おとひめつづりのだいぼうけん
翌日。朝。
「ヒメ。おはよう!よく眠れた?」
「うん。おへようございまふ」
ユーネが元気よくヒメを叩き起こした。
ここはユーネの部屋。
ヒメは年が近いということでユーネと同室があてがわれた。
この村には壁掛け時計が普及している。現在、午前7時30分。
「さあ、ヒメ。はやく朝の補給をして!」
ユーネが促す。
「ふわぃ」
寝ぼけ眼で部屋をでるヒメ。
村には皆で集まって食事をする習慣が無いようだった。
というか食事、という概念自体が存在しない。
サルミアッキと苦丁茶しかない世界だ。当然かもしれない。
ヒメがテーブルで苦労して『補給』していると、ユーネパパが話しかけてきた。
「さて、つづりさん。勇者様といえど、この村にいる以上は労働に従事してもらわなければなりません。
特に今は収穫の時期で忙しいのです」
「はぁ。わかりました」
まぁ世話になっている以上、文句は言えない。
「労働時間は9時から17時45分を厳守です。若手が活躍する明るくて楽しい職場です。
つづりさんもすぐなじみますよ。ご心配なく」
「はぁ」
「では、すぐ出かけます。おい、ユーネママ、ユーネ。行くぞ」
「え?え?まだ7時45分ですよ!?」
「8時から集会所で朝礼!それから仕事の準備!これが常識ですよ、つづりさん!
ほら、遅刻は大罪です!すぐに行きますよ!」
集会所には昨日より少し減った村人たちが集まっていた。
ヒメは壇上に立つ村長を、ユーネの隣から見守った。
「皆、今日も時間通りによく集まった。
わが村のモットーは『安心・安全・アンビリーバブル。希望に満ちた新たな価値の創造を!!』」
安心・安全・アンビリーバブル。希望に満ちた新たな価値の創造を!!!!
村人たちが唱和する。
「さて、村人にとって何より大切なものは、わが村の伝統である『和』の心である。
全員の一体感である。
しかし昨日それを乱した者がいるな。村人A!!前に出ろ!!」
「はい!!」
村人男性が壇上に上がり、他の村人たちに向かって土下座した。
激しく頭を床に打ち付けた。
そして床に頭をこすりつけたまま絶叫した!
「わたくしわぁ!!さくじつぅ!!神聖なるぅ!!!作業ノルマをぉ!!!果たせませんでしたぁぁアアアアッッ!!!!!」
「なぜ果たせなかった村人A」村長が問う。
「それはぁ!!わたくしのぉぉ!!こんじょうがぁぁ!!たりなかったからでぇぇぇす!!」
「違う。お前に根性などというものは1ミリもない!お前がまだママのおっぱいをすすってる甘ったれだからだっっ!!
このよちよち歩きもできないでくのぼうめ!!!!お前などこの村にいるだけ資源の無駄だあああ!!!!!
この存在価値マイナスのウジ虫以下の寄生虫めがっっ!!!!!寄生虫だ!!わかったか寄生虫!!!
お前は寄生虫だああああっ!!!この寄生虫っっ!!!!寄生虫!!!!寄生虫!!!!!!!」
「はいぃ!!おっしゃるとおりでございまぁぁす!!わたくしは寄生虫でぇぇぇぇす!!!!!」
「お前の今日のノルマは1.5倍とする。戻れ」
村人Aが戻り、次に村人Bが壇上に登り土下座する。
「わたくしわぁ!!こどもが熱をだしぃぃ!!仕事をやすみぃぃ!!皆さんに迷惑をかけてしまいましたぁぁあああ!!」
「謝れば済むと思っているのか?反省とはどういうことだ?わかっているかああああああ!!!!!!???」
「わたくしはぁぁぁ!本日2倍のノルマをぉぉぉおお!こなしまぁぁぁす!!」
「よし、戻れ」
ニコニコ笑顔で見守る村人たち。
「どうしたの?ヒメ?顔色が悪いけど」ユーネが尋ねる。
「ちょ、ちょっと前世の記憶が……」
朝礼が終わり、ヒメはユーネパパに連れられて畑に向かった。
同じサルミアッキ畑には、年配の女性が2人、作業員として割り当てられていた。
「あなたがヒメちゃん?私はオツボネよ」
「私はオコゴト」
「ヒ、ヒメです。よろしくお願いします」
ヒメが挨拶をしていると、ユーネパパが大きな大きな背負いかごを持ってきた。
「さあ、つづりさん。今日は収穫作業です。これを背負ってください」
「ま、まさかこれが今日のノルマですか?」
「はっはっは。まさか」
ユーネパパが朗らかに笑う。
「今日の午前中のノルマですよ」
やがて村の鐘が鳴り、収穫作業がはじまった。
「う…これは…かなりきつい」
サルミアッキ草(仮称)は、背が低い植物だ。
そこからサルミアッキを収穫するには、しゃがみ続けなければならない。
足と膝にかかる負担は、かなりのものである。
またサルミアッキはかなり強固に草部分にくっついており、それをもぎ取るのにも苦労する。
悪戦苦闘していると、オツボネとオコゴトの声が聞こえてきた。
「うわぁーとろいww」「お嬢ちゃん仕事わかる?ww」「あー、勇者さまにはむりかww」
無視無視。こちとら前世で似たようなこと体験済みだ。
それよりも仕事仕事。
しばらくすると収穫も軌道にのってきた。
自分の1列が終わり、他の列に移動する。
「お前なに歩いてるんじゃオイッッ!!!!!???」ユーネパパの怒声。
「はいぃ!」小走りで移動する。
もくもくと作業は続く。
「やぁ勇者殿。仕事はいかがかな」声をかけられた。村長だ。様子を見に来てくれたのか。
「あ、はい。なんとかなってます」
「そうかそうか」近寄ってくる村長。
「ところで、勇者殿はなんというか、背は低く顔も幼く、しかし出るところはしっかり出ており、
なんというか勇者にしておくのはもったいないですのぉ」
腰に手をまわしてくる村長。
「あ、あのー」
「よろしければこの村で、むこの世話などさせていただきますが、いかがかのぉ」
「結構です。失礼します」
かごを置いて脱出するヒメ。
手近にあった村のトイレに入る。
(ふぅ…)
ああ、この村は…完全にあれだ。
前世のあれだ。
つらい記憶がよみがえる。
(ああああ、最悪だよぉぉぉぉ……)
なんとか脱出する手段を考えなければ。それも早急に。でもどうやって。
トイレから畑に戻ると村長の姿は消えていた。
しかし肩を怒らせたオコゴトが待っていた。
「ヒメちゃん。お便所に行くのは班長の許可が必要なのですよ。わかっていますか!?」
「え、でも。ユーネパパさん、さっきからいないし……」
「いなければ副班長であるオツボネさんの許可をとるべきなのです。
まったく勇者という職業の方は、いつでも好きな時にどこでも入って、
荒らし放題だと思っているようですが、この村ではそうはいきません。
だいいち、あなたなんですかその格好は、農作業をやるという自覚が無いんじゃないですか?
あなたを育てた親の顔が見てみたいものですね。……!!……!!」
オコゴトの説教は一時間続いた。
「ふぅ…やっと作業に戻れる……」
「やあ、つづりさん。作業は順調ですか?」ユーネパパが戻ってきた。
「ん!?これだけしか収穫してないなんて、てめェいったいなにをしてたんだーッッ!!!???」
「お、お説教をされて……」
「言い訳するなーーッッッ!!!!」
ユーネパパは地面を踏み鳴らした。
「まったく最近の若い娘ときたら、どうしてこう仕事ができないんだ!!?
これなら森の耳長族でも雇った方が、まだマシだ!!
お前なんか拾ったのが間違いだった!!この食っちゃ寝だけの、のうなしめ!!!
村の資源を食いつぶすだけの寄生虫めがっっ!!!
全員、集まれ!!」
ユーネパパの号令に、畑の全員が集まってくる。
「ほら、全員の前でお前の反省点を言え」
「え、ええ……勝手におトイレに行ってすいませんでしたぁ…」
「声が小せぇ!!!!!たまついてんのかぁぁぁっ!!!!!????」
「勝手におトイレに行ってすいませんでしたぁ!!!!!!」
「よし、作業に戻れ」
その後も作業は続き、17時45分。終業の時間となった。
もちろん仕事がそれで終わるわけがなく『自発的園芸活動』により、ヒメが帰宅したのは21時だった。
「つかれたー」
ベッドに横たわるヒメ。
「おつかれさま」
ユーネが笑う。彼女にとっては、この村が常識であり全てなのだ。
今日の光景も日常の一部なのだろう。
「あ、ヒメ。ヒメの休日は、パパが13日後に申請しておいたから、あとで申請書を書いてね」
「あー、やっぱりそういうシステムね」
大げさに反応する気力すらない。
「ところでヒメ。外の世界って何があるの?お話してくれない?」
「んー。Vtuberって職業の人がいてね。インターネットっていう架空の世界で、たくさんの人に夢をプレゼントしてるんだ」
「???」
「次はユーネの番。この村の西にあるっていう"塔の森"って何?」
「モンスターが棲んでいる危険な森よ。真ん中に塔があって女神さまがいるの。
女神さまに会った人は、どんな願いでも一つだけかなえてもらえるのよ。
でも森が危険すぎて、誰もたどりついた人はいないの」
そ・れ・だ
「ヒメ。おはよう!よく眠れた?」
「うん。おへようございまふ」
ユーネが元気よくヒメを叩き起こした。
ここはユーネの部屋。
ヒメは年が近いということでユーネと同室があてがわれた。
この村には壁掛け時計が普及している。現在、午前7時30分。
「さあ、ヒメ。はやく朝の補給をして!」
ユーネが促す。
「ふわぃ」
寝ぼけ眼で部屋をでるヒメ。
村には皆で集まって食事をする習慣が無いようだった。
というか食事、という概念自体が存在しない。
サルミアッキと苦丁茶しかない世界だ。当然かもしれない。
ヒメがテーブルで苦労して『補給』していると、ユーネパパが話しかけてきた。
「さて、つづりさん。勇者様といえど、この村にいる以上は労働に従事してもらわなければなりません。
特に今は収穫の時期で忙しいのです」
「はぁ。わかりました」
まぁ世話になっている以上、文句は言えない。
「労働時間は9時から17時45分を厳守です。若手が活躍する明るくて楽しい職場です。
つづりさんもすぐなじみますよ。ご心配なく」
「はぁ」
「では、すぐ出かけます。おい、ユーネママ、ユーネ。行くぞ」
「え?え?まだ7時45分ですよ!?」
「8時から集会所で朝礼!それから仕事の準備!これが常識ですよ、つづりさん!
ほら、遅刻は大罪です!すぐに行きますよ!」
集会所には昨日より少し減った村人たちが集まっていた。
ヒメは壇上に立つ村長を、ユーネの隣から見守った。
「皆、今日も時間通りによく集まった。
わが村のモットーは『安心・安全・アンビリーバブル。希望に満ちた新たな価値の創造を!!』」
安心・安全・アンビリーバブル。希望に満ちた新たな価値の創造を!!!!
村人たちが唱和する。
「さて、村人にとって何より大切なものは、わが村の伝統である『和』の心である。
全員の一体感である。
しかし昨日それを乱した者がいるな。村人A!!前に出ろ!!」
「はい!!」
村人男性が壇上に上がり、他の村人たちに向かって土下座した。
激しく頭を床に打ち付けた。
そして床に頭をこすりつけたまま絶叫した!
「わたくしわぁ!!さくじつぅ!!神聖なるぅ!!!作業ノルマをぉ!!!果たせませんでしたぁぁアアアアッッ!!!!!」
「なぜ果たせなかった村人A」村長が問う。
「それはぁ!!わたくしのぉぉ!!こんじょうがぁぁ!!たりなかったからでぇぇぇす!!」
「違う。お前に根性などというものは1ミリもない!お前がまだママのおっぱいをすすってる甘ったれだからだっっ!!
このよちよち歩きもできないでくのぼうめ!!!!お前などこの村にいるだけ資源の無駄だあああ!!!!!
この存在価値マイナスのウジ虫以下の寄生虫めがっっ!!!!!寄生虫だ!!わかったか寄生虫!!!
お前は寄生虫だああああっ!!!この寄生虫っっ!!!!寄生虫!!!!寄生虫!!!!!!!」
「はいぃ!!おっしゃるとおりでございまぁぁす!!わたくしは寄生虫でぇぇぇぇす!!!!!」
「お前の今日のノルマは1.5倍とする。戻れ」
村人Aが戻り、次に村人Bが壇上に登り土下座する。
「わたくしわぁ!!こどもが熱をだしぃぃ!!仕事をやすみぃぃ!!皆さんに迷惑をかけてしまいましたぁぁあああ!!」
「謝れば済むと思っているのか?反省とはどういうことだ?わかっているかああああああ!!!!!!???」
「わたくしはぁぁぁ!本日2倍のノルマをぉぉぉおお!こなしまぁぁぁす!!」
「よし、戻れ」
ニコニコ笑顔で見守る村人たち。
「どうしたの?ヒメ?顔色が悪いけど」ユーネが尋ねる。
「ちょ、ちょっと前世の記憶が……」
朝礼が終わり、ヒメはユーネパパに連れられて畑に向かった。
同じサルミアッキ畑には、年配の女性が2人、作業員として割り当てられていた。
「あなたがヒメちゃん?私はオツボネよ」
「私はオコゴト」
「ヒ、ヒメです。よろしくお願いします」
ヒメが挨拶をしていると、ユーネパパが大きな大きな背負いかごを持ってきた。
「さあ、つづりさん。今日は収穫作業です。これを背負ってください」
「ま、まさかこれが今日のノルマですか?」
「はっはっは。まさか」
ユーネパパが朗らかに笑う。
「今日の午前中のノルマですよ」
やがて村の鐘が鳴り、収穫作業がはじまった。
「う…これは…かなりきつい」
サルミアッキ草(仮称)は、背が低い植物だ。
そこからサルミアッキを収穫するには、しゃがみ続けなければならない。
足と膝にかかる負担は、かなりのものである。
またサルミアッキはかなり強固に草部分にくっついており、それをもぎ取るのにも苦労する。
悪戦苦闘していると、オツボネとオコゴトの声が聞こえてきた。
「うわぁーとろいww」「お嬢ちゃん仕事わかる?ww」「あー、勇者さまにはむりかww」
無視無視。こちとら前世で似たようなこと体験済みだ。
それよりも仕事仕事。
しばらくすると収穫も軌道にのってきた。
自分の1列が終わり、他の列に移動する。
「お前なに歩いてるんじゃオイッッ!!!!!???」ユーネパパの怒声。
「はいぃ!」小走りで移動する。
もくもくと作業は続く。
「やぁ勇者殿。仕事はいかがかな」声をかけられた。村長だ。様子を見に来てくれたのか。
「あ、はい。なんとかなってます」
「そうかそうか」近寄ってくる村長。
「ところで、勇者殿はなんというか、背は低く顔も幼く、しかし出るところはしっかり出ており、
なんというか勇者にしておくのはもったいないですのぉ」
腰に手をまわしてくる村長。
「あ、あのー」
「よろしければこの村で、むこの世話などさせていただきますが、いかがかのぉ」
「結構です。失礼します」
かごを置いて脱出するヒメ。
手近にあった村のトイレに入る。
(ふぅ…)
ああ、この村は…完全にあれだ。
前世のあれだ。
つらい記憶がよみがえる。
(ああああ、最悪だよぉぉぉぉ……)
なんとか脱出する手段を考えなければ。それも早急に。でもどうやって。
トイレから畑に戻ると村長の姿は消えていた。
しかし肩を怒らせたオコゴトが待っていた。
「ヒメちゃん。お便所に行くのは班長の許可が必要なのですよ。わかっていますか!?」
「え、でも。ユーネパパさん、さっきからいないし……」
「いなければ副班長であるオツボネさんの許可をとるべきなのです。
まったく勇者という職業の方は、いつでも好きな時にどこでも入って、
荒らし放題だと思っているようですが、この村ではそうはいきません。
だいいち、あなたなんですかその格好は、農作業をやるという自覚が無いんじゃないですか?
あなたを育てた親の顔が見てみたいものですね。……!!……!!」
オコゴトの説教は一時間続いた。
「ふぅ…やっと作業に戻れる……」
「やあ、つづりさん。作業は順調ですか?」ユーネパパが戻ってきた。
「ん!?これだけしか収穫してないなんて、てめェいったいなにをしてたんだーッッ!!!???」
「お、お説教をされて……」
「言い訳するなーーッッッ!!!!」
ユーネパパは地面を踏み鳴らした。
「まったく最近の若い娘ときたら、どうしてこう仕事ができないんだ!!?
これなら森の耳長族でも雇った方が、まだマシだ!!
お前なんか拾ったのが間違いだった!!この食っちゃ寝だけの、のうなしめ!!!
村の資源を食いつぶすだけの寄生虫めがっっ!!!
全員、集まれ!!」
ユーネパパの号令に、畑の全員が集まってくる。
「ほら、全員の前でお前の反省点を言え」
「え、ええ……勝手におトイレに行ってすいませんでしたぁ…」
「声が小せぇ!!!!!たまついてんのかぁぁぁっ!!!!!????」
「勝手におトイレに行ってすいませんでしたぁ!!!!!!」
「よし、作業に戻れ」
その後も作業は続き、17時45分。終業の時間となった。
もちろん仕事がそれで終わるわけがなく『自発的園芸活動』により、ヒメが帰宅したのは21時だった。
「つかれたー」
ベッドに横たわるヒメ。
「おつかれさま」
ユーネが笑う。彼女にとっては、この村が常識であり全てなのだ。
今日の光景も日常の一部なのだろう。
「あ、ヒメ。ヒメの休日は、パパが13日後に申請しておいたから、あとで申請書を書いてね」
「あー、やっぱりそういうシステムね」
大げさに反応する気力すらない。
「ところでヒメ。外の世界って何があるの?お話してくれない?」
「んー。Vtuberって職業の人がいてね。インターネットっていう架空の世界で、たくさんの人に夢をプレゼントしてるんだ」
「???」
「次はユーネの番。この村の西にあるっていう"塔の森"って何?」
「モンスターが棲んでいる危険な森よ。真ん中に塔があって女神さまがいるの。
女神さまに会った人は、どんな願いでも一つだけかなえてもらえるのよ。
でも森が危険すぎて、誰もたどりついた人はいないの」
そ・れ・だ