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乙姫VS. 第四夜『砂崩し』

「二人とも、なんでそんなに怖い顔してるの? わたくし泣いちゃうぅ」
「そんなことないよぉ」
「そうだよ。今日は楽しもうね!」
笑顔で迎える乙姫つづりと久寝ねねこ。笑顔で応じる麗志坂えす。
一見和やかな少女たちの集まり。
もちろんそれは表面上だけである。

「じゃあ、わたくしはここに座ろうかなぁ」
麗志坂えすが円卓の前に立つと、犬の中から太った一匹が四つん這いになる。別の筋骨隆々の一人がすっと両手を差し出した。その手に毛皮のコートをかける麗志坂えす。あのコートはモクロクミンクの毛皮だ。つい先日、最後の数匹が何者かに密漁され、絶滅したとニュースになっていた。
そして麗志坂えすは、さも当然のように四つん這いの犬に腰掛けた。
「ぶひぃ!」
犬が鳴く。
刹那、まるで鬼に変じたかのように、麗志坂えすの顔が憤怒に染まった。
「ぶひぃじゃねぇ。ワンだろぉ!!」
鞭で椅子犬の尻を叩く麗志坂えす。わん!わんわん!!と悶えながら叫ぶ椅子犬。
その顔は『犬』の紙があるため、乙姫つづりには見えなかった。
見えなくて良かったと思う。
一歩間違えれば自分が犬になり、BL本に釣られてあの女を乗せて這う、のような現在もあり得たのだ。

「今日は楽しみましょうね。つづりちゃん。ねねこちゃん」
微笑に戻る麗志坂えす。
「そうだね、みんな」
「うん」
何事もなかった。そのように微笑みあう三人。
「えすちゃん、お化粧かえた?」
「うふふ、わかるぅ?」
「えすちゃん、いっそう可愛くなったもん」
「つづりちゃんとねねこちゃんは、お化粧してないのに、いつも最高にかわいいわ」
お花が背後に見えそうなほど、きゃっきゃうふふな空間。
背後と下に三匹の犬。
理性と狂気の絶妙なバランスの上で、三人は仮初(かりそめ)の平和を演じていた。

「全員揃ったか?」
虚構とは言え温かい空間は、瞬時に打ち砕かれた。
その少女の到来によって。

傲岸不遜、天下覇道、絶対無謬、四海無敵、暴虐無比、絶対王者。

梓星ゆえ。エルムアウリー星、王位継承者。
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