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乙姫VS. 第三夜『かくれんぼ』

乙姫つづりは膝を抱えて座り込んでいた。
いま乙姫つづりがいるのは公園のゴミ箱の中だ。他に隠れる場所がみつからなかった。
久寝ねねこはヤられた。
自室から出ることができないひきこもり、久寝ねねこにとって、歯の健康は死活問題。軽く『歯が痛んだ』などと言うはずがない。
通話していた相手は完全に久寝ねねこの声だった。しかしあれは梓星ゆえだ。
恐ろしかった。
梓星ゆえ。あれは本当に人間なのだろうか?
厳密には人間ではない。梓星ゆえはエルムアウリー人なのだから。
とはいえ、同じタンパク質で構成される生物。自ずと限界があるはず。
はずなのだが……。今までに王位継承者が見せてきた身体能力は、完全の常識の範囲を超えていた。

「つーづーりーんー」
声が近づいてきた。
梓星ゆえ。既にここがばれているのか?
そんなばかな。
「つーづりーん?どーこー?」
梓星ゆえの足音。乙姫つづりは息を殺した。窒息しそうなほどに。
スマホ画面を見る。残りおよそ一分。
このまま逃げおおせられるのか?それとも梓星ゆえは自分をいたぶっているのか?
脚ががたがたと震える。
存在感の消し方には自信がある。大学生活四年間でじっくりと鍛えた。うそ、まだ大学生。
だが、それをもってしても梓星ゆえという存在はあまりに規格外だ。
「つづりん。この近くにいるのはわかってる」
梓星ゆえが話す。
「だから、聞かせてあげよう。ザレス山田がどんな風に泣き叫んで命乞いをしたかをなぁ!!」
愉悦。絶対的支配者の独演会が始まろうとしていた。
「梓星の足の裏をなめたら見逃してやるって言ったら、ザレスはどうしたと思う」
乙姫つづりの中に、ふつふつと怒りが沸き上がった。
あの乙姫つづりの名付け親にして命の恩人であるザレス山田を!!
「あいつはなぁ、くくく、犬のように舌を出して」
「そこまでだよ!」
乙姫つづりは、ゴミ箱の蓋を開けて飛び出した。
体が勝手に動いていた。
「おやおや、つづりん。どういうつもりだい」
「ゆえちゃん。姫……怒ってる」
「それで?子ネズミのように逃げ回っていたつづりんが、出てきてどうするの?」
「もう、逃げない。勝ってこのゲームを終わらせる」
ふっ、と笑う梓星ゆえ。
乙姫つづりは逃げなかった。その瞳の中では天界の光と地獄の炎が混ざり合って輝いていた。
「ゆえちゃん。この一撃に、姫は全てをのせるよ」
拳を構える乙姫つづり。
それを待ち受けるかのように両手を広げて笑う梓星ゆえ。
「くらえ!乙姫パーーーーーンチ!!!」


「つづりん、みっけ」
「あ」
「つづりんの負け」
梓星ゆえが宣言してため息をついた。
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