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乙姫VS. 第四夜『砂崩し』

「結構」
その場にいた全員が沈黙で見守る中、梓星ゆえは優美に歩を進め、空いていた最後の席についた。
乙姫つづりの右隣。体をびくりと震わせる乙姫つづり。
何をしている。まだ梓星ゆえは席についただけだ。
こんなところで怯えていては、とても勝利はおぼつかない。


「さて、今日はどのような遊戯をするのかな?」
「その前に」
微笑む梓星ゆえに、麗志坂えすが割り込んだ。
「ゆえちゃん。時間に遅れて来たわね。しゃ・ざ・い・は?」
扇子を開き、王者を煽る麗志坂えす。
「そうか。許せ」
それを梓星ゆえは事も無げに受け流した。微笑したまま。
しかも今のは謝罪と言えば謝罪だが。
命令、だ。
ここにいる3人に向け、いともたやすく命令を下す。
これが王。

梓星ゆえと麗志坂えすの間に、静かに緊張が高まる。

「み、みんな今日はただのゲームだし、楽しくやろうよ」
耐えきれなくなった久寝ねねこがとりなす。
場の空気が少しゆるんだ。
「そうだな。楽しくやろう」
「ええ、楽しくやりましょう」
笑い合う2人。乙姫つづりは久寝ねねこに感謝した。
今回のゲーム、座り順は時計回りに 
乙姫つづり→麗志坂えす→久寝ねねこ→梓星ゆえ である。
ルール上、勝者は敗者の一つ前の手番の者。
隣接していない乙姫つづりと久寝ねねこは、必然的に敵対しない。
シ合の場で敵ではないと言うことは、協力し合えると言うことだ。
それがわかっていて、乙姫つづりは久寝ねねこの対面に座った。
なにしろ残りの二人は、敵対関係に無くてもなお信頼できない、包み隠さず言えば鬼畜だからだ。

「じゃあ、ルール説明するねぇ」
久寝ねねこが砂崩しの基本的なルールを説明しだした。
それを聞きながら乙姫つづり、今日は生き目ありと見ていた。
砂崩しは自分のリスクを極限まで低くし、対戦相手に押し付けるのがセオリー。だが梓星ゆえと麗志坂えすが、頭を低くして逃げ切るような、そんな勝ちを選ぶだろうか。

否。
最大までリスクをとる。それがあの二人のやり方だ。
この砂崩しというゲームでは、それが死につながる。
勝つ。
ねずみのように小さくなり、汚れた床を這ってでも勝つ。

そのような乙姫つづりの決意に、しかし鉄槌は天より振り下ろされた。
「ルールはわかった。しかし今一つ面白みにかけるな」
椅子に座り脚を組んだ梓星ゆえが、王者の笑みで言った。
「今日の砂崩し、勝者には自身がとった砂と同じ量の黄金を進呈しよう」
またしても場の空気が一変した。
麗志坂えすの目がぎらぎらと輝く。
見れば久寝ねねこの目も、¥マークになっている。
自分もだろう。さっきまでただの砂だった山が、今の乙姫つづりには砂金に見えていた。
「さあ遊戯開始だ。我を楽しませよ」
宣言する梓星ゆえ。
シ合がはじまった。
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