おとひめつづりはあくやくれいじょう
放課後。モークロック学園の美術室。
体育着姿のヒメとネマの姿があった。
「ヒメ様。なんで美術室で練習するんですか?」
「なんでって、他の連中に見られたら秘密の特訓にならないじゃん」
二人の足を結び合わせるヒメ。
「いい?ヒメとネマは背丈がだいたい同じ。これは二人三脚ですごく有利なことなの」
「…えっ…?」
「あとは声を出してとにかく息を合わせること。これから毎日練習をすれば、じゅうぶん1位を狙えるよ」
「はぁ…」
気のない返事をするネマ。
「どうしたの?ネマ」
「い、いえ、ヒメ様がそこまで二人三脚に本気だとは思わなくて」
「え?」
「だってネマもヒメ様も進学先は王立魔法院じゃないですか。騎士見習いになるカイドーさんとは違います。べつに肉体競技で1位を狙わなくても……」
う。
それはそうだ。
でも、ギン・フレとカイドーの好感度を上げるためとは言えない。
「そりゃ上位になれれば嬉しいですけど、そんなのネマには無理ですし…」
「何事にも全力で取り組む。それが大事なんだよネマ」
「はあ」
「あきらめたらそこで試合終了ってね。最初からあきらめてたら話にならないよ。大丈夫!ヒメたちならできる!わかった?」
「はあ」
「ペンチと焼きゴテ、どっちがいい?」
「全力で挑ませていただきます」
「じゃあ練習練習!1・2!1・2!」
「きゃあ!」
すってんころりん。
絶望的に息が合わない。
「ネマ。これは特訓がいる。わかった?」
「はい~」
----------------
数日後。実技披露会当日。モークロック学園の運動場。
在校生の親族の貴族たちや、王国軍・魔法師団の関係者が来賓として招かれており、実に華やかな様子である。
カイドーは剣術、ギン・フレは防御の魔法実技でそれぞれ1位をとったようだ。
競技は次々と進み、いよいよ二人三脚。
スタートラインにヒメとネマの姿があった。
重装歩兵の伝統競技だけあって、周囲はいかつい男子だらけである。
「ヒメ様」
「ネマ。いくよ」
教官がスタートの笛を吹いた。
飛び出す2人。
「「1・2!! 1・2!!」」
観客席がどよめく。
そこには完璧に息のあった二人の姿があった。
「「1・2!! 1・2!!」」
あっという間に男子たちを置き去りにし、全力疾走に近い速度で走るヒメとネマ。
「ライヒメシア様ー!!」
「ネマ様ー!!」
同級生たちから声援が投げかけられる。
気が付けばぶっちぎりでゴールラインを切っていた。
「ライヒメシア様。ネマ様。お見事でした」
「さすがヒメ様だぜ。ネマ、見直したぜ」
息を整えていると。ギン・フレとカイドーが祝福にやってきた。
「なにもかもネマが頑張ってくれたおかげだよ」
「いえ、全てヒメ様のおかげです。まさか1位になれるなんて…!!
ネマが1位になれるだなんて!!」
はしゃぐネマ。よほど嬉しかったらしい。
「貴方の結果は貴方の努力の成果ですよ、ネマ様」
ギン・フレが優しく言葉をかける。
「そうだぞ。立派な成績だ。誇れ、ネマ」
カイドーが笑った。
…さて、これで少しは好感度が稼げた。
が。
これで明後日の卒業式までに、どちらかと彼女が結ばれるだろうか?
…無理だろうなぁ。
--------------------
そして卒業式の日。
荘厳な大講堂に並ぶヒメたち卒業生。正面の演壇には教師陣が座る。
この日がきてしまった。
隣の席のネマの顔を覗き込むヒメ。
にっこりと微笑み返してくるネマ。
特に変化は感じられない。
うーん。
どうなるだろうなぁ。考え込むヒメ。
このままでは彼女とカイドーのつながりは完全に断たれてしまう。
同じ王立魔法院に進学するギン・フレはまだ見込みがあるが、彼は結婚する。
世界の崩壊とやらまで、あとどれだけ猶予があるか…。
校長が講壇に立ち、長々とした挨拶を始める。
内容は全く頭に入ってこない。
むしろ目が回ってくる。
「うっ」
ヒメは、猛烈なめまいに襲われた。それと吐き気。
自分の内側に、なにか、いる。
いや、違う。
自分の中にいるライヒメシアの、さらに内側から何かが湧き上がってくる。
「ヒメ様、どうしました?」
不安そうにこちらを見るネマ。
「ネマ…ヒメから離れて」
「え?」
「早くっ!!」
ヒメの内側から黄色と赤の混じった、邪悪なエネルギーの波動が溢れだした。
光の爆発のごとく、周囲の生徒数人を弾き飛ばす。
講堂が悲鳴であふれる。
エネルギーは演壇に飛んでいき、丸まり、実体化して、間一髪逃げ出した教師陣席に落下し、押しつぶした。
それは巨大な黄色い毛のないトリだった。
「…我は魔王ゴチクン。世界を崩壊させるもの」
トリが重々しい声で宣言する。
凍り付く講堂内。
ヒメは激しい頭痛に耐えながらスマホを操作した。
Tuduri Ch.乙姫つづり
あれなに?
10:51
女神ちゃん☆
この世界の負のエネルギーの集積体だよ。
世界を繁栄させる代わりに、定期的に出現するんだ。 10:51
女神ちゃん☆
乙姫つづりちゃんの中にいただなんて、女神びっくり!
あれを倒すのが王家の愛の力なの(⋈◍>◡<◍)✧♡ 10:51
Tuduri Ch.乙姫つづり
じゃあもうこの世界、崩壊するってこと?
10:51
女神ちゃん☆
うん、こっちに戻ってくる?
10:51
スマホをバッグに戻すヒメ。
生徒たちが講堂の入り口から逃げ出そうとする。
しかし扉は邪悪な黄色いオーラに塞がれてしまった。
魔王ゴチクンが笑う。
「男は殺す。女は〇してから殺す。一人も逃さん」
ヒメは焦った。
武器。せめて何か武器は無いか。
武器があれば自分は勇者。戦えるはずだ。
「ヒメ様。これを」
いつの間にか、ユーネが隣に立っていた。
その手には…
「鉄の剣!!? ユーネ、どうやって講堂の中に?」
「ユーネはいつでもヒメ様のおそばにおります」
にこりとするユーネ。
うなずいて剣を握るヒメ。魔王ゴチクンの前に飛び出した。
「ステータスオープン!!!」
乙姫つづり 勇者
LV 999
魔王ゴチクン 魔王
LV 999
互角!
なんとかなる。はず!
「なんだ小娘。まさか我に抵抗するつもりか」
「はずれ。倒すつもりだよ」
剣を構えるヒメ。
「ふん。捻りつぶしてくれる」
魔王のくちばしが疾風のごとき素早さでヒメを突いた。
それを人間の限界を超えた反射で、剣で受けるヒメ。
衝撃で周囲の椅子が吹き飛び、足元の床がひび割れた。
「『ガキコリオ!!』」
ヒメの氷の魔法。氷漬けになる魔王ゴチクン。
しかし即座に氷を砕き脱出する。
「お前が今代の勇者か?王家の血は感じぬが…」
首をかしげる魔王。
「いずれにせよ敵は滅ぼすのみ」
「こっちのセリフだよ。
魔王が勇者に勝った試し無し!!かかってこい!!」
魔王はくちばしの突きの連打をヒメに叩きつけた。
それを全てさばき切るヒメ。反撃の斬撃を繰り出す。
しかし硬い羽に阻まれ決定打にはならない。
形勢は互角。
両者距離をとった。
そこに。
「俺たちも加勢するぜ!!!」
遠巻きに見守っていた生徒たちの中から、カイドーと数人の生徒が飛び出した。
手に手に剣を持っている。
あれは!?
そうか、講堂内に飾られていた鎧から武器を取ったのか。
しかし無謀だ!!
「ザコは灰になれ」
魔王ゴチクンの口から、炎の塊がカイドーたちに放たれた。
ヒメと同等の魔法力。まともな人間が受ければ即死。
「カイドー!!!!」
叫びをあげて飛び出した者がいた。ギン・フレだった。
カイドーたちの前に立ち、魔法のシールドを展開。
しかしギン・フレと魔王では魔力が違いすぎる。
「ウオオオオオオ!!!!!!」
全力を絞りつくすギン・フレ。
魔力を、体力を、そして寿命までもを削って、なんとか魔王の炎を防ぎ切った。
「お、お前、なんでそこまで…」
カイドーが傷つき倒れたギン・フレを抱き上げる。
「ふっ、そりゃあ…友達だから…」
「ギン・フレ!!」
魔王と切り結んでいたヒメが叫ぶ。
「いま言わないと一生後悔するよ!!本当のあなたの気持ちを!!」
雷に撃たれたかのように目を見開くギン・フレ。
そして、カイドーの目を見つめて言った。
「カイドー…愛してる」
「ギン・フレ…!」
見つめ合う二人。
その体から黄金の輝きがあふれだし、光の剣になった。
ヒメは内心で歓喜した。
愛の力は、王家の血を引いた者同士であれば、誰でも良かったんだ。
それが男同士でも!!むしろ最高!!!
「ネマ!!あの剣を持ってきて」
「はい!」
生徒たちの中から抜け出してきたネマが光の剣を取る。
ヒメは魔王と距離をとり、ネマの手に手を添えた。
「いい?ヒメといっしょに、あの魔王に一撃をいれるよ」
「は、はい。でもネマがあの魔王に近づけるでしょうか…?」
「息を合わせていけば、絶対に大丈夫。1・2の3だよ」
「…わかりました。ヒメを信じます」
魔王に向かって走り込む二人。
「「1・2!!1・2!!1・2の3!!!」」
--------------
壁天井が崩れ落ち、演壇は完全に破壊され、椅子は吹き飛び、
廃墟のようになったモークロック学園講堂。
ライヒメシアは固い床の上で目をさました。
いや、頭はやわらかい膝の上にのっている。
目を開ける。
視界に入ってきたのは、ネマの顔。
優しい笑顔のネマの顔。
「ヒメ様…いえ、ライヒメシア様。お目覚めになったのですね」
「ええ。夢をみていましたわ…」
ライヒメシアは身を起そうとしたが、疲労が強かったので、今少し身を預ける。
「短い夢だったような。しかし、とても長い夢だった気がします」
「そうですか」
微笑むネマ。
ライヒメシアは少し躊躇ってから言った。
「もし貴方が嫌でなければ…
それに、私を許してくださるなら、お友達になっていただけないかしら」
「…喜んで」
二人はもうしばらくこうしていることにした。
----------------------------
乙姫つづりが目覚めると、そこは暗い個人用防音室の中だった。
そうだ、自分は……配信を…そうだ配信中だったはず!!!
ダメダ・メーはロマちゃんが配信を継続したと言っていたが。
慌ててPCの画面を確認する。
配信は既に終了していた。
終了後の画面に視聴者コメントが並んでいる。
『ロマちゃん最高。完全にヒメを越えたな』
『つづり不要説』
『これからはロマちゃん推しになります』
『ヒメの登録解除しました』
…
……
………
スマホに通知音。
女神ちゃん☆
ねーねー今回の冒険たのしかったでしょー♪
23:12
女神ちゃん☆
これから二人で打ち上げ行かない?ね?ね?
23:12
女神ちゃん☆
女神、友達と打ち上げとかはじめて(≧∇≦*)
23:12
女神ちゃん☆
見てるー?起きたらすぐ返事してねー? ヾ(*'▽'*)ノ♪
23:12
…
…
殺す。
END
体育着姿のヒメとネマの姿があった。
「ヒメ様。なんで美術室で練習するんですか?」
「なんでって、他の連中に見られたら秘密の特訓にならないじゃん」
二人の足を結び合わせるヒメ。
「いい?ヒメとネマは背丈がだいたい同じ。これは二人三脚ですごく有利なことなの」
「…えっ…?」
「あとは声を出してとにかく息を合わせること。これから毎日練習をすれば、じゅうぶん1位を狙えるよ」
「はぁ…」
気のない返事をするネマ。
「どうしたの?ネマ」
「い、いえ、ヒメ様がそこまで二人三脚に本気だとは思わなくて」
「え?」
「だってネマもヒメ様も進学先は王立魔法院じゃないですか。騎士見習いになるカイドーさんとは違います。べつに肉体競技で1位を狙わなくても……」
う。
それはそうだ。
でも、ギン・フレとカイドーの好感度を上げるためとは言えない。
「そりゃ上位になれれば嬉しいですけど、そんなのネマには無理ですし…」
「何事にも全力で取り組む。それが大事なんだよネマ」
「はあ」
「あきらめたらそこで試合終了ってね。最初からあきらめてたら話にならないよ。大丈夫!ヒメたちならできる!わかった?」
「はあ」
「ペンチと焼きゴテ、どっちがいい?」
「全力で挑ませていただきます」
「じゃあ練習練習!1・2!1・2!」
「きゃあ!」
すってんころりん。
絶望的に息が合わない。
「ネマ。これは特訓がいる。わかった?」
「はい~」
----------------
数日後。実技披露会当日。モークロック学園の運動場。
在校生の親族の貴族たちや、王国軍・魔法師団の関係者が来賓として招かれており、実に華やかな様子である。
カイドーは剣術、ギン・フレは防御の魔法実技でそれぞれ1位をとったようだ。
競技は次々と進み、いよいよ二人三脚。
スタートラインにヒメとネマの姿があった。
重装歩兵の伝統競技だけあって、周囲はいかつい男子だらけである。
「ヒメ様」
「ネマ。いくよ」
教官がスタートの笛を吹いた。
飛び出す2人。
「「1・2!! 1・2!!」」
観客席がどよめく。
そこには完璧に息のあった二人の姿があった。
「「1・2!! 1・2!!」」
あっという間に男子たちを置き去りにし、全力疾走に近い速度で走るヒメとネマ。
「ライヒメシア様ー!!」
「ネマ様ー!!」
同級生たちから声援が投げかけられる。
気が付けばぶっちぎりでゴールラインを切っていた。
「ライヒメシア様。ネマ様。お見事でした」
「さすがヒメ様だぜ。ネマ、見直したぜ」
息を整えていると。ギン・フレとカイドーが祝福にやってきた。
「なにもかもネマが頑張ってくれたおかげだよ」
「いえ、全てヒメ様のおかげです。まさか1位になれるなんて…!!
ネマが1位になれるだなんて!!」
はしゃぐネマ。よほど嬉しかったらしい。
「貴方の結果は貴方の努力の成果ですよ、ネマ様」
ギン・フレが優しく言葉をかける。
「そうだぞ。立派な成績だ。誇れ、ネマ」
カイドーが笑った。
…さて、これで少しは好感度が稼げた。
が。
これで明後日の卒業式までに、どちらかと彼女が結ばれるだろうか?
…無理だろうなぁ。
--------------------
そして卒業式の日。
荘厳な大講堂に並ぶヒメたち卒業生。正面の演壇には教師陣が座る。
この日がきてしまった。
隣の席のネマの顔を覗き込むヒメ。
にっこりと微笑み返してくるネマ。
特に変化は感じられない。
うーん。
どうなるだろうなぁ。考え込むヒメ。
このままでは彼女とカイドーのつながりは完全に断たれてしまう。
同じ王立魔法院に進学するギン・フレはまだ見込みがあるが、彼は結婚する。
世界の崩壊とやらまで、あとどれだけ猶予があるか…。
校長が講壇に立ち、長々とした挨拶を始める。
内容は全く頭に入ってこない。
むしろ目が回ってくる。
「うっ」
ヒメは、猛烈なめまいに襲われた。それと吐き気。
自分の内側に、なにか、いる。
いや、違う。
自分の中にいるライヒメシアの、さらに内側から何かが湧き上がってくる。
「ヒメ様、どうしました?」
不安そうにこちらを見るネマ。
「ネマ…ヒメから離れて」
「え?」
「早くっ!!」
ヒメの内側から黄色と赤の混じった、邪悪なエネルギーの波動が溢れだした。
光の爆発のごとく、周囲の生徒数人を弾き飛ばす。
講堂が悲鳴であふれる。
エネルギーは演壇に飛んでいき、丸まり、実体化して、間一髪逃げ出した教師陣席に落下し、押しつぶした。
それは巨大な黄色い毛のないトリだった。
「…我は魔王ゴチクン。世界を崩壊させるもの」
トリが重々しい声で宣言する。
凍り付く講堂内。
ヒメは激しい頭痛に耐えながらスマホを操作した。
Tuduri Ch.乙姫つづり
あれなに?
10:51
女神ちゃん☆
この世界の負のエネルギーの集積体だよ。
世界を繁栄させる代わりに、定期的に出現するんだ。 10:51
女神ちゃん☆
乙姫つづりちゃんの中にいただなんて、女神びっくり!
あれを倒すのが王家の愛の力なの(⋈◍>◡<◍)✧♡ 10:51
Tuduri Ch.乙姫つづり
じゃあもうこの世界、崩壊するってこと?
10:51
女神ちゃん☆
うん、こっちに戻ってくる?
10:51
スマホをバッグに戻すヒメ。
生徒たちが講堂の入り口から逃げ出そうとする。
しかし扉は邪悪な黄色いオーラに塞がれてしまった。
魔王ゴチクンが笑う。
「男は殺す。女は〇してから殺す。一人も逃さん」
ヒメは焦った。
武器。せめて何か武器は無いか。
武器があれば自分は勇者。戦えるはずだ。
「ヒメ様。これを」
いつの間にか、ユーネが隣に立っていた。
その手には…
「鉄の剣!!? ユーネ、どうやって講堂の中に?」
「ユーネはいつでもヒメ様のおそばにおります」
にこりとするユーネ。
うなずいて剣を握るヒメ。魔王ゴチクンの前に飛び出した。
「ステータスオープン!!!」
乙姫つづり 勇者
LV 999
魔王ゴチクン 魔王
LV 999
互角!
なんとかなる。はず!
「なんだ小娘。まさか我に抵抗するつもりか」
「はずれ。倒すつもりだよ」
剣を構えるヒメ。
「ふん。捻りつぶしてくれる」
魔王のくちばしが疾風のごとき素早さでヒメを突いた。
それを人間の限界を超えた反射で、剣で受けるヒメ。
衝撃で周囲の椅子が吹き飛び、足元の床がひび割れた。
「『ガキコリオ!!』」
ヒメの氷の魔法。氷漬けになる魔王ゴチクン。
しかし即座に氷を砕き脱出する。
「お前が今代の勇者か?王家の血は感じぬが…」
首をかしげる魔王。
「いずれにせよ敵は滅ぼすのみ」
「こっちのセリフだよ。
魔王が勇者に勝った試し無し!!かかってこい!!」
魔王はくちばしの突きの連打をヒメに叩きつけた。
それを全てさばき切るヒメ。反撃の斬撃を繰り出す。
しかし硬い羽に阻まれ決定打にはならない。
形勢は互角。
両者距離をとった。
そこに。
「俺たちも加勢するぜ!!!」
遠巻きに見守っていた生徒たちの中から、カイドーと数人の生徒が飛び出した。
手に手に剣を持っている。
あれは!?
そうか、講堂内に飾られていた鎧から武器を取ったのか。
しかし無謀だ!!
「ザコは灰になれ」
魔王ゴチクンの口から、炎の塊がカイドーたちに放たれた。
ヒメと同等の魔法力。まともな人間が受ければ即死。
「カイドー!!!!」
叫びをあげて飛び出した者がいた。ギン・フレだった。
カイドーたちの前に立ち、魔法のシールドを展開。
しかしギン・フレと魔王では魔力が違いすぎる。
「ウオオオオオオ!!!!!!」
全力を絞りつくすギン・フレ。
魔力を、体力を、そして寿命までもを削って、なんとか魔王の炎を防ぎ切った。
「お、お前、なんでそこまで…」
カイドーが傷つき倒れたギン・フレを抱き上げる。
「ふっ、そりゃあ…友達だから…」
「ギン・フレ!!」
魔王と切り結んでいたヒメが叫ぶ。
「いま言わないと一生後悔するよ!!本当のあなたの気持ちを!!」
雷に撃たれたかのように目を見開くギン・フレ。
そして、カイドーの目を見つめて言った。
「カイドー…愛してる」
「ギン・フレ…!」
見つめ合う二人。
その体から黄金の輝きがあふれだし、光の剣になった。
ヒメは内心で歓喜した。
愛の力は、王家の血を引いた者同士であれば、誰でも良かったんだ。
それが男同士でも!!むしろ最高!!!
「ネマ!!あの剣を持ってきて」
「はい!」
生徒たちの中から抜け出してきたネマが光の剣を取る。
ヒメは魔王と距離をとり、ネマの手に手を添えた。
「いい?ヒメといっしょに、あの魔王に一撃をいれるよ」
「は、はい。でもネマがあの魔王に近づけるでしょうか…?」
「息を合わせていけば、絶対に大丈夫。1・2の3だよ」
「…わかりました。ヒメを信じます」
魔王に向かって走り込む二人。
「「1・2!!1・2!!1・2の3!!!」」
--------------
壁天井が崩れ落ち、演壇は完全に破壊され、椅子は吹き飛び、
廃墟のようになったモークロック学園講堂。
ライヒメシアは固い床の上で目をさました。
いや、頭はやわらかい膝の上にのっている。
目を開ける。
視界に入ってきたのは、ネマの顔。
優しい笑顔のネマの顔。
「ヒメ様…いえ、ライヒメシア様。お目覚めになったのですね」
「ええ。夢をみていましたわ…」
ライヒメシアは身を起そうとしたが、疲労が強かったので、今少し身を預ける。
「短い夢だったような。しかし、とても長い夢だった気がします」
「そうですか」
微笑むネマ。
ライヒメシアは少し躊躇ってから言った。
「もし貴方が嫌でなければ…
それに、私を許してくださるなら、お友達になっていただけないかしら」
「…喜んで」
二人はもうしばらくこうしていることにした。
----------------------------
乙姫つづりが目覚めると、そこは暗い個人用防音室の中だった。
そうだ、自分は……配信を…そうだ配信中だったはず!!!
ダメダ・メーはロマちゃんが配信を継続したと言っていたが。
慌ててPCの画面を確認する。
配信は既に終了していた。
終了後の画面に視聴者コメントが並んでいる。
『ロマちゃん最高。完全にヒメを越えたな』
『つづり不要説』
『これからはロマちゃん推しになります』
『ヒメの登録解除しました』
…
……
………
スマホに通知音。
女神ちゃん☆
ねーねー今回の冒険たのしかったでしょー♪
23:12
女神ちゃん☆
これから二人で打ち上げ行かない?ね?ね?
23:12
女神ちゃん☆
女神、友達と打ち上げとかはじめて(≧∇≦*)
23:12
女神ちゃん☆
見てるー?起きたらすぐ返事してねー? ヾ(*'▽'*)ノ♪
23:12
…
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殺す。
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