おとひめつづりのだいさくせん
深夜。ゴチクン・キンニクビル正面。
広場に据えられた金のゴチクン社長像の脇に、一人の少女の姿があった。
黒いツーサイドアップの髪、水色スカートにショルダーバッグ、頭の上には水色のティアラが浮かんでいる。背は低く幼げな顔の美少女。口元は水色の覆面で隠しているが、まぎれもなく乙姫つづりであった。
スマホからねねこの声。
『行くんじゃな? 12階のマッチョ警備ロボはすぐにでもストップできるよ。ただヌエペックスが気づいて再起動させるまで5分ってところだと思う』
「わかった」
ビルの上階を見上げるヒメ。
ヒメは異次元収納ボックスからハンマーと大きな壺を取り出した。
「いくよ。一気に12階まで飛ぶ」
『ホンキ?まぁいいけど』
ヒメは壺に飛び込んだ。
「ちょっと待って」
背後から声。
ヒメが振り返ると、夜の広場をこちらにやってくる人影。
梓星ゆえだった。ヒメと同じく口を覆面で隠している。
「壺に入って何をしようとしてるのか知らないけど、梓星も行くよ」
おどろくヒメ。
「ゆえちゃん…どうしてここに?」
「別に不思議なことじゃない。ねねこから聞いたよ。今夜、作戦決行だって」
「あ、そっか」
「大丈夫。足手まといにはならないよ」
見れば梓星ゆえは腰に剣を差し、脚のホルスターに拳銃を入れていた。
「戦いにいくわけじゃないんだけど」
「そうならなければ結構だね。さあ、行こうか」
壺に入る梓星ゆえ。
ディオゲネスお兄ちゃん用の壺と同サイズなので、少女二人なら十分な余裕があった。
「じゃあ行くよ。何を見ても驚かないでね」
「ふふ。もうこの壺が空中から出てくるところ見てるからね」
うなずくヒメ。
そしてヒメはハンマーを振りかぶり、ゴチクン社長像を叩いた。少女二人が乗った壺は天高く舞い上がった。そのままゴチクン・キンニクビルの12階に突っ込む。ガラス窓はぶち破るしかない。11階の警備員にまで音が届くかは運しだいだ。
しかし壺が窓に衝突する寸前、梓星ゆえの剣が閃いた。
瞬時の早業だった。勇者になっていなければ、ヒメには梓星ゆえが剣を抜いたことすらわからなかっただろう。ガラス窓が丸く切り抜かれていた。とはいえこのままでは衝突することに違いは無い。
「異次元収納ボックス!!」
ヒメは咄嗟の判断で、切り抜かれたガラスを異次元収納ボックスに送り込んだ。ぽっかりと開いた穴を通って、壺は12階の廊下に着地した。
「ゆえちゃん、すごいね!!」
「これでも王子だからね。武術は一通り身に着けている。ヒメこそ地球人の身体能力とは思えないけど」
「あー、それはちょっと込み入った事情があって」
「それにあれだけ強く打ったのに、ゴチクン社長像が壊れなかったのは?」
「あれはね、作用と反作用の両方を自分に向けることで、何も壊さずに推進力だけを得るディオゲネス式打撃法だよ」
「??? 地球の科学はよくわからないや」
『おい、お二人さん。のんびり話してる時間はないじゃろ』
スマホのねねこから突っ込みが入る。
「そうだ。金庫室に急がないと」
「うん」
ヒメは壺とハンマーを異次元収納に入れて、廊下を駆けはじめた。
梓星ゆえも続く。
途中の廊下には多数のマッチョ警備ロボが、ダブルバイセップスのポーズを決めて立っていた。動力が落ちているらしく、こちらには反応しない。
ヒメは頭に叩き込んだ地図を思い出しながら走った。ここは西側通路。三つ目の通路を右に曲がって、すぐの大扉。
これといって妨害を受けずに、金庫室前に辿り着いた。扉は施錠されている。
『扉を開けるぞ』
久寝ねねこから通信。厚い金属製の扉ががしゃりと開いた。
引っ張り開けるヒメ。
さて問題はここからだ。
金庫室内部には多数の金庫が並んでいる。番号カードがある位置もわかっていた。しかし入れば致死性のレーザー。勇者であるヒメの体力なら耐えられるかもしれない。かといってこんなところで賭けに出るのは気がすすまない。やはり魔法でレーザー銃かセンサーを破壊する。それがベストだ。
『…というわけで、部屋には入れないのだわよ。おヒメは何か考えてると思うけど』
梓星ゆえが久寝ねねこから説明を受けている。
「なんだ。そんなことなら」
ヒメが止める間もなく、梓星ゆえが金庫室に入って行った。
「え…?」
しかし何も起こらなかった。
レーザーは発射されない。
梓星ゆえはそのまますたすたと歩いて金庫の前に行くと、剣で鍵を破壊し、番号カードを持って出て来た。
「ゆえちゃん?どうやって?」
「簡単さ」
白い歯を見せて笑う梓星ゆえ。彼女が時折見せる、庶民の運命を弄ぶ絶対者のような王族スマイル。
「梓星は人間じゃない。この地球ではね。だから人間に反応するレーザーは、梓星には反応しない。それだけのことさ」
「あ、そっか。あはははは」
ヒメは目の前にいる友人が地球人でないことを改めて思い出し、いっしゅん身を固くした。
とはいえ自分も既に人間の域は越えているのだ。と、気が付く。
『二人とも。もうすぐマッチョロボが再起動するぜ。急ぎな』
「わかった!」
ヒメと梓星ゆえは階段へ走った。次は13階、ヌエペックスのフロアだ。
ここは何の用もないし、特に警備も無い。ただ通過すればいいはずだった。
13階へ上ったヒメが見たのは、14階への階段を埋め尽くす、そして13階フロアにすし詰めになったマッチョ警備ロボ。乳首の位置から赤いセンサービームを発射している。
つまり起動している。
『ちょっ!?ちょっとくすみねねこ!なにしてんの!?』
スマホの久寝ねねこが慌てる。
「ほう。本当に来たな盗人ども!たまにはタレコミも信じてみるもんだ」
マッチョロボの背後から声。
肩にロボットアームをつけた筋骨隆々の男、カイリキ警備主任だ。
「ひっ」ヒメはどうしてもあの男が苦手だった。なぜかはわからないが根源的恐怖を感じる。
「急遽マッチョロボを増量しておいて正解だったぜ」
「ぞう…りょう?」言葉を絞り出すヒメ。
「ああん?お前らガキか? だがまぁ、せっかくここまで来たんだ。痛い目にあってもらうぜ」
気が付けば12階からも再起動したマッチョロボが、ダブルバイセップスのポーズで押し寄せてきていた。マッチョロボが完全に同じ顔で、一斉に口を開いた。
「HAHAHA YOU LOSE!!」
最初に動いたのは梓星ゆえだった。剣の一閃が手前にいたマッチョロボの首を刎ねる。ばん。と、破裂音がした。どうやら彼女の剣は音速をゆうに超えているらしい。
そうだ。戦わなくちゃ。絶対に捕まるわけにはいかない。ヒメは我に返った。異次元収納から鉄の剣を取り出す。
「"エキルボーレ"!!」
ヒメの指から雷がほとばしり、2体のマッチョロボとカイリキ主任に直撃する。
雷の魔法エキルボーレ。電撃で相手に大ダメージを与える。なぜか異世界ではあまり使う機会がなかった魔法、それが今役に立つ。
命中したロボと主任は、煙を上げて倒れ伏した。
その間にも梓星ゆえが、まるで宮廷舞踏のような優雅にすら見える動きで、次々と剣技をくりだしていた。頭を貫かれ、あるいは動力部を貫かれ、あるいは両断され倒れていくマッチョロボ。
ヒメも負けじと鉄の剣でマッチョロボを切り裂き、首を刎ね、あるいは数体まとめて投げ飛ばした。50体ほど片付けただろうか。二人で背をカバーし、一息つく。
「やるねつづりちゃん。それほどの使い手は、エルムアウリーの騎士にもいないよ。どこでその技を?」
「んーとね。ひみつ!」
「いいね。秘密は女の子を魅力的にする」
ヒメはまたマッチョロボに斬りかかった。その時だった。突如背後から猛烈な力で抱きしめられた。人間の腕が二本。そしてロボットアームが二本。カイリキ主任!意識を失ったふりをしていたのだ。
「ぐぐっ!」
「悪いなお嬢ちゃん。大した腕だが、くぐってきた戦いの場数が違うんだよ!」
「つづり!」梓星ゆえが助けに来ようとするが、マッチョロボの壁に阻まれる。
「このまま絞め落としてやるぜ!!」腕に力を込めるカイリキ主任。
全力を出せば勇者ヒメの力ならば振りほどける。しかしどうしてもこの男に対する恐怖感から、体に力が入らない。
何か手は?
…こうなったら!!
「"エキルボーレ"!!」
ヒメの指から雷が飛び出し、ヒメ自身を直撃した。そしてそれに抱き着いているカイリキ主任にも。
「な、なにを…!?」
ひるむカイリキ主任。ヒメはかまわなかった。
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
雷が何度も炸裂し、ヒメをカイリキ主任を輝かせる。
「や、やめ…」
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
腕から力が抜けた。どすんと音を立てて倒れる、気絶したカイリキ主任。
「電流を浴びた場数が違うんだよっ!」
それを見下ろし、煙を上げながらも平然とヒメが言った。
しかしマッチョロボはまだ100体以上が残っている。再びダブルバイセップスのポーズでヒメを包囲した。
剣を構えるヒメ。
突然、マッチョロボたちの胸の赤い光が消え、金属音を立てて倒れ始める。見れば梓星ゆえも無事な様子で、残骸の山の中で、優雅に剣を収めた。
スマホから久寝ねねこの声。どうやらあの電撃でも壊れなかったようだ。さすがipon。
『ふぅ、ようやくヌエペックスを無力化したよぉ。手こずらせやがって、へのへのざこっぴがよぉ』
「ありがとう、ねねこちゃん」
『でも今の騒ぎで、11階の警備員たちに気づかれたよ。扉を封鎖して時間を稼いどるけど、さっさと大金庫にいってね』
「そうだね。急ごう」梓星ゆえがうなずく。
ヒメたちは14階への階段を駆け上った。
広場に据えられた金のゴチクン社長像の脇に、一人の少女の姿があった。
黒いツーサイドアップの髪、水色スカートにショルダーバッグ、頭の上には水色のティアラが浮かんでいる。背は低く幼げな顔の美少女。口元は水色の覆面で隠しているが、まぎれもなく乙姫つづりであった。
スマホからねねこの声。
『行くんじゃな? 12階のマッチョ警備ロボはすぐにでもストップできるよ。ただヌエペックスが気づいて再起動させるまで5分ってところだと思う』
「わかった」
ビルの上階を見上げるヒメ。
ヒメは異次元収納ボックスからハンマーと大きな壺を取り出した。
「いくよ。一気に12階まで飛ぶ」
『ホンキ?まぁいいけど』
ヒメは壺に飛び込んだ。
「ちょっと待って」
背後から声。
ヒメが振り返ると、夜の広場をこちらにやってくる人影。
梓星ゆえだった。ヒメと同じく口を覆面で隠している。
「壺に入って何をしようとしてるのか知らないけど、梓星も行くよ」
おどろくヒメ。
「ゆえちゃん…どうしてここに?」
「別に不思議なことじゃない。ねねこから聞いたよ。今夜、作戦決行だって」
「あ、そっか」
「大丈夫。足手まといにはならないよ」
見れば梓星ゆえは腰に剣を差し、脚のホルスターに拳銃を入れていた。
「戦いにいくわけじゃないんだけど」
「そうならなければ結構だね。さあ、行こうか」
壺に入る梓星ゆえ。
ディオゲネスお兄ちゃん用の壺と同サイズなので、少女二人なら十分な余裕があった。
「じゃあ行くよ。何を見ても驚かないでね」
「ふふ。もうこの壺が空中から出てくるところ見てるからね」
うなずくヒメ。
そしてヒメはハンマーを振りかぶり、ゴチクン社長像を叩いた。少女二人が乗った壺は天高く舞い上がった。そのままゴチクン・キンニクビルの12階に突っ込む。ガラス窓はぶち破るしかない。11階の警備員にまで音が届くかは運しだいだ。
しかし壺が窓に衝突する寸前、梓星ゆえの剣が閃いた。
瞬時の早業だった。勇者になっていなければ、ヒメには梓星ゆえが剣を抜いたことすらわからなかっただろう。ガラス窓が丸く切り抜かれていた。とはいえこのままでは衝突することに違いは無い。
「異次元収納ボックス!!」
ヒメは咄嗟の判断で、切り抜かれたガラスを異次元収納ボックスに送り込んだ。ぽっかりと開いた穴を通って、壺は12階の廊下に着地した。
「ゆえちゃん、すごいね!!」
「これでも王子だからね。武術は一通り身に着けている。ヒメこそ地球人の身体能力とは思えないけど」
「あー、それはちょっと込み入った事情があって」
「それにあれだけ強く打ったのに、ゴチクン社長像が壊れなかったのは?」
「あれはね、作用と反作用の両方を自分に向けることで、何も壊さずに推進力だけを得るディオゲネス式打撃法だよ」
「??? 地球の科学はよくわからないや」
『おい、お二人さん。のんびり話してる時間はないじゃろ』
スマホのねねこから突っ込みが入る。
「そうだ。金庫室に急がないと」
「うん」
ヒメは壺とハンマーを異次元収納に入れて、廊下を駆けはじめた。
梓星ゆえも続く。
途中の廊下には多数のマッチョ警備ロボが、ダブルバイセップスのポーズを決めて立っていた。動力が落ちているらしく、こちらには反応しない。
ヒメは頭に叩き込んだ地図を思い出しながら走った。ここは西側通路。三つ目の通路を右に曲がって、すぐの大扉。
これといって妨害を受けずに、金庫室前に辿り着いた。扉は施錠されている。
『扉を開けるぞ』
久寝ねねこから通信。厚い金属製の扉ががしゃりと開いた。
引っ張り開けるヒメ。
さて問題はここからだ。
金庫室内部には多数の金庫が並んでいる。番号カードがある位置もわかっていた。しかし入れば致死性のレーザー。勇者であるヒメの体力なら耐えられるかもしれない。かといってこんなところで賭けに出るのは気がすすまない。やはり魔法でレーザー銃かセンサーを破壊する。それがベストだ。
『…というわけで、部屋には入れないのだわよ。おヒメは何か考えてると思うけど』
梓星ゆえが久寝ねねこから説明を受けている。
「なんだ。そんなことなら」
ヒメが止める間もなく、梓星ゆえが金庫室に入って行った。
「え…?」
しかし何も起こらなかった。
レーザーは発射されない。
梓星ゆえはそのまますたすたと歩いて金庫の前に行くと、剣で鍵を破壊し、番号カードを持って出て来た。
「ゆえちゃん?どうやって?」
「簡単さ」
白い歯を見せて笑う梓星ゆえ。彼女が時折見せる、庶民の運命を弄ぶ絶対者のような王族スマイル。
「梓星は人間じゃない。この地球ではね。だから人間に反応するレーザーは、梓星には反応しない。それだけのことさ」
「あ、そっか。あはははは」
ヒメは目の前にいる友人が地球人でないことを改めて思い出し、いっしゅん身を固くした。
とはいえ自分も既に人間の域は越えているのだ。と、気が付く。
『二人とも。もうすぐマッチョロボが再起動するぜ。急ぎな』
「わかった!」
ヒメと梓星ゆえは階段へ走った。次は13階、ヌエペックスのフロアだ。
ここは何の用もないし、特に警備も無い。ただ通過すればいいはずだった。
13階へ上ったヒメが見たのは、14階への階段を埋め尽くす、そして13階フロアにすし詰めになったマッチョ警備ロボ。乳首の位置から赤いセンサービームを発射している。
つまり起動している。
『ちょっ!?ちょっとくすみねねこ!なにしてんの!?』
スマホの久寝ねねこが慌てる。
「ほう。本当に来たな盗人ども!たまにはタレコミも信じてみるもんだ」
マッチョロボの背後から声。
肩にロボットアームをつけた筋骨隆々の男、カイリキ警備主任だ。
「ひっ」ヒメはどうしてもあの男が苦手だった。なぜかはわからないが根源的恐怖を感じる。
「急遽マッチョロボを増量しておいて正解だったぜ」
「ぞう…りょう?」言葉を絞り出すヒメ。
「ああん?お前らガキか? だがまぁ、せっかくここまで来たんだ。痛い目にあってもらうぜ」
気が付けば12階からも再起動したマッチョロボが、ダブルバイセップスのポーズで押し寄せてきていた。マッチョロボが完全に同じ顔で、一斉に口を開いた。
「HAHAHA YOU LOSE!!」
最初に動いたのは梓星ゆえだった。剣の一閃が手前にいたマッチョロボの首を刎ねる。ばん。と、破裂音がした。どうやら彼女の剣は音速をゆうに超えているらしい。
そうだ。戦わなくちゃ。絶対に捕まるわけにはいかない。ヒメは我に返った。異次元収納から鉄の剣を取り出す。
「"エキルボーレ"!!」
ヒメの指から雷がほとばしり、2体のマッチョロボとカイリキ主任に直撃する。
雷の魔法エキルボーレ。電撃で相手に大ダメージを与える。なぜか異世界ではあまり使う機会がなかった魔法、それが今役に立つ。
命中したロボと主任は、煙を上げて倒れ伏した。
その間にも梓星ゆえが、まるで宮廷舞踏のような優雅にすら見える動きで、次々と剣技をくりだしていた。頭を貫かれ、あるいは動力部を貫かれ、あるいは両断され倒れていくマッチョロボ。
ヒメも負けじと鉄の剣でマッチョロボを切り裂き、首を刎ね、あるいは数体まとめて投げ飛ばした。50体ほど片付けただろうか。二人で背をカバーし、一息つく。
「やるねつづりちゃん。それほどの使い手は、エルムアウリーの騎士にもいないよ。どこでその技を?」
「んーとね。ひみつ!」
「いいね。秘密は女の子を魅力的にする」
ヒメはまたマッチョロボに斬りかかった。その時だった。突如背後から猛烈な力で抱きしめられた。人間の腕が二本。そしてロボットアームが二本。カイリキ主任!意識を失ったふりをしていたのだ。
「ぐぐっ!」
「悪いなお嬢ちゃん。大した腕だが、くぐってきた戦いの場数が違うんだよ!」
「つづり!」梓星ゆえが助けに来ようとするが、マッチョロボの壁に阻まれる。
「このまま絞め落としてやるぜ!!」腕に力を込めるカイリキ主任。
全力を出せば勇者ヒメの力ならば振りほどける。しかしどうしてもこの男に対する恐怖感から、体に力が入らない。
何か手は?
…こうなったら!!
「"エキルボーレ"!!」
ヒメの指から雷が飛び出し、ヒメ自身を直撃した。そしてそれに抱き着いているカイリキ主任にも。
「な、なにを…!?」
ひるむカイリキ主任。ヒメはかまわなかった。
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
雷が何度も炸裂し、ヒメをカイリキ主任を輝かせる。
「や、やめ…」
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
「"エキルボーレ"!!」
腕から力が抜けた。どすんと音を立てて倒れる、気絶したカイリキ主任。
「電流を浴びた場数が違うんだよっ!」
それを見下ろし、煙を上げながらも平然とヒメが言った。
しかしマッチョロボはまだ100体以上が残っている。再びダブルバイセップスのポーズでヒメを包囲した。
剣を構えるヒメ。
突然、マッチョロボたちの胸の赤い光が消え、金属音を立てて倒れ始める。見れば梓星ゆえも無事な様子で、残骸の山の中で、優雅に剣を収めた。
スマホから久寝ねねこの声。どうやらあの電撃でも壊れなかったようだ。さすがipon。
『ふぅ、ようやくヌエペックスを無力化したよぉ。手こずらせやがって、へのへのざこっぴがよぉ』
「ありがとう、ねねこちゃん」
『でも今の騒ぎで、11階の警備員たちに気づかれたよ。扉を封鎖して時間を稼いどるけど、さっさと大金庫にいってね』
「そうだね。急ごう」梓星ゆえがうなずく。
ヒメたちは14階への階段を駆け上った。