面からも、金の面からも4番目は苦しかった。今の一撃で盤面から4割ほどの金が消えた。
まだ控えめなのは、あまり欲深だと思われなくないという単なる見栄だろう。
しかし賢い判断だった。
この砂崩しの棒は、全く信用できない審判者だ。欲を張れば序盤に倒れることもありえる。
棒は動かず。
「よくやったわね、ポチっ」
「ワン!」
顔に『犬』と紙を貼られた、ブリーフ一丁の成人男性が、野太い声で答える。
しかし麗志坂えすの顔が、またしても憤怒に歪む。
「てめぇはポチじゃねぇだろ!?なんで返事すんだ!!」鞭が犬をしばく。
「ワン!!ワンワン!!!」叫ぶ犬。
あの人はどんな人生を歩んできて、いまあそこにいるのだろうか。
家族はいるのだろうか。いたらこうなってしまったあの成人男性を見て、どう思うだろうか。
様々な疑問が乙姫つづりの脳裏をよぎったが、それを頭からおいやる。
今まさに、二番手の久寝ねねこが砂山に小さなおててを伸ばしていた。
目は金でくらみ、涎すら垂らしている。
これは、死んだが。
冷ややかな目でみつめる乙姫つづり。
自分としては麗志坂えすが勝者になっても、生き残れはする。
金が手に入らないのは惜しいが、自分は4番目。最初からほとんど金は見込めない。
それに、しょせんカネなどオタクをひっぱたけば、いくらでも出てくるのだ。
「ねねこ」
王者が口を開いた。
「このシ合、敗者はどうなると思う?」
久寝ねねこの目の色が変わった。欲望から恐怖へと。
ねねこの手が震える。
あまりに震えるので、そのまま棒にふれて倒してしまうのではないかと思えた。
が、久寝ねねこも戦士であった。
たまたま傍を歩いていたつのねこちゃんをひっつかむと、その角を自らの腕に突き刺す。鮮血の花が咲く。赤い液体がどくどくと流れる。しかし震えは止まっていた。
その手で2割ほどの砂を手繰り寄せる。リスクを抑え、確実に利を取る。久寝ねねこ、渾身の一手であった。
棒は動かない。
そして次は。
「ふむん」
ほおに手を当て、乙姫つづりを見つめる梓星ゆえ。
魅力的な微笑み。
乙姫つづりは騙されなかった。あれは獲物をどういたぶるか思案している微笑だ。
「つづりん。金が欲しいかい?」
「え…?そりゃ、欲しいけど」
「では機会をあげよう。ぞんぶんに取りたまえ」
梓星ゆえは細い指を一本伸ばし、ほんの数粒の砂をたぐりよせた。
「終わりだ」
宣言する王位継承者。
これで、終わり?
4番はもっとも損な手順だった。乙姫つづりは金を諦めていた。
しかし今、目の前にはまだ4割ほど残った砂金の山が!!
「さあ、つづりん」
王者が笑う。
「欲に目がくらんだ君の姿を、私に見せてくれ」
言葉は耳に入らなかった。
気が付けば乙姫つづりは、砂の山に飛びつき、本能の赴くままにそれを手繰り寄せていた。
その姿のあさましさ!
手元に引き寄せられる4割ほどの砂。残った砂はごくわずか。
ここで乙姫つづり正気に戻る。もし棒が倒れれば、敗北。
どれほどの砂を取ったところで意味が無い。
棒は……しかしゆるがず。
一巡目終了。
場は一気にクライマックスを迎えていた。
サイコロの結果、初手は麗志坂えす。
「犬」
「ワンッ!」
いままでただ立っていた三人…いや、三匹目の犬が砂の山に向かって手を伸ばす。
この女。自分の手は汚さないつもりのようだ。
犬の手が砂山を回り込み、大胆に砂を寄せていく。
それを歯を食いしばりながら見つめる乙姫つづり。
勝負の面からも、金の面からも4番目は苦しかった。今の一撃で盤面から4割ほどの金が消えた。
まだ控えめなのは、あまり欲深だと思われなくないという単なる見栄だろう。
しかし賢い判断だった。
この砂崩しの棒は、全く信用できない審判者だ。欲を張れば序盤に倒れることもありえる。
棒は動かず。
「よくやったわね、ポチっ」
「ワン!」
顔に『犬』と紙を貼られた、ブリーフ一丁の成人男性が、野太い声で答える。
しかし麗志坂えすの顔が、またしても憤怒に歪む。
「てめぇはポチじゃねぇだろ!?なんで返事すんだ!!」鞭が犬をしばく。
「ワン!!ワンワン!!!」叫ぶ犬。
あの人はどんな人生を歩んできて、いまあそこにいるのだろうか。
家族はいるのだろうか。いたらこうなってしまったあの成人男性を見て、どう思うだろうか。
様々な疑問が乙姫つづりの脳裏をよぎったが、それを頭からおいやる。
今まさに、二番手の久寝ねねこが砂山に小さなおててを伸ばしていた。
目は金でくらみ、涎すら垂らしている。
これは、死んだが。
冷ややかな目でみつめる乙姫つづり。
自分としては麗志坂えすが勝者になっても、生き残れはする。
金が手に入らないのは惜しいが、自分は4番目。最初からほとんど金は見込めない。
それに、しょせんカネなどオタクをひっぱたけば、いくらでも出てくるのだ。
「ねねこ」
王者が口を開いた。
「このシ合、敗者はどうなると思う?」
久寝ねねこの目の色が変わった。欲望から恐怖へと。
ねねこの手が震える。
あまりに震えるので、そのまま棒にふれて倒してしまうのではないかと思えた。
が、久寝ねねこも戦士であった。
たまたま傍を歩いていたつのねこちゃんをひっつかむと、その角を自らの腕に突き刺す。鮮血の花が咲く。赤い液体がどくどくと流れる。しかし震えは止まっていた。
その手で2割ほどの砂を手繰り寄せる。リスクを抑え、確実に利を取る。久寝ねねこ、渾身の一手であった。
棒は動かない。
そして次は。
「ふむん」
ほおに手を当て、乙姫つづりを見つめる梓星ゆえ。
魅力的な微笑み。
乙姫つづりは騙されなかった。あれは獲物をどういたぶるか思案している微笑だ。
「つづりん。金が欲しいかい?」
「え…?そりゃ、欲しいけど」
「では機会をあげよう。ぞんぶんに取りたまえ」
梓星ゆえは細い指を一本伸ばし、ほんの数粒の砂をたぐりよせた。
「終わりだ」
宣言する王位継承者。
これで、終わり?
4番はもっとも損な手順だった。乙姫つづりは金を諦めていた。
しかし今、目の前にはまだ4割ほど残った砂金の山が!!
「さあ、つづりん」
王者が笑う。
「欲に目がくらんだ君の姿を、私に見せてくれ」
言葉は耳に入らなかった。
気が付けば乙姫つづりは、砂の山に飛びつき、本能の赴くままにそれを手繰り寄せていた。
その姿のあさましさ!
手元に引き寄せられる4割ほどの砂。残った砂はごくわずか。
ここで乙姫つづり正気に戻る。もし棒が倒れれば、敗北。
どれほどの砂を取ったところで意味が無い。
棒は……しかしゆるがず。
一巡目終了。
場は一気にクライマックスを迎えていた。