おとひめつづりはあくやくれいじょう
つづりさん…おとひめつづりさん…
遠くから呼ぶ声。
はじめて聞くような。
それでいて、どこか懐かしいような。
銀の鈴のような、透き通った声……
つづりさん…おとひめつづりさん…
「…乙姫つづりさん?」
目を開けると、前にいたのは白い翼を生やした金髪のねーちゃん。
「わたしは女神ダメダ・メー。おひさぶっ!!!」
ヒメの鉄拳が女神の頬にめりこんだ。
---------------------------------
真っ青な空に、真っ白い雲の地面がどこまでも広がる空間。
見渡す限りどこまでも、青と白のコントラストが続いている。
明らかに地球、ではない。
どこか遠くの場所。とてもとても遠い場所。
そこにヒメはいた。
身を起こす。
自分は小さな雲の上に寝かせられていたようだ。
雲の地面に足を下ろした。
立っているような、浮かんでいるような、泳いでいるような、不思議な感覚。
またここに戻ってきた。
「い、いきなり何をするんですか!!?乙姫つづりさん!!?」
なにやらうるさい雑音が耳に入ってくる。
「これは生物としての本能っていうかぁ、当然の条件反射なんでぇ、恨むなら生物の進化過程を恨んでくださぁい」
「ううう、女神をぶつなんて…ママにもぶたれたことないのにぃ…」
うずくまっていじける女神。
「えっ。あなたメガミさんって言うんですか? ヒメ、突然のことなんでよくわかんなくて」
「記憶は戻しましたよ乙姫つづりさん!お芝居をしないでください!」
「ちっ」
ヒメは全てを思い出していた。ここに来るのは初めてではない。
このダ女神と対面するのも。
以前、自分はちょっとした事故でこの次元のはざまに飛ばされ、
このろくでもない女神のろくでもない世界でろくでもない冒険をするはめになったのだ。
思い出したくない記憶だった。
「で、なに?ヒメ、また事故で飛ばされたの?」
「いえ、今回はわたしが呼びました」
「えっなんで?っていうか、ヒメ配信中だったよね?」
「配信はロマさんが代理で継続中です。ご心配なく。交代してから視聴者が200%増加しました」
「もう一発いい?」腕をぐるぐる回すヒメ。
「やめてください。おねがいします」土下座女神。
「続けて」
女神は半泣きになりつつ話した。
「実は乙姫つづりさんに助けていただきたいことが」
「助ける?ヒメが?」
「はい。わたしが新しく創った世界のことなんですが…」
ダメダ・メーが白い腕を軽く振るった。
すると空間に映像が浮かび上がる。
たくさんの塔の生えたお城に、赤い屋根のおもちゃのような街、それに森。
いかにも中世風ファンタジーな世界だ。
すくなくとも前回のクロレ・キッシーよりは、ずっと凝っているように見える。
「愛の世界、オットメ・ゲーと名付けました」
「ふーん。悪くなさそうじゃん」
「ええ。ですがちょっと問題が」
「なに?」
「はい。実はこの世界、崩壊の時が迫ってまして…」
「小学生以下」
「問題の中心はこの少女です」
画面がズームし、いかにも上流階級の学校といった建物の中の、制服姿の少女に収束した。
金髪をおさげにした可愛らしい女の子である。
「彼女の名前はネマ。この世界の今の主人公です」
「今の主人公?」
「はい。王家の血を引く彼女が攻略対象の男性と結ばれ、その愛の力で維持される。
オットメ・ゲーはそういう世界なのです」
「わかった、乙女ゲーの世界だね」
「簡単に言えばそうです。
しかしこのままですと、彼女は誰とも結ばれずに卒業の日を迎えそうなのです」
ダメダ・メーが映像を変えた。
ネマと同じ制服のすらっとした少女が映し出される。
「彼女はライヒメシア侯爵令嬢。ネマの学友です。
乙姫つづりさんには彼女と入れ替わって、ネマのサポートをして欲しいのです」
「入れ替わったらさすがにバレバレなんじゃ?ぜんぜん似てないよ、この子とヒメ」
「まわりの人間には女神ぱわーで違和感を抱かれないようにしておきます」
「その間、もともとのライヒメシア侯爵令嬢はどうなるの?」
「代理をしている間の記憶を抜け落ちさせるわけにもいかないので、乙姫つづりさんの中に、彼女の人格も同居させます。半分眠らせるような感じですが。
肉体はこの次元のはざまに隠します」
ふーん。と、あごに指をあてるヒメ。
「で、なんでヒメなの?」
「え?」
「この世界を救いに行くのに、なんでヒメを呼んだの?」
「えと、その…」
言い淀むダメダ・メー。
「他に頼める人がいなくて……」
あ。ボッチかこいつ。
「しゃーねーなー。救うよ。世界」
女神の表情がぱっと明るくなった。
「よろしくお願いします、乙姫つづりさん!
あと、あちらについたら、スマホで連絡を取ります。
limeの登録しましょう。メアドの交換も。ぜひ、しましょう!!」
「はいはい」
やったぁ!と、大げさにはしゃぐダメダ・メー。
たぶん自分が第一号なんだろうなぁ、とげんなりするヒメだった。
遠くから呼ぶ声。
はじめて聞くような。
それでいて、どこか懐かしいような。
銀の鈴のような、透き通った声……
つづりさん…おとひめつづりさん…
「…乙姫つづりさん?」
目を開けると、前にいたのは白い翼を生やした金髪のねーちゃん。
「わたしは女神ダメダ・メー。おひさぶっ!!!」
ヒメの鉄拳が女神の頬にめりこんだ。
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真っ青な空に、真っ白い雲の地面がどこまでも広がる空間。
見渡す限りどこまでも、青と白のコントラストが続いている。
明らかに地球、ではない。
どこか遠くの場所。とてもとても遠い場所。
そこにヒメはいた。
身を起こす。
自分は小さな雲の上に寝かせられていたようだ。
雲の地面に足を下ろした。
立っているような、浮かんでいるような、泳いでいるような、不思議な感覚。
またここに戻ってきた。
「い、いきなり何をするんですか!!?乙姫つづりさん!!?」
なにやらうるさい雑音が耳に入ってくる。
「これは生物としての本能っていうかぁ、当然の条件反射なんでぇ、恨むなら生物の進化過程を恨んでくださぁい」
「ううう、女神をぶつなんて…ママにもぶたれたことないのにぃ…」
うずくまっていじける女神。
「えっ。あなたメガミさんって言うんですか? ヒメ、突然のことなんでよくわかんなくて」
「記憶は戻しましたよ乙姫つづりさん!お芝居をしないでください!」
「ちっ」
ヒメは全てを思い出していた。ここに来るのは初めてではない。
このダ女神と対面するのも。
以前、自分はちょっとした事故でこの次元のはざまに飛ばされ、
このろくでもない女神のろくでもない世界でろくでもない冒険をするはめになったのだ。
思い出したくない記憶だった。
「で、なに?ヒメ、また事故で飛ばされたの?」
「いえ、今回はわたしが呼びました」
「えっなんで?っていうか、ヒメ配信中だったよね?」
「配信はロマさんが代理で継続中です。ご心配なく。交代してから視聴者が200%増加しました」
「もう一発いい?」腕をぐるぐる回すヒメ。
「やめてください。おねがいします」土下座女神。
「続けて」
女神は半泣きになりつつ話した。
「実は乙姫つづりさんに助けていただきたいことが」
「助ける?ヒメが?」
「はい。わたしが新しく創った世界のことなんですが…」
ダメダ・メーが白い腕を軽く振るった。
すると空間に映像が浮かび上がる。
たくさんの塔の生えたお城に、赤い屋根のおもちゃのような街、それに森。
いかにも中世風ファンタジーな世界だ。
すくなくとも前回のクロレ・キッシーよりは、ずっと凝っているように見える。
「愛の世界、オットメ・ゲーと名付けました」
「ふーん。悪くなさそうじゃん」
「ええ。ですがちょっと問題が」
「なに?」
「はい。実はこの世界、崩壊の時が迫ってまして…」
「小学生以下」
「問題の中心はこの少女です」
画面がズームし、いかにも上流階級の学校といった建物の中の、制服姿の少女に収束した。
金髪をおさげにした可愛らしい女の子である。
「彼女の名前はネマ。この世界の今の主人公です」
「今の主人公?」
「はい。王家の血を引く彼女が攻略対象の男性と結ばれ、その愛の力で維持される。
オットメ・ゲーはそういう世界なのです」
「わかった、乙女ゲーの世界だね」
「簡単に言えばそうです。
しかしこのままですと、彼女は誰とも結ばれずに卒業の日を迎えそうなのです」
ダメダ・メーが映像を変えた。
ネマと同じ制服のすらっとした少女が映し出される。
「彼女はライヒメシア侯爵令嬢。ネマの学友です。
乙姫つづりさんには彼女と入れ替わって、ネマのサポートをして欲しいのです」
「入れ替わったらさすがにバレバレなんじゃ?ぜんぜん似てないよ、この子とヒメ」
「まわりの人間には女神ぱわーで違和感を抱かれないようにしておきます」
「その間、もともとのライヒメシア侯爵令嬢はどうなるの?」
「代理をしている間の記憶を抜け落ちさせるわけにもいかないので、乙姫つづりさんの中に、彼女の人格も同居させます。半分眠らせるような感じですが。
肉体はこの次元のはざまに隠します」
ふーん。と、あごに指をあてるヒメ。
「で、なんでヒメなの?」
「え?」
「この世界を救いに行くのに、なんでヒメを呼んだの?」
「えと、その…」
言い淀むダメダ・メー。
「他に頼める人がいなくて……」
あ。ボッチかこいつ。
「しゃーねーなー。救うよ。世界」
女神の表情がぱっと明るくなった。
「よろしくお願いします、乙姫つづりさん!
あと、あちらについたら、スマホで連絡を取ります。
limeの登録しましょう。メアドの交換も。ぜひ、しましょう!!」
「はいはい」
やったぁ!と、大げさにはしゃぐダメダ・メー。
たぶん自分が第一号なんだろうなぁ、とげんなりするヒメだった。
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