このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

おとひめつづりのだいぼうけん

「さて、つづりさん。落ち着きましたかな?」
あの後、ユーネに支えられてユーネ家に戻ったヒメは、
仕方なくユーネパパにすすめられたサルミアッキと苦丁茶を食したのだった。

「おや、泣くほどお腹がすいていたのですか?」
「ふぁい。おいひかったでぇす」
もはやヒメの舌は麻痺し、鼻もなんだかよくわからない状態になっていた。
何度も戻しかけた。
しかし飢えと渇きが、まずさを上回ったのだ。
いかにまずかろうと食べ物は食べ物、飲み物は飲み物なのだ。

「ところで、つづりさん。
 村でお見かけしたことがありませんが、あなたは何者でいったいどこからいらしたのですか?」
さて。当然の質問ではある。
ヒメは迷った。
女神に異世界転移させられたと正直に言って、信じてくれるものだろうか。
あまり無用な疑いを招きたくはない。

「えーとぉ、ヒメはぁ、勇者でぇ、魔物退治の旅をしていてぇ、遠くの村から来ましたぁ」

その時、ユーネ一家に電流走る。
「つ、つ、つづりさん。そ、それは……」
「え、えっとぉ、またヒメ何か言っちゃいましたぁ?」
やばげな雰囲気に、頭をかいてごまかそうとするヒメ。

「つづりさん。今から村人全員を集会所に集めます。ぜひその話を詳しくお願いします」
なんだかすごいことになっちゃったぞ。


村の集会所には総勢100人以上の村人がつめかけた。
壇上に座らされたヒメは、かちんこちんに固まっていた。
同接数なら100人以上行ったことがある。だが、リアル村人100人ご対面は話が違う。
ヒメは隠キャである。コミュ障である。コラボは毎回いいとこなし。スプスタ内コラボすらろくにできぬ。
得意はオタク相手の独り相撲だけの内弁慶。リア友は指2本で数えられるほど。
ラインスタンプを買っても送る相手は家族だけ。
そんなヒメがこんな舞台に立たされれば、たまったものではない。
なお筆者のリア友は0人である。

村人の中から老人が進み出て言った。
「私は村長でございます。勇者殿。
 勇者殿は遠くの村より来られたとの話、まことでございますか」
「は、はひ…」
ヒメは息も絶え絶えでうなずいた。
村人がどよめく。

「して、その村はどの方角に!!」
村長が、くわっと目をひらいて詰め寄る。
「え、えと、その、ヒメ、そのぉ……」
顔を真っ青にして卒倒しそうなヒメ。

そこにユーネが声を上げた。
「ヒメは砂漠で遭難していたところを、花火の様子を見に行ったパパが見つけたんです。
 方角はヒメにもわからないと思います」
力いっぱい、ぶんぶん首を縦にふるヒメ。
また村人たちがどよめく。

「むぅ……」
村長が唸る。
「あ、あの、皆さん、何を、驚いて、るんです?」
ヒメが勇気を振り絞って尋ねる。

村長が語った。
「勇者殿。この村と西の"塔の森"、周りを取り囲む"無の砂漠"。
それだけがこの世界の全てだと、今日まで我らは信じて生きてまいりました。
砂漠を越えようと、どの方向に旅に出ても、行き当たるは目に見えぬ壁。
 その壁こそ世界の果てであり、ダメダ・メーが人間に与えた『定め』。
 しかし勇者殿は、我らが村の他にも村があるとおっしゃる。
 ならばそれは壁の外にあるに違いない。
 あるならば我らは行かねばなりません。壁の外へ!!」

うぉーー!!!そうだー!!!!村人たちが歓声を上げる。
ヒメはあうあうして何も口に出せなかった。
今さらウソでした、なんて言える雰囲気ではなかった。
それにしても、世界に村1つと森1つと砂漠しかないだって!? 
あのダ女神、またヒドい手抜き工事をしたな!!?

ユーネパパが発言した。
「つづりさんがここに入ってこられたということは、
 やはり壁のどこかに抜け道があるのではないでしょうか」
「うむ。だが問題は目に見えぬ壁の抜け道をどうやって探すかだ。
 直接ふれて探すしかないが、ただでさえ壁までは往復30日の命がけの旅になる。
 誰がそれに……」

「オレが行きます!!」
村人の中から紅顔の青年が進み出た。
「お前は、村一番の好青年ニーゼロ!」驚く村長。
「オレが行きます!!
 壁を越えて世界の外に冒険に出る!それが幼いころからのオレの夢でした!!
 行かせてください。壁の抜け道を見つけるまでは、決して村に戻らない覚悟です!!」
「しかしお前は、婚約者がいる身だろう!!」
「ニーゼロ!」同年齢程度の女性が村人の中から歩み出る。
「待っていてくれ。オレは必ず戻るから」
「ああ、ニーゼロ。私、いつまでも待ってる!」
村人たちの拍手が二人を包んだ。

「おっと、ニーゼロだけにいいカッコはさせられないぜ!」
村人の中から眼帯をした中年の男が現れた。
「お前は、村一番の好漢ンリンリ!」驚く村長。
「俺も行く。
 未知への挑戦ってやつを、他人に任せておけるほど俺は無欲じゃないんでね。
 絶対に壁の抜け道は俺が見つける。それまでは村に戻らねぇぜ!!」
「しかしお前は、妻と3歳の娘いる身だろう!!」 
「あなた!」幼児を抱きかかえた女性が村人の中から歩み出る。
「へっ。まぁ、ちょっと行ってくるぜ。みやげでも期待して待ってな」
「必ず…帰ってきてね」
村人たちの拍手が家族を包んだ。

「待った待った、あたしも行くよ!」
村人の中からバンダナを巻いた、ヒメと同年代の少女が進み出た。
「お前は、村一番の器量よしヤハマク!」驚く村長。
「あたしも行くよ。
 こんな楽しい話を、野郎ばっかりに任せとけるかってんだ。
 壁の抜け道を見つけて戻るまで、こんな村とはおさらばだよ」
「しかしお前は、ばあさんがいるだろう!」
「ヤハマク」車いすの老婆が村人の中から現れた。
「ばあちゃん。悪いけどちょっと留守にするわ。元気でね」
「あたしのことはいい。お前の人生を生きるんだ。行ってきな」
村人たちの拍手が二人を包んだ。

「俺も行く!」
ある若者が続いた。
「拙者の出番でござるな」
またある若者が続いた。
「おいどんに任せるでごわす」
またまたある若者が続いた。
「」
「」
「」
………
……


こうして多くの若者たちが、ありもしない世界の壁の抜け道を探しに、命がけの旅に出かけて行った。
ヒメのせいで。
ぜーーーんぶヒメのせいで。
ぜーーーーーーーーーーーーんぶヒメのせいで。

(み、みんなごめんーーーー!!!!!)
ヒメはただ心の中で謝りながら見送ることしかできなかった。
4/6ページ
スキ